6 店主の疑い
私はいつもの宝石店に行くところだった。
もう気づいたら常連になっていた。シエラちゃんの涙も一気に出すと驚かれそうなのでひと粒ずつ売っている。なので、もう少し通う必要がありそうだ。
まあ、毎回純度の高いダイヤモンドの原石を持って行き続けているので、逆に驚かれてしまうのだけれど、仕方がない。
それよりも大事なのは、シエラちゃんがお出かけについて行ってくれることだ。
「⋯⋯お姉様。今日も行っていい?」
そんな事を言われて、ダメというわけがなかった。
(そんなに可愛い顔でお願いされたら絶対に連れて行くに決まってるでしょーっ! 可愛いすぎでしょっ!)
シエラちゃんはドレスの裾をギュッと握りしめて、不安そうに、くりくりの瞳でこちらを見つめている。
「もちろんいいよっ! よーしっ! 変な人に連れて行かれないようにまた変装しようね!」
私はそう叫ぶように言った。
お母様に聞かれているかもしれないけど、このままじゃ私が倒れちゃうから、気分を切り替えないといけない。まあ、聞かれててもしょうがないよね!
(⋯⋯いや、だめだけどね)
「⋯⋯お姉様。今日もあれを売るの?」
「うん、そうだよ! シエラちゃんのお菓子も買おうねっ!」
「⋯⋯買わなくていいよ」
そう言いながらも、シエラちゃんは少し嬉しそうだ。
そんなシエラちゃんのために、今日もダイヤモンドを手にして、隠し通路を通って街に出た。
「⋯⋯お姉様は、いきなり変わった」
シエラちゃんがいきなりそんな事を言うので、私は思わず立ち止まった。
前から向かってきた人がぶつかりそうになって、文句を言って去っていく。
「お姉様は、何で優しくなったの?」
「⋯⋯」
言えない。だってシエラちゃんは、きっと心を入れ替えたとか、そんな事を期待しているんだろう。
意地悪だった「お姉様」を見ながら、シエラちゃんはセイラが「理想のお姉様」になることを夢見ていた。そんなふうに、原作に出ていた。
そんなシエラちゃんが、急に優しくなった私を見たらどう思う? あの「お姉様」が、心を入れ替えて「理想のお姉様」になったと思うはずだ。
本当は、違う人が転生してきただけなんて、絶対に言いたくない。本当はオタクが入ってきて、「意地悪だったのに優しくなったお姉様」のふりをしているなんて。
「⋯⋯私は、シエラちゃんが大好きだから。だから、優しくしてるの」
答えになっていないと思いながらも、私はそんな事を言った。
「⋯⋯そっか」
シエラちゃんは、ゆっくりと顔を上げる。そして、優しく微笑んだ。まるで、私を安心させるように。
そんな姉妹のやり取りを、街の雑踏に紛れた『誰か』が、じっと見つめていることには、まだ二人とも気づいていなかった――。
「すみませーん。また来ました!」
私が声を張り上げて言うと、店の奥から店主がやってきた。
「またお嬢様ですか。今度は何を持ってきたんですか?」
「また、ダイヤモンドです」
「またか⋯⋯嫌な訳ではないが、どうしてそんなに毎回持ってこられる?」
「ええと⋯⋯」
(この、隣にちょこんと立ってる可愛い妹が作ってくれてまして⋯⋯なんて、言えない⋯⋯)
ダイヤモンドは皇族しか作れないらしいから、そこがよく分からないので言わないほうがいいと思った。
「⋯⋯沢山持ってるので⋯⋯?」
「はぁ⋯⋯いくら価値があるとはいえ⋯⋯。皇族の涙以外ではほぼ取ることができないので、たまに、盗んでいるのではと疑われるのですよ、お嬢様」
「じゃあどうすればいいのですか!?」
私はカウンターに勢いよく身を乗り出しながら聞く。
「とりあえず、これも買い取りますが⋯⋯ダイヤモンドの原石を持っているのですから、他の宝石も持っているでしょう? 一種類でも多いほうが、こちらとしても助かります」
(持ってませんーっ)
ダイヤモンド以外がいいなんて、変わった人だ。でも確かに、ダイヤモンドばっかりこの店で売るよりも、いろいろな種類があったほうがいいんだろう。
「こちらが大金貨五枚です。次も楽しみにしていますよ」
(やめてー、そんな事言わないでくださいーっ!)
「もちろんです」
言ってしまった。
シエラちゃんは、少し心配そうな顔でこちらを見ている。
(ぎゃあぁぁー! シエラちゃん、そんな顔やめてーっ!)
そんな顔も可愛すぎて不安なのがどうでも良くなってきた。
「⋯⋯お姉様。どうするの?」
「とりあえず、家にあるアクセサリーから引っ張り出すしかないかな⋯⋯」
そんなふうに二人で相談し合っていると、店主はまた独り言を漏らした。
「⋯⋯間違いない。このお嬢様の連れは、あの方にそっくりだ⋯⋯」
――店主のその呟きが、この国の運命を大きく揺るがす合図になることを、私はまだ、これっぽっちも知らなかった。
お読みいただきありがとうございます。




