第13話 フィオナ
「もう少しここにいてくれるか?」
「はい」
皇族に逆らうのもと思って、私は答えた。
(っていうか⋯⋯原作でも一瞬出てきたよね? 漫画版ではすごい怖い顔してたけど⋯⋯)
とても穏やかな表情だ。
シエラちゃんに会ったからかな?
「こっちに来てくれるか?」
皇帝はシエラちゃんを優しく呼んだ。
シエラちゃんは少し戸惑いながらも、ゆっくりと皇帝に近づく。
「エレ⋯⋯シエラ、母さんのことを知りたくないか?」
「⋯⋯お母様を?」
シエラちゃんは困惑している。
お母様を知りたくないかと言われても、お母様のことは知っているからだろう。
でも、私は何となく意味がわかる。
(きっと、お母様はシエラちゃんの本当のお母さんじゃないんだよね)
皇帝の妻の人が、本当のお母さんなんだろう。その人のことは、私も少し気になっている。
「こっちだ」
皇帝は、部屋に案内してくれた。
「ここだ」
皇帝は、部屋に入るとそう言った。
そこには、優しくてほっこりするような空間が広がっていた。
具体的に言うと、壁に可愛らしい絵がかけてあったり、ベッドのクッションの色味が柔らかかったりというところだ。
やさしい人が過ごしている部屋だと、何となく分かる。
「ここは妻の部屋だ」
「えっと、入っちゃって良いんですか?」
「ああ」
(いや、ちょっと抵抗あるんですけど⋯⋯)
そう思いながらも、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「わぁ⋯⋯」
シエラちゃんが声を漏らす。
それもそのはず。さっきまでは見えなかった角度に、大きな絵が飾られていたからだ。
その絵には、美しい人が描かれていた。
「この人は?」
「妻だ」
「へぇー……」
思わず声が漏れてしまった。
シエラちゃんも嬉しそうに微笑んでいる。
「それで、本人は?」
「……」
皇帝の顔があまりにも寂しそうで、私はハッとした。
もしかして、シエラちゃんのお母さんって……。
「妻は、死んだんだ」
「……!」
(余計なこと聞いちゃった……)
「すみません、知らなくて」
「まぁ、そこまで大きな事件だったわけでもないから仕方ないだろう」
皇帝は寂しそうに言った。
「妻や子がいなくなっても、また次を見つければいい。そんな感じだった。特にエ……シエラは女だったから、最悪の場合いなくてもいいみたいな空気だった」
「そんな……」
シエラちゃんは、小さく俯いている。
(いなくてもいいなんて、誰でも許されないよっ!)
「じ、じゃあ、あなたは新しく妻を娶ったんですか……?」
皇帝と呼ぶのも少し変な気がして、私は「あなた」と言った。それはそれで失礼な気もするけど、私は別にいい。
「いや、フィオナ以外を娶るつもりはない」
フィオナというのは恐らくシエラちゃんのお母さんの名前だ。
「エレナとフィオナは、私の宝物なんだ」
皇帝は、その時のことを話してくれた。
私は、ただ父が皇帝だっただけで、何の才もなかった。皇帝に選ばれるわけがないと、思っていた。
だが選ばれたのは私だった。当たり前だ、私以外男がいなかった。
消去法で、私が皇帝になった。
私は焦った。自分が皇帝になんて、と。
だからだろうか、しばらく嫌だと言って引きこもった時期があった。
そんなある日、父が死んだ。私はいつの間にか皇帝の座に立たされていた。
適当に、投げやりに過ごしていたとき。
フィオナがやってきたんだ。私の教育係として。
同い年の人が教育しに来るなんて、子供に見られたものだ、とは思った。
だが、気づかされた。投げやりに過ごしていたときの行動は、子供みたいだったと。
そう教えてくれたのも、フィオナなんだ。
気がついたら惹かれ合っていた。
そして、子供が生まれた。フィオナは、その子を「エレナ」と名付けた。
一ヶ月は大事に育てていた。だがある日、庭に連れて行って花々を見せていたら、突然行方不明になったんだ。
私たちは一生懸命探した。それでも見つからなかった。
◇◇◇
(フィオナさんとも、シエラちゃんとも、思い出があったんだね)
「聞かせてくださりありがとうございます」
「ありがとうございます」
私に続いてシエラちゃんが言った。
「もう帰っても大丈夫ですか? そろそろ帰らないとお母さんに怪しまれます」
「母⋯⋯そうか、別で母がいるのか⋯⋯いや、なんでもない。帰っても大丈夫だ」
皇帝はそういうと、帰り道を示してくれた。
「ここを抜けると大きい通りに出るからね」
「はい」
私は言われたとおりに帰った。
シエラちゃんは俯いている。
「どうしたのっ、シエラちゃん!」
「⋯⋯どうもしてない。ただ、私はなんであの家に⋯⋯」
「ん? 何ていった?」
「⋯⋯なんでもないよ」
シエラちゃんはぱっと顔を上げると、顔を思いっきり左右に振った。
(ふるふるしててかわいいーっ! でもシエラちゃんのちっちゃい顔がとれちゃうーっ!)
そう思いながら、私は必死にシエラちゃんを止めた。
シエラちゃんの心配に、気づくことができなかたった。
お読みいただきありがとうございます。




