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異世界召喚ですり抜け扱いされた俺が、実は魔王であることは誰にもバレていない  作者: コータ


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即死

 タダオ達の配信がブラックアウトした。


 この事実は視聴者達を騒然とさせ、安否を気遣う声が増えていく。


 そのような状況となった時、最も近くにいた探索者の同接が急増したことは、不自然な話ではなかった。


 ギルスの同接は一気に三百万を越え、国内のみならず海外からも大きな注目の的となっている。


 彼が地下十七階にたどり着いた時のことだ。


【十】


 なんとフロアに到着した瞬間に、死へのカウントダウンが始まったのである。


 彼の目前に一瞬だが、鎌を手にした死神が現れた。


:ちょ

:え? カウントダウンもう始まってね?

:姿も見えないのにカウントとか横暴すぎるやろ

:ボスの場所、ここから遠くなかったっけ

:一回戻ったほうがいいよ。リセットできる

:えええええー

:ヤバいヤバい

:さっきタダオの配信見てたけど、これマジで怖い

:逃げて!

:これ即死攻撃ですよ


(カウント十からか。随分呑気だな)


【九】


 だが、ギルスは特にこのカウントを気にしている様子はない。


 これまでと変わらずの進行速度でダンジョンを進む。


【八】


 ダンジョンバトルの難点として、後続のほうが魔物が強くなる傾向があった。


 探索者を逃した魔物は、往々にして興奮状態となり、その後にやってきた者には即座に攻撃を加えてくる。


 今回のカウントダウンなどは最たる例であるが、姿を視認できない状況から発動させられる魔物は少ない。


 今彼が迫ろうとしている存在は、ただの亡霊ではなかった。


【七】



【六】



【五】


 ゆっくりとカウントは進んでいく。


 ギルスにも聞こえているが、今のところ何も変わった様子はない。


 他の魔物はいないため、軽快に奥へ奥へと進んでいた。


【四】


:これ間に合わなくね!?

:逃げてええええ

:倒せるか?

:けっこうギリギリになってきた気がする

:このペースだと部屋に着いた時カウント終わる

:ひいい

:ライブとかいいから、ダッシュで倒しに行って!

:これあかんやつだ

:観てるのが怖い

:死のカウントダウン知らないんですか?

:ギルスー!

:怖い怖い怖い


【三】


 視聴者達はもう気が気ではない。


 彼は初見のため、この即死魔法の恐怖を知らない。そう考えている視聴者も多くいた。


 だからこそ、チャット欄は悲鳴で溢れていく。


【二】


「ここは案外短いようだ。階段が見えた」


 カウントが残りわずかとなったところで、ギルスはボスがいる大部屋へとたどり着いた。


 そして彼の前に、体が透けた醜い悪霊が姿を現した。


【一】


 とうとうカウントは一となった。


 ぼんやりとした顔でやってきた獲物を、彼女は満面の笑みで迎える。


 彼女には物理攻撃が当たらない。その強みを自身でも理解しており、死を待つばかりの男を嘲笑っている。


 彼女はデスクイーンと呼ばれる魔物で、天敵である聖属性にすら耐性を持つ怪物だ。


 よほど聖なる力を高めた者でなければ、彼女を倒すことは難しいとされている。


 百木リリ程度では、元々歯が立たない相手である。


 悪霊の女王は笑う。先ほどの敵を逃したことに苛立っていた彼女は、すぐにもっと上等な獲物を見つけることができた。


 魔物の中でも優れた魔力検知能力により、遠くから即死魔法を放つことができる。


 呑気な男は死ぬ姿を見せるために、わざわざ目の前まで来てくれた。彼女にとってこれほどおかしいことはなかった。


:終わった

:ギルさん……

:もう無理だろこれ

:まさか死亡配信になるなんて

:知らんかったんが不味かったわ

:即死魔法の知識は必須

:悲しい

:ギルスー!

:あ、兄貴

:どうしよう。もう泣きたい

:あんなに無双してたのに

:助かってほしい

:死ぬな

:ああああ

:画面見れないよ

:こんな終わりってあり?


