第35話「兵士は、完璧な隠密を目指す」
「敵に見つからずに近づく方法はないか!」
騎士団の兵士、ボルグが主人公に相談してきた。
「隠密行動か?」
「そうだ! 敵の陣地に忍び込み、気づかれずに情報を持ち帰りたい!」
主人公は少し考えた。
「周囲の景色に溶け込むのが基本だな」
「景色に?」
「そう。草原なら草原、森なら森に見えるようにする」
ボルグは拳を握った。
「なるほど! 敵に背景だと思わせるのだな!」
「まあ、そういうことだ」
エルフが尋ねる。
「具体的には、どうするんですか?」
「迷彩服とか、葉っぱを使ったりとか」
「葉っぱ!」
ボルグは勢いよく走り去った。
エルフは不安そうに見送った。
「……大丈夫でしょうか」
「まあ、葉っぱをつけるくらいなら」
翌朝。
騎士団の訓練場に、一本の木が立っていた。
いや、木ではない。
ボルグだった。
全身に枝と葉っぱをくくりつけ、頭には鳥の巣まで乗せている。
「どうだ!」
主人公は黙って見上げた。
エルフも黙って見上げた。
「……何ですか、これは」
「完璧な隠密装備だ!」
「木じゃないですか」
「木ではない! 兵士だ!」
「見れば分かります!」
ボルグは自信満々に歩き出した。
枝が揺れる。
鳥が飛び立つ。
「おお! 自然に溶け込んでいる!」
主人公が言った。
「いや、むしろ目立ってるぞ」
「何を言う! 敵はまさか木が動くとは思わん!」
「敵が驚くのは間違いないですね」
ボルグはさらに自信を深めた。
「よし! 実戦形式で試そう!」
彼は訓練場の中央に立ち、じっと動かなくなった。
そこへ別の兵士が通りかかった。
「おい、こんなところに木なんてあったか?」
ボルグは動かない。
「まあいいか。邪魔だな」
兵士は木を押した。
ボルグが倒れた。
「ぐわあああ!」
「木がしゃべった!」
兵士は腰を抜かした。
ボルグは地面に倒れたまま叫ぶ。
「見事な奇襲だっただろう!」
主人公は頭を抱えた。
「いや、ただ倒されただけだ」
エルフが枝を一本拾い上げた。
「そもそも、どうして鳥の巣まで乗せたんですか?」
「自然らしさを演出するためだ!」
「鳥はどうしたんです?」
「今朝から住み着いた」
「住み着いた!?」
ボルグは胸を張った。
「すでに野鳥にも認められている。これぞ完璧な擬態だ!」
そのとき、頭の鳥の巣から卵が一つ落ちた。
コツン。
主人公は卵を拾い上げた。
「……お前、もう兵士じゃなくて巣だろ」
エルフが頷いた。
「騎士団に戻る前に、まず鳥の親に謝ってください」
ボルグは真剣な顔で答えた。
「任せろ。次は卵も守れる装備を考える!」
「装備を増やすな!」
「枝をもっと増やせば――」
「もう木になるな!」




