第4話 ウォシュレットをめぐって王宮に呼び出された
「お前が、森で奇妙な魔道具を使ったという男か」
目の前にいるのは、立派な鎧を着た兵士だった。
また兵士か。
どうやら俺は、この世界の兵士と縁があるらしい。
「奇妙な魔道具というのは?」
「白い椅子だ。水を噴き出すという」
「ああ、ウォシュレットですね」
「その名前は聞いたことがない。王宮まで来てもらおう」
「え、なんで?」
「王がお会いになる」
王様。
これはまずい。
ウォシュレットを没収されるのだろうか。
いや、そもそも王様がウォシュレットを何に使うつもりなのか。
俺は少し不安になりながら、兵士についていった。
王宮は想像以上に立派だった。
大理石の床。
高い天井。
壁には歴代の王の肖像画。
そして、玉座に座る王。
「そなたが例の魔道具を持つ者か」
「はい」
「その魔道具は、どのような力を持つ?」
俺は少し考えた。
「お尻を洗います」
「……何?」
「水で」
王は黙った。
隣に立つ宰相が口を開く。
「陛下。この者の言葉によれば、あの白い魔道具は水を噴射する装置とのことです」
「水を噴射するだけならば、噴水と何が違う?」
「用途が違います」
「用途?」
「お尻を洗います」
再び沈黙。
王は宰相を見た。
宰相は俺を見た。
俺はウォシュレットを見た。
どうやら、説明の仕方を間違えたらしい。
「実演してみせよ」
「ここでですか?」
「そうだ」
「いや、さすがにここでは……」
「できぬのか?」
王の目が鋭くなる。
俺は仕方なく、ウォシュレットを床に置いた。
「では、まず座っていただいて……」
「余がか?」
「いえ、そういうわけでは」
宰相が慌てて止めに入った。
「陛下! いけません! 正体の分からぬ魔道具にお座りになるなど!」
「では、誰が座るのだ?」
全員が黙った。
そのとき、近衛兵の一人が一歩前に出た。
「私が試しましょう」
立派な鎧を着た男だった。
「本当にいいんですか?」
「王の命令であれば」
「いや、命令は出てないけど……」
男は鎧を脱ぎ、恐る恐る便座に腰を下ろした。
俺は操作パネルを確認する。
水勢、弱。
水温、適温。
そして、おしりボタン。
ピッ。
シュッ!
「うおっ!」
近衛兵が飛び上がった。
王宮に悲鳴が響く。
「何だ今のは!」
「水が!」
「尻から水が出たぞ!」
いや、正確には尻に水を当てたのだが。
近衛兵はしばらく固まっていた。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……悪くない」
王宮が静まり返った。
「もう一度、試してもいいか」
俺は思った。
こいつ、気に入ったな。
王は玉座から立ち上がった。
「その魔道具、王宮に置くことを許す」
「え?」
「いや、待て。余の部屋に置け」
「陛下!?」
宰相が叫んだ。
こうして、異世界初のウォシュレット導入をめぐり、王宮内で激しい権力争いが始まった。
なお、翌日。
王宮のトイレには長蛇の列ができていた。
第4話 完




