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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
魔王城の日常
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魔王城にも雨は降る

お久しぶりです。

続きを待っている方には、大変お待たせ致しました。



 魔王城にも、雨は降る。

 まるで水銀を煮溶かした様な、ねっとりと艶めいた雨が。


「なんか、銀の雫みたい」


 銀河の部屋のテラスにて。

 クリュスの用意したお茶を飲みながら、レイヤは憂鬱そうに空を見る。

 自由に外を出歩けない忌々しさと、自然の美しさへの感嘆。

 その両方が込められた、複雑な表情。

「綺麗に見えるかも知れませんが、レイヤは外に出てはいけませんよ?」

 いつも通りに笑いつつ、クリュスが注意を促す。

「あら、私限定なの?」

「レイヤは人間ですからね」

「人間だと、何か問題があるんですか? クリュスさん」

「はい。この地に降る雨は、人間には有害なんです。銀河様」

「え。人間限定?」

「ええ。今から何代か前の魔王様が退屈しのぎに作った、勇者歓迎用の仕掛けの一つです」

「仕掛けって、空から降る雨に仕掛けなんてできるんですか」

「そう大した物じゃないんですよ? 浴びたら精々、24時間体が麻痺し続ける感じで」

「バッドステータス付与ですか。どういう仕掛けでそうなってるんですか?」

「それは、当時の魔王様だけの秘密です」

「うわー。絶対、クリュスさん知ってそう」

「銀河に同感ー」


 ふふふ…と、ミステリアスに笑う吸血鬼は何も答えない。

 答えないことが、一つの答えだと言わんばかりに。

 都合の悪いことには無言を貫き、クリュスは決して銀河に嘘をつかない。 

 苦笑で応えながらも、銀河はそんなクリュスの姿勢が何となくくすぐったかった。



「しかし、バットステータスとは困ったね。レイヤに何かあったら心配だよ」

 この様子では雨以外にも、何かしら思わぬ所で「対人間用」の罠がありそうで銀河は困ってしまう。特に勇者対策としての、洒落にならないモノが潜んでいそうな気がした。

 銀河は未だ良い。

 銀河は、魔王だ。

 この城に、この地方に何があろうと、それは銀河に悪意ある効果を及ばさない。

 何故なら銀河は、「魔王」になったが故に守られている。

 闇の加護と、魔物の恩恵によって。

 見に有り余り、溢れ出す、魔王としての魔力によって。

 だけど、レイヤは違う。

 レイヤは銀河と違って、ただの人間なのだ。

 そんな彼女がうっかり勇者用の罠にかかったらと思うと、気が気でいられない。

 魔王の歴史はとても長く、罠も事に寄れば数万年前のモノも稼働しているという。

 とても全ての罠は、クリュスさんであっても把握できていないという。

 そのどれかにレイヤが被害を受ける可能性は、低いとは言えない。

 しかしただの人間たるレイヤには、何の加護もない。

 もしも罠にかかったら、その時点で命を落としかねない。

 それは、銀河の本意ではない。

 そんなことになろうモノなら、怒りと悲しみに囚われて心を病むかも知れない。

 それが分かっているから、銀河は心配でならないのだ。


 …というわけで、そのことを有能便利な万能吸血鬼クリュスさんに相談してみた。

「成る程、つまりはレイヤ嬢が怪我をするのが嫌だということですね」

「それと、何の加護もないことと、どんな罠にかかるか分からないって事が不安なんだけど」

 この地は何の加護も持たない、只人が生きるには過酷すぎる。

 一応魔王の城で保護されている形だから目に見える影響はないが、それもいつまで続くとは思えない。早急に、銀河はレイヤの健康面で対策を立てる必要があるだろう。

 そんなことを、吸血鬼に相談した訳なのだが。

「そのようなことでしたか! それでしたら、銀河様にお勧めしたい大変良い品があるのですが」

「クリュスさん、何だか訪問販売の人みたいなものの言い様だね」

「訪問販売? 薬売りか何かですか?」

「うん。クリュスさんの考えている何かは、きっと僕の考えている予想とは時代が大きくずれている気がする。僕の家にも置き薬を売りに薬屋さんが来てたけど、それとは別かな」

「よく分かりませんが、私は何も銀河様にはお売り致しませんよ? お望みのモノが御座いましたら、何を置いてでも全て捧げます。献上です。ええ、何処の国の王冠だろうが、名人だろうが、偉人だろうが、遺跡だろうが、宗教上の秘宝だろうが、世界を股にかけてかっさらってきましょう」

「別に世界を股にかけなくても良いですよ、クリュスさん。大泥棒にジョブチェンジしなくても良いですから。それよりもレイヤの健康面が気になるんです。人間をより健やかに生活させやすくなる秘策か何かはありませんか?」

「ええ、ですからお勧めしたい品が御座います。こちらなのですが…」 

 そう言ってごっそごっそとジャケットの懐を漁り出すクリュスさん。

 出てくる出てくる、色々なモノがジャケットの下から出てきて銀河は目を見張った。

「ええと、どこにやりましたかね…」

「………お鍋に、ヤカン。セイウチの剥製に、象牙の胸像に、スズメバチの巣? 毛布、ナイフ、ランプ、ナイトガウン、マングローブの苗…? …………て、テント?」

 何が出てくるんだろうと不思議に思って手元を覗き込み、銀河は固まっていた。

 側近たる吸血鬼の懐から出てくるのは、どう見ても懐には収まらないモノばかり。

 こんな細身の身体の何処に、これだけ意味不明な代物を隠していたというのだろう。

 これだけ出てきたにもかかわらず、凹みも膨らみもしていない吸血鬼の服が謎だった。

 雑多に意味不明なモノが出てくるので、思わずレイヤと二人、固唾を呑んで見守る。

「あった、あった、ありました! 銀河様、ありましたよ。これです」

 暫く見守った後、ようやくそう言って吸血鬼が天にも届けと掲げたのは…

 古ぼけた謎材質の皮で装丁された、一冊の古書だった。


「あ、なんか…嫌な予感が………」


 表面には模様なのか文字なのか判別できない謎の装飾。

 分厚く重く、ずっしりとした金具で補強された謎の本。 

 この世界に渡ってきた時をあまりにも連想させるアイテムに、銀河の顔は若干引きつった。


 その古書、名前は「リシィの魔導書」

 遙か大昔、数万年も前のこと。

 三代目に当る魔王が造りあげたとの謂われを持つ、曰く付きの本。


 それは魔王にしか扱うことのできない、使用者によって大きく効果を変える本。

 それを上手く使いこなせるか否かは、その代の魔王の実力次第。

 吸血鬼はそこに、銀河の望みを叶える鍵があると言って手渡した。


 何故、魔王専用であるはずの魔導書を彼が懐に隠し持っていたのかは…

 誰も追求できずにいる内に、結局うやむやになってしまうのだった。




続きます。

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