8 店主の確信
店主に聞かれて、私はすぐには答えられなかった。
「えっと⋯⋯」
「一度フードを脱いでみてほしいのですが」
店主がぐいっと近づく。
シエラちゃんは命令されることに慣れているようで、すっとフードを外した。
店主ははっと目を見開くと、目をこすった。そしてもう一度シエラちゃんの方を向く。
「⋯⋯やはり」
「な、何でしょうか? 私の妹に何か用が?」
「⋯⋯妹?」
店主がこちらを見る。そしてシエラちゃんと私を見比べるように視線を交互に向けた。
「最初は髪色が同じなのだから姉妹だろうと思った。だが、よく見ると顔立ちはそこまで似ていない⋯⋯」
「⋯⋯何がいいたいのですか?」
私は一歩後ずさりながら言った。シエラちゃんも、私のスカートの裾をギュッと掴む。
「私は昔皇族に宝石のアクセサリーを売っていました。その時、一度だけ今の皇妃様に会ったことがありましてね⋯⋯白髪に青い瞳でした」
私ははっとした。店主の言いたいことが分かってしまった。
「お嬢様、あなたの連れの方は⋯⋯皇族ですか?」
(嘘でしょ!?シエラちゃん、原作ではただの不遇な女の子だったのに、現皇妃様の隠し子か何かってこと!?原作にそんな裏設定なかったよーっ!)
それに、皇族かなんて知らない。どっちでも、シエラちゃんはシエラちゃんだし。
「分かりません」
「⋯⋯そうですね、すみません」
店主はペコリと頭を下げた。
私は、シエラちゃんはシエラちゃんと言っておきながらも、シエラちゃんの正体について考えていた。
私は店主の視線から隠すように、大急ぎでシエラちゃんのフードを深く被せ直し、その小さな手を壊れ物のようにギュッと強く握りしめた。
店主は何も言わず、静かにもう一度頭を下げると、ドアを開けてくれた。
カランコロン、と寂しげに響くドアの鈴の音を背中に聞きながら、私は逃げるようにして、夕暮れの街へと飛び出した。
(危なかった⋯⋯! 心臓が口から飛び出るかと思った⋯⋯!)
「⋯⋯お姉様。私って皇族なの?」
「⋯⋯どっちでも、シエラちゃんはシエラちゃんだよ」
私が言うと、シエラちゃんが反省したように呟いた。
「お姉様⋯⋯ごめんなさい、私がフードを脱いじゃったから」
自分が悪かったと思ってシュンとしているシエラちゃん。
(違うの! シエラちゃんは悪くない! 全部あの詮索好きな店主が悪いんだよーっ!!)
心のなかで叫びながら、シエラちゃんの頭を優しく撫でた。
「ううん、シエラちゃんは何も悪くないよ。それに⋯⋯」
(そうだよ。どっちでも、シエラちゃんは私の大好きな、世界で一番可愛いシエラちゃん。たとえこの先、何が起こっても、私が絶対にシエラちゃんを幸せにしてあげるんだから⋯⋯!)
そう思っても、やっぱり恥ずかしくて口に出せない。
「それに、私は今のシエラちゃんで十分だから、店主さんの言葉なんて気にしなくていいからね!」
色々と考えていた言葉をすべて飲み込んで、ただそれだけ言うと、シエラちゃんはコクリと頷いた。
(可愛いっ!!)
私はそんな仕草にもキュンとしてしまった。
「し、シエラちゃん。とりあえずお金がたくさんあるし、お菓子パーティーの準備しようよ」
「⋯⋯お菓子パーティーするの?」
「うん! あっ、安心してね! ドレスもちゃんと買ってあるから!」
「⋯⋯ドレス買ったの?」
シエラちゃんが戸惑った様子で言う。
「うん! あっ、ちゃんといっぱい買ってあるから安心して!」
「⋯⋯いっぱい⋯⋯そんなに無駄遣いしていいの?」
そう言いながらも、シエラちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
(やめてーっ! ちょっと叫んじゃうから、しばらく笑うの禁止にしてもらおうかな⋯⋯いや、それも嫌だな⋯⋯)
私は変なところで悩んでしまった。
一方その頃、夕暮れ時の宝石店では、姉妹を見送った店主が、資料を読みながらぽつりと静かに独り言を漏らしていた。
「……あのお嬢様は、連れの少女が何者か本当に知らないようだな。だが、あの庇い方⋯⋯。評判の悪いあの侯爵家にも、あんなに妹想いの優しいお姉様がいたとは」
店主は、先ほど買い取ったばかりの美しいサファイアを愛おしそうに見つめる。
「白髪に青い瞳の血筋の家。⋯⋯あの方の忘れ形見が、まさかあんな冷徹な家で虐げられていたとは。これからは、あの店で出せる精一杯の価格で買い取って、少しでもあのお嬢様たちの力になって差し上げねばな⋯⋯」
店主は優しく微笑むと、大切に宝石を箱へとしまった。
だが、自宅の部屋でシエラちゃんを甘やかすお菓子パーティーの計画に胸を躍らせている私は、店主がそんな頼もしい味方になってくれたことには、まだこれっぽっちも気づいていなかった――。
お読みいただきありがとうございます。
7月21日と22日に投稿をお休みしますが、23日からはまた続けていきます。
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