第28話 シエラちゃんに会いたい
お昼ご飯を食べたあと。私は、アーシャの部屋に寄っていた。
「ねぇアーシャ、クッキー作れる?」
「そんないきなり⋯⋯」
アーシャはため息をつくと、首を左右に振った。
「クッキーという名前を知っているくらいだ。食べたことも作ったこともない」
「えっ!? あんなに美味しい食べ物を知らないの!?」
「奴隷だったからな」
(あっ⋯⋯そっか)
奴隷を売ったりしている人が、ますます許せなくなった。
(あんなにおいしいのに、食べさせてもらえないなんて許せないよっ!)
いつか、奴隷商の人たちを皇帝に訴えてやりたい⋯⋯!
でも、その前に。
「じゃあ、クッキー、作ってみない?」
私は、笑顔で言った。
私は、後ろに隠し持っていた袋を取り出す。
その袋には、街で、私の手持ちの宝石を使って買ってきた、お菓子作りの材料が入っていた。
◇◇◇
「まずは、粉とかをボウルに入れるみたい」
「これか?」
「⋯⋯うん」
私の曖昧な返事に、アーシャが首を傾げた。
「違うのか?」
「⋯⋯この世界のクッキーの材料が分からなくて、適当に買っちゃったんだ⋯⋯」
「⋯⋯ああ」
納得したような表情で頷くアーシャ。
(うまくいかない予感しかしない⋯⋯)
どうしよう、失敗する気がしてきた。
新しく買いなおそうかな? 今度は店員さんに聞いてみたりして⋯⋯。
そんなことを考えているうちに、アーシャが粉をどばっとボウルに入れてしまった。
粉がまっているキッチン。
今はお母様が外出中だから、お父様に頼んでこっそりキッチンを貸してもらっている。だから今は安心だけど、落ちた粉は帰ってくるまでに掃除しなくちゃだね!
(じゃなくって! 粉! 変な味になったらアーシャに食べさせられないーっ!!)
「こ、粉、全部入れちゃったの⋯⋯?」
「ああ」
(私、適当に買っちゃったって言ったよね⋯⋯?)
せっかくアーシャにクッキーを食べさせてあげようと思ったのに、無理かなぁ。
「なんとなく、大丈夫な気がするんだ、この粉」
(どういうこと!?)
私はすぐに心のなかで突っ込んでしまった。
でも、確かに、もうどうしようもないし、とりあえず作ってみようかな。
「じゃあ、手順通りにつくっていこうか!」
◇◇◇
「かんせーい!!」
「まあ、なんとかうまくできたな」
おでこににじむ汗を、わたしたハンカチで拭いているアーシャ。
その顔が、少し笑っている。
「よぉし! 味見だっ」
「味見って⋯⋯結局俺達が食べるわけだし、味見も何もないだろ」
「そっか! じゃあ、食べるぞーっ」
私はクッキーをひとつ手にとって、勢いよくかじりついた。
このクッキーはチョコ味にしたから、程よい甘さとちょっと感じる苦さが口の中に広がって、控えめに言うとめちゃくちゃ美味しい。
(うんうんっ、あの粉は合ってたんだね!)
私は頷きながらクッキーをぱくぱくと食べた。
そういえば、前もクッキーを食べたっけ。あのときは、シエラちゃんとウサギのクッキーを食べたなぁ。
あと、お菓子パーティーもした。あのときは、ケーキを食べたり、クッキーをトッピングしてみて楽しんだり⋯⋯。
本当に、いろんな事があったんだ。そして、その思い出には⋯⋯。
シエラちゃんが、いつも一緒にいた。
まだ、推し始めたばかりで、検索しながらWeb小説版の原作を読みあさって楽しんでいた時期も。
グッズを初めて買ったときも。
誕生日に、漫画版を全巻買ってもらったときも。
お金を貯めて、シエラちゃん柄の枕を買ったときも。
ずーっと、何かしらの形で、シエラちゃんとずっと一緒にいたんだ。
そして、今は。
シエラちゃんは、いない。
いつ会えるかも、わからない。もう会えないかもしれない。
ころころと、硬いものが転がっていく音がした。
「あ⋯⋯」
「⋯⋯お前」
アーシャが、私の顔を覗き込んで、目を見開いた。
「宝石の、涙⋯⋯」
「私⋯⋯シエラちゃ、んに、会いたい。会い、たいの⋯⋯」
私がとぎれとぎれに言葉を紡ぐのを見て、アーシャは優しく背中をとんとんと叩いてくれた。
◇◇◇
「落ち着いたか?」
「⋯⋯うん」
私は目をこすった。
そして、新たに決意する。
「私、絶対にシエラちゃんを、取り返す!」
皇帝は別にシエラちゃんを誘拐したわけでも何でもなければ、悪い人でもない。だから、取り返すという表現は、少し変だったかもしれないけど⋯⋯それでも、私は、そのくらい強く、シエラちゃんに会いたいと思ったんだ。
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