7 サファイアの涙
宝石店を出た帰り道。私は頭を抱えていた。
「ダイヤモンド以外って言われてもなぁ……」
「⋯⋯家にないの?」
涙が宝石になるからか、この世界は前世の世界よりは宝石はよくある方だけど、それでもやっぱり珍しい方だ。
特に、サファイヤやルビーなどの宝石を作れる人はあまりいないらしい。ダイヤモンドみたいに、一定の人しか作れないという設定だったはずだ。
「家にもないかもね⋯⋯」
(ごめんねぇぇっ! お菓子パーティー開けるくらいお菓子買いたかったけど、無理かもっ⋯⋯!)
通り過ぎるパン屋から漂う甘い香りを嗅いで、私はそう思った。今でも十分お金はあるけど、ドレス大量買いしちゃったし、ダイヤモンドを買い取ってもらうくらいじゃシエラちゃんを満足させるお菓子パーティー計画には全然足りない。
(お店を開けるくらいお菓子を買い占めるつもりだったのに⋯⋯ごめんねぇっ! シエラちゃん!)
私は心のなかで全力で謝ると、とりあえず家で探してみようと思った。
お母様に見つからないように、息を潜めて隠し通路から自分の部屋へ戻る。
そして、シエラちゃんと部屋に入ると、引き出しに向かって思いっきり走って、アクセサリーを漁りだした。
加工のされていない水晶のついた安物のネックレスや、小粒のアメシストのあしらわれた小さな指輪が出てくるが、サファイヤやルビーはなかった。
「あんまりないね⋯⋯」
引き出しの中のアクセサリーを探してみたけど、金属を使ったものが多くて宝石はあまりなかった。
水晶やアメシストだと、大きさも小さいし店主の欲しいものとはかけ離れているだろう。
ダメ元でもう一度中を覗いていると、あるものを見つけた。
「あっ⋯⋯」
すっと取り出したのは、やっぱり金属のアクセサリー。小さな青いガラス玉がついた、シンプルな銀のネックレスだった。でも、似ていた。
前世、大切にしていたアクセサリーに。
私は前世、高校生だった。シエラちゃんの出てくる小説に夢中だったけど、そんな私を心配して、お母さんが、誕生日に頼んでいた小説のグッズではなくアクセサリーを私にプレゼントした。
それは私の好きな青色のガラス玉がついていて、私が喜ぶようにと真剣に選んでくれたことが分かった。
私は文句を言いながらも、それを肌身離さず身に着けた。きっとお母さんが心配してくれていることが嬉しくて、なんとなく手放せなかったんだろう。気づいたらお気に入りになっていた。
(もうお母さんにも会えないんだ⋯⋯)
隣にシエラちゃんがいるのも忘れて思い出してしまった。
涙が頬を伝って、つうっと流れる。コロンと何かが転がる音がした。
「あっ⋯⋯! お姉様⋯⋯!」
「⋯⋯ん?」
目をこすりながら、目の前に転がったものを見る。
「⋯⋯サファイア?」
私は小説に宝石が出てくるので宝石にも割と詳しかった。毎回出てくる宝石について詳しく調べていたのだ。だからこれがサファイアだと分かった。
綺麗にカットされていて、光にあたって美しく光っている。
(え? 待って? シエラちゃんの涙のことは原作設定で知ってたけど、私の涙がサファイアになるなんて、そんな設定あの小説のどこにも書いてなかったーっ! そもそもサファイアって一定の人しか作れないって設定だったよね!? 私って実は結構すごい!?)
セイラの涙は、サファイアなんだ⋯⋯! っていうことは⋯⋯。
「これで渡せるね」
シエラちゃんがふんわりと微笑みながら言った。
(ぎゃあぁーっ! 可愛すぎるーっ! というか私この世界に来てから叫んでばっかり⋯⋯!)
「うん、お店の人が喜ぶね」
私は心の中の叫びを必死に抑えながらも、平然を装ってそう答えた。
「はぁ⋯⋯本当に持ってくるとは⋯⋯」
「ダメでしたか?」
「いや、こんなに純度の高いサファイアは初めてですよ」
話によると涙でできた宝石は、涙から宝石になる際に色々と不純物が混ざることが多いらしい。
「これが天然のサファイアか⋯⋯何も混ざっていなくて、美しいものだ⋯⋯」
(⋯⋯え? 店主さん何言ってるの? 涙ですけど⋯⋯)
「いくらで買い取っていただけますか?」
「大金貨三枚でどうでしょう?」
(本当に!? お菓子パーティー諦めてたけど、できちゃうかも!)
「ありがとうございます」
大金貨三枚を受け取ると、私は去ろうとする。
「待ってください」
店主に止められて、振り返った。
「このお嬢様の連れは、何者ですか?」
お読みいただきありがとうございます。




