6.牢獄の村娘3
クリュスさん、絶好調。
彼の本領は、このような奇行にこそ発揮されます。
うっかり自分の存在に不信を持っている内に、気付けば時間が過ぎていく。
それでも尚、囚われの少女は安らかにぐーすかぴーと眠っていた。
「………まあ、何にしてもとりあえず起こそうか」
銀河は気を取り直して、眠り込んだ少女の顔を覗き込む。
「あんまり手荒には起こしたくないなぁ」
石床の上に直に寝られるのだから、この娘の頑丈さは余程のものだと銀河は思う。
しかし観察してみると憔悴しているようだったので、どうするのか考え込んでしまう。
揺り起こしたり声をかけたりしても良いが、いきなり起こしたことでびっくりさせて、それで暴れられでもしたら厄介だった。
「どうやって起こそうか、クリュスさん」
「お困りですか? お困りでしたら、そんな時はどうぞこの私めにお任せを!」
指名を受けたクリュスが大張り切りで、ビシッとポーズを決める。
何となく悪い予感がした銀河の制止する暇とて挟む間もなく、彼は突然の暴挙に出た。
「さあ、うなれ叫べ轟け! 光を放て、我が両眼!!」
クリュスは勢いそう言うと、両目から凄まじい光りを発した。
「ファイヤー!」
そう叫ぶクリュスさん。
銀河はそのかけ声をどうかと思ったが、それでも凄いと思った。
吸血鬼の目から、懐中電灯よりもきつく、極彩色の光が一杯に放たれる。
異常なほどに明るい光は、サーチライトのごとく牢獄内を輝きに満たした。
「クリュスさん!? 吸血鬼って、こんな生き物でした!? 種族詐称してませんか!?」
暗いところでいきなり車のライトに照らされるよりもずっと、真夏の太陽を直視するよりも遙かに、吸血鬼の眼光(読んで次の如く)にはきついものがあった。色んな意味できつかった。
その光りのあまりの眩しさ、激しさに、一点集中で照らされて身じろぎする少女。それは眩しいという次元ではなく、痛いとか苦しいと言いたいほどの光りだった。苦悶の呻きが自然と漏れる。
「クリュスさん、その起こし方は全然優しくないし穏やかでもないよ! むしろ殴って起こすより、ずっとずっときついものがあると思うよ!」
銀河がそう叫んでも仕方ないかもしれない。
異常×異常+異常×異常の二乗=かなり異常と言いたくなるような、光りによる目覚ましで少女はうっすら目を開ける。そして開いた瞬間、あまりの眩しさに目が潰れかけた。
ぎゅうっと力一杯目を閉じて、少女はゆらりと身じろいだ。
「これは、一体何事!?」
娘が叫んでも、無理はない。
取り乱し、朝日を受けた吸血鬼の様に藻掻き出す。
実際には被害者が人間で、加害者が吸血鬼なのだが。
荒ぶる少女を銀河は宥めよう、恐怖に怯えないで良いことをアピールしようと、何とか優しく冷静な声を出してみる。
「だ、大丈夫! 怖がらなくて良いよ」
無理な相談だ。
しかし人の声に気が落ち着いたのか、少女は床に座り込む。
「一体、誰? 何が起きているの!?」
微妙に銀河を幽霊の一人だと思っているようで、少女の態度は親しげだ。
少女は未だ開けることのできない目を押さえながら呻いている。
「目を瞑っていても熱いし、眩しいんだけどっ そもそも、肌が凄くひりひりチリチリと焼けている気がするんだけど! むしろ、目が潰れそう! 肌が焼けて苦しい! 痛い!!」
今にも肉の焼ける臭いが漂ってきそうな程、少女の肌に焼き付けられるクリュスの眼光(笑)。
「大丈夫。大丈夫だから…!」
一体何が大丈夫なのだろうか。
銀河自身が己の言葉を信憑性皆無だと思っていた。
だが、それ以外に何と言えばいいのかが銀河には解らなかった。
いつまでもいつまでも、クリュスはしつこく目で照らしている。
いい加減に止めろよ。もう、ターゲットは起きてるだろ。
そのことに気付いて、銀河はクリュスの腕を掴んだ。
「クリュスさん!? 一体いつまでやっているんですか!」
クリュスの怪奇妖怪目玉光線は、黄色、白、ピンク、赤と色を変えながら娘の姿を照らし続けている。瞳の色関係無しに、眼光(笑)の色だけを変える器用さ。
「もう良いんですよ。もう良いから、その光を止めて下さい!」
「いやぁ、そんなことを言われましても。中々やり始めるといきなり止めることはできませんよ。ほら、よく言うでしょう? フタコブラクダは急には止まれない――ってね」
「えっ ラクダ!? 何故ラクダ? それを言うなら車じゃないの?」
「くるまってなんですか? エビの仲間?」
「一体何? 何なの! この物騒な光は貴方達の仕業なの!?」
怪奇目玉光線に照らされ続け、混乱する娘。
哀れな程に混乱する娘に、それでも銀河は大丈夫だと繰り返す。
見事なほどに、説得力が無かった。
クリュスがやっと光を止めた時には、既に大分時間が過ぎており…。
そこには慌てたり混乱したりで疲労困憊した銀河と娘。
その、ぐったりした姿があった。
「はしゃぎすぎですよ、お二人さん」
間違ってもクリュスにそんなことを言われたくはなかった。
ついつい向けてしまう、恨みがましい瞳。
それに対して、クリュスは綺麗に優しく微笑んでいた。
彼は吸血鬼という己の種族を無視して生きています。
もはや魔物というよりも妖怪だと、同族の間でも有名です。




