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異世界召喚ですり抜け扱いされた俺が、実は魔王であることは誰にもバレていない  作者: コータ


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瞬殺

 彼女は大空に浮かんでおり、男のいる神殿から十キロは離れた位置にいる。


 つい先ほどやってきたばかりの少女——ルナは、子供が襲われている現場を見つけるなり、すぐに槍を投げて助けに入っていた。


 彼女はその後、卑劣な魔法の使い手を探して周囲を見渡していた。


 まるで宝石を埋めたような瞳が、濁りきった目をした男を見つけたのはまもなくのことである。


「うへえ……まだあどけないが、ありゃいい女だな。楽しみだ」


 ウォルフガングは見つけた当初こそ面食らっていたが、今は落ち着きを取り戻し、ただ痛ぶる対象が変わっただけ、そう考えるようにした。


 彼はすぐに行動に移す。十キロも離れた位置にいるというのに、魔法陣はルナの近くに当たり前のように現れる。


 そして彼女が目にした瞬間には、槍は猛烈な勢いを持って飛びかかっている。


「……ん? ん? な、なんだ」


 だが、またしてもウォルフガングの予想は外れた。驚いたことに、少女はその槍を手で掴んでしまったのだ。


 死の槍は極めて厄介な飛び道具として知られており、触れただけで即死または呪いを受けるはずだった。


 しかし、ルナは特に変わった様子がない。


 そのまま手にした槍を振りかぶると、真っ直ぐにこちらへと投げてきた。


「あん? 即死も呪いも効かないのかよ」


 ウォルフガングは少々戸惑いを感じていた。ただ、流石に槍を投げたところで、ここまで届くはずがない。


 たかを括っていた彼は、次はどう仕掛けてやろうかと、そればかりを考えて目を逸らしていた。


 だが、やがてとんでもない事態を迎えてしまう。


「うぉおおお!?」


 彼は信じることができなかった。


 爆音が轟き、破壊されるはずがない結界が一気に貫かれて崩壊した。


 こちらに到達する前にあっさり落ちるはずだった槍が、神殿まで到達していたのである。


 しかも、尋常ならざる速度を持って。


「……あり得ねえ。あの女! クソが! なら本気でやってやる」


 異世界であらゆる不思議を経験していた彼は、気持ちの切り替えが早い。そうでなくては生きられない世界でもある。


 あの少女を侮ってはならない。油断すればやられる。


 死の危険を感じたウォルフガングは、ここで一切の油断をやめ、全力で相手を叩き潰すことにした。


「お前の敗因は、俺に脅威を感じさせたことさ」


 彼は立ち上がり、これまでにないほど魔力を増強させていく。


 目を見開き、両手を前に突き出し、身体中から青白いオーラを噴出させる。


 一方ルナは、軽量のプレートメイルにいくつかぶら下げている、キーホルダーのような小物を手に取った。


 続いて赤い光が発せられ、小物はみるみる大きさを増し、一本の大剣へと姿を変えていく。


 これも彼女の力の一つであり、物体を武器に変えることができる魔法だ。戦乱の世においては、武器防具は消耗品であり、何度か使えば必ず壊れてしまう。


 その点をカバーするべく、ルナは自らがよく知っている武具を想像して生み出す魔法を習得していた。


「ハハハ! 無駄だ無駄。今更そんなものを用意しても遅い、遅すぎる!」


 男は勝ちを確信している。やがて大空に浮かぶ少女を包囲するように、所々に魔法陣が浮かび上がった。


 その数たるや、なんと百近い魔法陣が全方向に出現したのだ。


「もうお前は逃げられないぜ。なあ、泣いて許しをこうか? 俺の奴隷になるっていうなら、聞いてやってもいいけどよ。あ、あーそうだ。この距離じゃ聞こえねえか」


 既に勝利は確実だ。そう感じたウォルフガングは、いやらしい笑みで獲物を見つめていた。


 事実、この囲みは彼にとっての奥の手であり、脱出できた者など一人もいない。これまで必ず、対象を絶命に追いやってきた秘策なのだ。


 魔法陣に包囲されたルナは、前を見つめたまま動いていない。ただ、彼女の背中に光る粒子のようなものは、明確な変化が始まっていた。


 光がより集まり、徐々に背中を飾り立てていくようだった。あっという間に光は黄金の翼へと変わり、少女は神々しい空気を纏う。


「ふん。何をしたって、これは防げねえ。かわせねえよ」


 男は渾身の魔力を両腕から放ち、唸った後で叫んだ。


「死ねえ! クソガキが!」


