第40話「薬師は、毒を飲んだ」
「毒を飲んだ!」
薬師の工房に飛び込んできた男が叫んだ。
「誰がです!?」
エルフが駆け寄る。
「私だ!」
薬師は机に突っ伏していた。
「何を飲んだんですか!」
「新しく調合した解毒薬だ!」
「解毒薬を飲んで、どうして毒を飲んだことになるんです?」
薬師は青ざめた顔で答えた。
「まだ毒を飲んでいなかったのだ!」
主人公は机の上の瓶を見た。
「つまり、解毒薬の効き目を確かめるために、先に毒を飲んだのか」
「そうだ!」
「で、解毒薬を飲んだ?」
「飲んだ!」
「効いた?」
「分からん!」
「何で?」
薬師は震える手で別の瓶を指した。
「毒の量を間違えたかもしれん!」
エルフが叫んだ。
「医者を呼んでください!」
「待て! 医者を呼ぶ前に、解毒薬が効いたか確認しなければ!」
「確認している場合じゃありません!」
薬師は立ち上がろうとした。
しかし、足元がふらついた。
主人公が肩を支える。
「症状は?」
「分からん……。毒のせいなのか、恐怖のせいなのか……」
「じゃあ、解毒薬のせいかもしれないな」
「それもある!」
エルフは頭を抱えた。
「原因の候補が多すぎます!」
薬師は必死に考えた。
「そうだ! もう一度、解毒薬を飲めばいい!」
「駄目です!」
「しかし、効き目が足りない可能性が!」
「駄目です!」
主人公は瓶を取り上げた。
「まず医者に診てもらおう。話はそれからだ」
薬師は悔しそうに頷いた。
そのとき、工房の外から声がした。
「薬師殿! 大変です!」
若い助手が駆け込んできた。
「調合した毒薬が、一本なくなっています!」
薬師の顔から血の気が引いた。
「……何だと?」
「どこに置いたか分からなくなりまして!」
「色は!?」
「解毒薬と同じです!」
全員が机の上を見た。
そこには、空になった瓶が二本。
薬師はゆっくりと主人公を見た。
「……私は、何を飲んだのだ?」
主人公は少し考えた。
「それを今から調べるんじゃないか」
「そうだった!」
エルフが薬師の襟首をつかんだ。
「いいから医者に行きますよ!」
その後、薬師は医者の診察を受け、幸い命に別状はなかった。
ただし、薬師はしばらく調合を禁止された。
主人公は工房を出るとき、助手に尋ねた。
「ところで、毒薬と解毒薬はどうやって見分けるんだ?」
助手は答えた。
「ラベルを貼っています」
「じゃあ、何で間違えたんだ?」
助手は小さく答えた。
「薬師様が、ラベルを貼る前に飲んでしまったので……」
エルフは立ち止まった。
「……もう、この工房に薬を作らせないでください」