 視聴者達はパニック状態になるか、もう諦めているかのどちらかだ。


 無理もない。どう考えても間に合わない状況に陥っている。そしてカウントは無慈悲に進む。


【零】


 とうとう視聴者が恐れていた瞬間がやってきた。


 彼の前に巨大な黒い死神が現れ、魂を奪い去ろうと高笑いをする。


 目前の光景に、デスクイーンは幸せを感じた。久しぶりに人間を狩れる、その喜びで心をいっぱいにしている。


 しかし彼女の幸せに満ちた瞳は、理解しようのない異変によりその色を変えていく。


 死神が恐怖と苦しみで悶絶している。


 骸骨の顔が歪に折れ曲がり、やがて絶叫しながら体を燃やし、炭のようになって消えていった。


 ギルスは今もなお、静かにこちらへと向かってくる。まるで何事もなかったかのように。


 数多の人間を死に追いやってきた女王は、その姿に理解できず、醜悪な笑顔が消え去っていた。


 彼女の死のカウントダウンは、通常使われている即死魔法よりも強力だ。時間がかかる分、これまで発動すれば確実に殺してきた。


 なのにギルスには効かなかったのだ。


 魔人となった彼が手にしたものは、その身に溢れる黒い雷光だけではない。


 王と称された男は、ありとあらゆる耐性を手に入れていた。即死魔法など、とうの昔に克服している。


 ギルスだけではなく、魔人となった存在には大抵の場合、即死系の攻撃は一切効果がない。


 だから彼は自らの耐性について、さして特別なものとは感じていない。


 王だった男をより特別たらしめているのは、この後に見せる力だ。


 当初、彼は女王の前を素通りしたかのようだった。見えていなかったのかと、彼女はほっとしていた。


 だが直後に、抗い難い力で引っ張られる。


 ギルスはその左手に黒い稲妻を纏わせ、デスクイーンの胸ぐらを掴んでいたのだ。


 彼女の混乱ときたらなかった。これまで一度として、物理的に干渉を受けたことはなかったからである。逃げようとするがびくともしない。


 続いて右の腕と拳に、黒い稲妻の輝きが宿る。そしてただ普通に、デスクイーンを殴り飛ばしたのだ。


 悍ましい腐敗しきった霊の顔。それがさらに崩壊しながら、ダンジョンの奥へと消えていく。


 配信画面には、ほぼ原型を止めない顔になり、消滅していくクイーンの姿が映し出されていた。


 この映像が流れて数秒は、ギルスの配信はまるで誰も観ていないかのように静まっていた。


 しかし、理解が追いつくにつれ、歓喜と興奮と驚きを得たチャットが嵐のように打ち込まれていった。


:……倒した?

:勝ったのか?

:え、掴んでた

:おおおおおおおおおお!

:ちょ、ガチビビったんやけど

:生還したよこの人

:すげえええええええええ!

:即死が効かなかった

:イカれすぎてて草

:即死魔法が効かんのか

:お、おおおおおおおおおおおおお

:無敵なの!?

:殴った、殴ったよゴーストを!

:なんで普通に生きてるんだ!?

:怖かったーーーーー

:あ、効かないから普通に歩いてたのね

:怖すぎて漏らしちゃった

:化け物は主のほうやったかー

:ヤバすんぎ!!

:ゴースト系にも物理を押し通す男

:過去一興奮した

:物理が通っちゃうのー!?

:あの黒い稲妻は一体

:逆転……でもないか楽勝か

:強すぎる

:すげえええええええええええええ

:魔法も効いてなかったし、ギルスって何なら効くんだ?

:過去一興奮したかも

:なんで悪霊を掴めたんだ!?

:強い強い強い!

:即死が効かないってヤバすぎじゃね!?


 この不可思議な映像は更なる反響を呼び、同接はついに四百万を超える。


 ドローンは無事かと目にしていると、大量のチャットが届き続けており、彼は珍しく驚いていた。


「……みんな驚いてるな」


 長い異世界生活により、感覚が常人から大きくズレてしまったギルスは、この反応を理解できずにいる。


「ん? タダオの配信が無くなった?」


 そして雷雨のようなチャット欄の中で、タダオの安否が不明になったという情報を見つける。


「次の階層か。急ごう」


 ギルスはカメラを掴み、地下十八階へと駆け降りていった。

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