第6話 エルフが王宮の魔導具を見に来た
「お前が、例の魔導具を持ち込んだ異世界人か」
王宮の中庭で、俺は聞き覚えのある声に振り返った。
「おお、エルフ。久しぶりだな」
そこに立っていたのは、森で出会ったエルフだった。
相変わらず、整った顔立ちをしている。
長い耳に、少し長めの金髪。いかにもファンタジーのエルフという見た目だ。
「王宮まで来るとは思わなかった」
「森にも噂が届いている。人間の王宮に、奇妙な水の魔導具が現れたとな」
「ああ、ウォシュレットのことか」
「その名前は聞いていない」
「そうか」
エルフは俺の顔をじっと見た。
「それで、どんな魔導具なんだ?」
「説明するより、実物を見たほうが早い」
俺たちは王宮のトイレへ向かった。
扉の前では、騎士が一人、順番を待っていた。
「お、次は俺だな」
「いや、先に彼に使わせてやってくれ」
俺がエルフを指すと、騎士は少し考えた。
「森の民か。まあ、客人なら仕方ない」
エルフは何とも言えない顔をしていた。
「……本当にここで使うのか?」
「そうだよ」
「ずいぶんと開放的な文化だな」
「個室だからな」
しばらくして、エルフが出てきた。
表情は平静を装っていたが、どこか納得のいかない顔をしている。
「どうだった?」
「水の魔法を使っているのか?」
「まあ、そんなところだな」
「術者はどこにいる?」
「いない。自動だよ」
「自動……?」
エルフは便座のほうを振り返った。
「水の精霊を封じ込めているわけでもないのか」
「そういう仕組みじゃないんだ」
「不思議な道具だな」
彼は腕を組み、しばらく考え込んでいた。
「森では、川の水で身体を洗うこともある。だが、こんなに都合のいい道具は見たことがない」
「気に入った?」
「悪くはない」
その言い方は、どこか騎士たちに似ていた。
エルフは帰り際、俺に尋ねた。
「これを森に持ち帰ることはできるか?」
「できると思うけど、森にトイレはあるのか?」
「……」
エルフは少し黙った。
「必要な場所に作ればいい」
「まあ、そうだな」
「それに、森の仲間にも見せてやりたい」
そう言って、彼は王宮のトイレをもう一度振り返った。
どうやら、気に入ったらしい。
異世界に来てから、俺は剣も魔法も覚えていない。
しかし、森のエルフにまでウォシュレットを広めることになりそうだった。




