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異世界召喚ですり抜け扱いされた俺が、実は魔王であることは誰にもバレていない  作者: コータ


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聖剣

「え、ちょっとタダオっちー。それ召喚のボタン? だよね」


 司会となり場をまわしていたエイリーンが、祭壇の異変に気づいた。


 主役の男はただならぬ変化に戸惑い、彼女の質問への反応が遅れた。


「あ……あー! そうなんだ。これは以前も話していたとおり、特別仕様の召喚チケット! だから、こんな風に変化してるんじゃないかな」


 適当に返答しつつ、目は黒い炎に釘付けになっている。


 百木や黒道も異変には気づいていたが、二人の心は自分のことだけでいっぱいである。


 二人とは違い、異世界から帰ってきたエイリーンは、奇妙な違和感に敏感になっていた。


 あの世界で経験した数々の不思議な体験や恐怖が、脳裏を過ったからである。


「ちょっとこれ、やめた方が良くない? なんか怖そう!」

「……やめる? いやいや、なーに言ってんだよ。ここまできて、止めてもしょうがないっしょ」


 黒道が焦って割り込んだ。すでに同接は五百万を超えている。恐らくこのまま増え続ければ、タダオチャンネル史上最も高い数字を叩き出すかもしれない。


 そうなれば臨時ボーナスが貰える可能性が高い。そこを黒道は狙っていた。


「そうそう。特定の誰かを呼び出すためのチケットなんだよね? 早く地球に呼び戻して、助けてあげないと」


 百木が黒道の発言に賛同した。彼女もまた、タダオからのボーナスを期待していたのである。


「そ、そかなー。ねーえ、タダオっち」

「勿論やる! 随分と待たせちゃったね。じゃあみんな、異世界召喚を始めよう」

「「「ウェーイ!」」」


 百木や黒道、他のダンジョンインフルエンサー達が拳を突き上げた。台本どおりの動きだったが、エイリーンだけが遅れてしまう。


(え、ガチで? 見るからに不吉ー! 本当にするの?)


 司会の焦りなど気づきもしないタダオは、カメラの前でこれ以上ないキメ顔を送った後、スタイリッシュな動きを意識しつつ右手を伸ばした。


(さあ来い、俺だけのSSハイスベ探索者!)


