第36話「魔法使いは、自分を増やしすぎた」
「分身魔法を完成させた!」
町の広場で、若い魔法使いのリオネルが叫んだ。
「これで仕事も勉強も二倍だ!」
「便利そうですね」
主人公が感心すると、リオネルは杖を掲げた。
「見ていろ!」
ボン!
リオネルが二人になった。
「おお!」
ボン! ボン!
四人になった。
「素晴らしい! これで四人分の仕事ができる!」
エルフが尋ねた。
「では、四人で何をするんですか?」
「一人は研究、一人は買い物、一人は食事、そして私は休む!」
「最後の一人だけ得してませんか?」
「何を言う。私は本体だぞ」
そのとき、分身の一人が口を開いた。
「待て。私も休みたい」
「何?」
「そもそも、研究など後回しでいいだろう」
「買い物も面倒だ」
「食事は誰かが用意してくれ」
四人は顔を見合わせた。
全員、同じことを考えていた。
「……全員、休みたいのか」
「そういうことだ」
主人公が頷いた。
「性格まで同じなんだな」
「当然だ! 私の分身なのだから!」
「それなら、分身する意味がありませんね」
エルフの言葉に、リオネルは黙り込んだ。
しばらくして、彼は気を取り直した。
「よし。ならば、全員で協力して仕事を片付けよう!」
「賛成だ!」
「まずは研究だ!」
「いや、買い物だ!」
「その前に食事だろう!」
「休憩してからでいい!」
再び口論が始まった。
主人公はその様子を眺めていたが、ふと尋ねた。
「ところで、四人とも同じ体なんだよな」
「体?」
「腹が減ったり、眠くなったりするのも同じ?」
「もちろんだ」
主人公は少し考えた。
「じゃあ、トイレに行きたくなるのも四人同時か」
リオネルたちは一斉に黙った。
そして、四人同時に広場の公衆トイレへ走り出した。
しばらくして、一人だけが戻ってきた。
「……分身魔法は失敗だった」
「どうしたんです?」
「トイレが一つしかなかった」
主人公は頷いた。
「ウォシュレットも一つだしな」
「そこは問題ではない!」
エルフは、四人分の順番待ちをしているリオネルたちを見て言った。
「分身しても、トイレの順番までは短くならないんですね」
主人公は静かに答えた。
「いや、ウォシュレットが四つあれば解決する」
「そういう問題じゃありません!」




