第27話 シエラの視点︰皇宮にて
皇宮は、やっぱり広い。
そして、もしかしたら、もう一生出ることができないかもしれない――。
そんな事を考えて、私――シエラ、じゃなくて、エレナは、窓の外を見ながらため息を付いた。
(お姉様は、どうしているのかな)
そんなことを思い浮かべてみる。あんなにいつも元気で、優しいお姉様だから、私がいなくても、元気にやっているんだろうな。
そう考えたら、少し悲しくなった。
(あ、でも⋯⋯)
でも、お姉様は、私といたら嫌な目にあってしまうかもしれない。この間だって、私のせいで、お母様が私とお姉様との仲を怪しんで、閉じ込められたり、怒ったりされていた。
お母様だって、私がいなくなって喜んでいることだろう。私は、掃除すらまともに出来ないのだから。
そう思うと、やっぱり、私が悲しくなっているなんて自分勝手だという結論になるのだった。
「エレナ」
声がして、振り返る。
優しい顔をして私を呼んでいるのは、皇帝――お父様だった。
「お父様」
「ご飯ができたようだ。お腹は空いたか?」
私は小さく首を振った。
「まだ、だいじょうぶです」
「⋯⋯そうか」
お父様は少し寂しそうに笑うと、手を振って部屋を出ていった。
ここ数日、ご飯は食べられていない。食欲も、ここに来てからは沸かなかった。
◇◇◇
お姉様はやっぱり、買い物が好きだから、今も街に行っていたりするのかな。
そう思って、街に行きたいとお父様に、さりげなく頼んでみたことがある。
すると少し申し訳なさそうな顔をして、言うのだった。
「エレナがまたいなくなってしまいそうで怖い。もう少し大きくなるまで、待ってくれないか」
どうしてもというのなら行ってもいいという雰囲気だった。なのに、大丈夫だと言ってしまった。
お姉様の家に会いに行きたいと言ったこともある。実際は、ただ、「お姉様、どうしているのかな」と独り言を漏らしてしまっただけなのだけど、お父様はそう捉えたようで、こう返事をした。
「あの家に行ったら、シエラがまた危険な目にあうかもしれない。あの子⋯⋯ええと、セイラだったか? 彼女に招待状を送ってみるよ」
そういわれてから少し経ったが、何もそのことについては言ってこない。恐らく、返事がないのだろう。
これがお姉様に会いたいという気持ちなのか、わからない。ただ、朝起きてもお姉様がいないと思うと、胸の奥が締め付けられるような、不思議な感じがした。
食欲はないけれど、このまま食べなければ死んでしまうといわれ、私は食堂にいた。
その時、お父様がこちらをじーっと見つめてきた。
「⋯⋯街に、行かないか」
その問いかけに、胸が高鳴るのが分かった。
街に行くということをあれだけ拒んでいたお父様が、街に行く提案をしてきた。
これは、大きな進歩かもしれない。
そう考えて、はっとした。
(私、街に行って何をしようとしているの?)
お姉様に会いに行こうとしている?
お姉様に会いに行って、何になるの?
私がいなくても、幸せでいるお姉様を見たら。
私は、立ち直れるのかな⋯⋯。
「⋯⋯大丈夫です」
「いいのか?」
お父様が、目を見開いた。
「エレナは、セイラ? に、会いたくないのか?」
「⋯⋯お姉様に会っても、何にもならないので」
私は、静かに席を立つと、部屋へ戻っていった。
◇◇◇
(お姉様は、きっと楽しく暮らしてる)
そう思っても、なぜかつらい気持ちのまま。
私の心は、何を欲しているんだろう。
愛? それなら、ここにもある。お父様は、私に愛を注いでくださっている。
じゃあ、なんだろう。
「あっ」
自分でこの間、言っていた。
『皇宮にはお姉様がいない。お姉様は、大好きな人だから、ずっと一緒にいたい』
私は、ただ、お姉様があんなにも優しくて、賑やかで、いい人で。あんなお姉様に、会いたい。
私を必要としてほしい。また、私の隣で笑っていてほしい。
それだけ、私は、お姉様を、必要としていたんだ――。
それに気がつくのが、遅すぎたのかもしれない。
私の頬に、熱いものが伝っていくのが分かった。
チリン、と、澄んだ音が響いた。
私は、落ちたものを拾い上げる。
お姉様にいつかわたして、一緒に何か買いたい。
そう思って、ダイヤモンドを入れていた袋。その中に、さっきの涙をそっと入れた。
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