 そしていよいよ、指先が燃え盛るような黒い何かに微かに触れた。


 タダオは異世界召喚に慣れており、次に起こるであろう演出は理解している。だが、彼の予想したものではない変化がすぐに現れた。


「お、お? おおおおおお?」


 突然右手が吸い寄せられ、磁石のように黒い炎に捕まってしまった。黒い何かは猛り狂うように勢いを増し、スタジオ内に明滅が訪れる。


「きゃー! な、なになに、これ召喚?」


 エイリーンの悲鳴すら微かにしか聞こえないほど、スタジオには轟音が響いた。


 これまで世界中で行われていた異世界召喚とは、根本的に異なる何かが始まろうとしている。


「す……すげえ。これは歴史に名が残るぞぉお!」


 タダオはこの現象を好意的に捉えていた。


 彼だけではない。黒道と百木、それからダンジョン探索に詳しいとされるインフルエンサー数名も、貴重な体験の場に巡り会えた……という程度にしか考えていなかった。


 続いて一つの魔法陣が現れ回転を始める。ここはいつもの召喚と変わらない。


 しかし、魔法陣からゆっくりと姿を現したそれは、明らかに異常そのものであった。


 異世界召喚によって帰還した人間は、決まって立ち上がった状態で転移される。だが今回召喚されたそれは、地面に寝そべっていた。


「す、すっごい! なんか寝てるじゃーん。え……」


 エイリーンの瞳には、それはホラーそのものに映った。そして彼女は後退りながら、悲鳴をあげてしまった。


「待って! その人死んでる。死んでるよぉ!」


 彼女の一言にスタジオが凍りつく。そう、召喚された何かは、明らかに生者には見えない。


 それはまさにミイラであった。痩せ細り、原型が崩れていたそれは、何かを大事そうに抱えている。


「な……なんだよ……これは」


 ようやく黒い炎から解放されたタダオは、あまりの事態に愕然としている。


 ふと祭壇に目を向けると、一枚の帰還者カードが落ちていた。


「な、なんだあ! 誰も描かれてないぞ!」


 タダオの叫びが響いた時、黒道が魔法陣へと恐る恐る近づいていった。


「これ……剣じゃん?」


 黒道に続くように、百木やゲスト達がそれに寄っていく。ミイラは確かに、剣を大事そうに抱えている。


 その剣は全てがただ白く、飾り気がないロングソードであった。ただ一つ、普通の剣とは異なるものがあるとすれば、鍔にあたる部分が奇妙な形になっていることだ。


 何かの鉄格子を思わせるような、妙な模様と形になっている。


「ガチ衝撃ー! 剣を持ったミイラさんが、呼ばれちゃったみたい。もしかして、帰還するのを待っていたのかも……」


 エイリーンは喋りながら、悲しい気持ちになった。恐らくこのミイラになった人は、地球に帰りたいという思いを抱いたまま、死んでしまったのではないだろうか。


 ただ、このような事例は初であり、彼女が思ったことは憶測に過ぎない。


 タダオはふらつく足取りで、ミイラの前にやってくると、何もいえずただ呆然としてしまった。


(なんで死体が召喚されるんだよ。こんなもんあり得ねえ。いや待てよ、もしかして俺の配信……過去一でバズってねえか?)


 ふと同接を確認すると、すでに一千万を超えるという、未曾有の大ヒットとなっていた。


(バズってんじゃねえか! だったら悲観することはない。それに……あの剣……)


 彼の目にはミイラの剣が、ファンタジーに登場する聖剣のように映った。


(ミイラが持ってんのは気味が悪いけど、異世界なんだからそういうこともあるんじゃね。実は伝説の剣だったり?)


「タダオっち、どうするの? ダンジョン庁の人、呼ぶ?」


 エイリーンの発言は、これを事故と判断してのものだが、彼にとっては論外であった。


「みんな待ってくれ。これはきっと聖剣だよ。あのチケットは仲間を呼び出すわけじゃなくて、異世界の武器を授けてくれるものだったんだ」


 配信を視聴している人々は、この発言に様々な反応を示した。


 前代未聞の歴史的な瞬間だ、武器が召喚されるなどあり得ない、警察かダンジョン庁に処理を頼むべきだ。


 ありとあらゆるチャットが書き込まれていく中、スタッフ達も騒然とし、混乱が広がっていく。


「可哀想に。私の神聖なホーリーで浄化してあげましょう」


 ここが撮れ高だと嗅ぎつけた百木が、前に出て魔法の発動準備をしている。しかし、タダオが腕で制する。


「待て。この剣を貰ってからだ」


 彼は百木を止めると、一歩、また一歩とミイラに近づく。ついに目前に迫ると、静かに腕を伸ばした。


 まるでどこかの王家にでも飾られていたかのような、白い輝きに魅せられて。


 握りの部分に手をかけてみる。掴んで引っ張ろうとしたが、ミイラが抱えているせいで上手くいかない。


(めんどくせー。もう死んでるんだし、手とか腕とかへし折って……え?)


 ふと彼は正面……つまりミイラが寝そべっている所から何かを感じた。


 それは確かに見えた。原型が崩れかかっているミイラの顔部分から、異様なほど大きな瞳が開かれ、こちらを凝視した。


「う、うわぁっ!」


 タダオは悲鳴をあげて後ずさった。


「だ、大丈夫ー!?」


 エイリーンが側によると、彼は額に玉のような汗を吹き出していた。ずっとミイラから目を離すことができない。


 だが、ミイラの瞳はもうなくなっている。


「あ……」


 そして気がついた。タダオの右手には、白いロングソードが握られている。あの瞬間、手を離した気がしたが。


 同時に彼の視界が、ゆっくりと歪み始める。続いて心の中に、優しげな囁きが聞こえてきた。


『ようこそ。貴方と出会うこの時を、わたくしは待っていました』

「だ、誰だよ……」


 スタジオの喧騒が遠くなった。ゲスト達の動きが遅くなった。頭がぼんやりとしてくる。


『わたくしは、貴方の本当の価値を知る者。貴方を楽園に招く者。そしてこの剣に囚われし、神との出会いを授ける者』


 彼はいつの間にか、まるで女神のような声の主に魅力を感じていた。


 そして彼女に囁かれるがまま、神に出会うための道に進むことになる。

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