 彼の全力を伴う攻撃は、すぐに遠く離れた魔法陣に動きをもたらした。黒い槍が次々と、若干の時間差を持って獲物へと飛んでゆく。


 この時間差により、多少の回避ができた場合の対策を取っている。槍は俊敏に獲物を狙うものと、ある程度自動追尾ができるものに別れていた。


 百近い魔法陣がこの連携で襲いかかった時、誰もが肉塊になるまで貫かれる地獄を味わうことになる。


 彼の最大限の攻撃であり、瞬殺確定の瞬間。


 槍が飛ぶと同時に、ウォルフガングは笑っていた。至福の瞬間であり、彼が多く成し得てきた殺しの中でも、今回は特に素晴らしい感動をくれるはずだ。


「ああ、堪らねえな。でも悲鳴が聞けないのは——」


 悲鳴が聞けないのは残念だ。


 そう独り言を漏らそうとした矢先のこと。突如視界が急転したのである。


 一瞬だが、自らの胴体から下が見えた気がする。ゴロゴロと転がり続け、彼はあっという間に大地に落下した。


「ぶげえっ!? い。いてええええ!」


 ウォルフガングはもがき苦しんだが、体が思うように動いてくれない。口から血が吹き出し、意識が朦朧としてくる。


 悲鳴を上げながら、極度の混乱状態に陥った彼は、確かに見た。


 黄金の翼を生やした可憐な騎士が、屋根の上からこちらを見下ろしているのを。


「う、う、嘘だ。あの距離から……? 嘘だぁああああ!」


 少しして、胴体から下が彼の側に転げ落ちてきた。


 認めざるをえない。瞬殺されたのは自分だったということを。


 それはプライド高き魔人の心を、容赦無くズタズタに切り裂く真実であった。


 心身ともに地獄の苦しみを味わった末に、ウォルフガングは絶命した。


 ルナは彼に何も答えることなく、すぐに次の目的地に向かう。


(ギルス様、どうかご無事で!)


 彼女にとって、ウォルフガングはこれまで倒してきた下衆の一人に過ぎない。


 だが、子供を狙う姿を見て放置することはできなかったし、挑まれれば受けて立つのが彼女であった。


 神速の騎士は、自らが仕える主のことで頭がいっぱいになっていた。


 ◇


 ギルスは白い輝きの中に身を委ねていた。


 この先をゆけばどうなるのか。それは誰にも分からない。後ろを見れば、ドローンもちゃんと付いて来ている。


(異世界から地球に戻ってきて、そしてこれから何処に向かうのだろう)


 マリアベルはこの先にある、何かを強く強く欲していた。それが何なのか、ギルスもまた強い関心を持たずにはいられない。


 どれほど歩いただろうか。白い世界の先に、何かが見える。どうやら草原のようだ。


 それから五分とかからず、彼とドローンは見覚えのない草原へと辿り着いていた。


 青く美しい空が広がっている。どうやらここは、ギルスがいた異世界ではない。


「あれは……」


 草原の先に見えたものに、彼は珍しく驚いていた。


 青いクリスタルに包まれた宮殿のような何かがある。壮大な大きさを誇るそれが、マリアベルの目的と関係があるのではないか。


:ここ、どこ?

:眩しかったぁー

:へ?

:何だこの世界?

:あのデッカい建物はいったい……

:すげーワクワクしてきた

:ファンタジー過ぎてビビる

:俺知ってる。あの先にとんでもないボスがいるんだ

:この配信は歴史的価値がヤバいことになりそう

:めっちゃ穏やかな場所っぽいけど

:マリアベ姉さんはあの超デカいクリスタルにいるの?

:これから何が起こるんやろ

:き、緊張してきた

:ギルスはいつも淡々としてて凄い。俺なら漏らしてる

:応援してるぞ!!

:頑張ってー

:やっぱ主は落ち着いてんな

:いけー!

:いよいよボス戦!?


 視聴者達は、未知の映像に興奮しているようだった。同接は四千五百万にまで跳ね上がり、史上初の数字を叩き出している。


 しかしそんなことなど知らない彼は、特にドローンを気にかけることもせず、クリスタルの元へと向かう。


 一飛びでクリスタルの元へと向かったせいで、ドローンは彼に追いつくのに長い時間を要することとなった。


 しばらくの間、視聴者達はドローンの空中散歩を眺めるという時間を過ごした。これもまた未知なる発見に溢れているのだが、人によっては退屈だ。


 ただ、それもまた良い休憩になったかもしれない。


 この後に映し出された映像は、彼らをこれまで一番驚愕させることになったのだから。


 クリスタルパレスに辿り着いたギルスは、いよいよ最後の戦いへの一歩を踏み出していた。

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