第33話「エルフは、パンを膨らませたい」
「パンを膨らませたい?」
「はい。ふっくらしたパンを焼きたいんです」
エルフは真剣だった。
「今のパンは硬いんですよね」
「じゃあ、酵母を使えばいい」
「酵母?」
「パンを膨らませる微生物だ。生地の中でガスを出す」
エルフは目を輝かせた。
「微生物がパンを膨らませるんですか?」
「そう。目には見えないけどな」
「すごいですね……」
数日後。
エルフがパンを持ってきた。
「できました!」
「おお、膨らんでるな」
「はい! 酵母をたくさん入れました!」
主人公はパンを見た。
大きい。
とにかく大きい。
「……これ、何人分?」
「一人分です」
「一人で食べるの?」
「はい!」
エルフは誇らしげだった。
主人公はパンを少しちぎった。
中はスカスカで、妙に酸っぱい。
「酵母を入れすぎたな」
「えっ」
「あと、発酵させすぎ」
「発酵?」
「酵母が働きすぎたんだ」
エルフはパンを見つめた。
「……微生物にも、働きすぎがあるんですね」
「あるよ」
「休ませてあげればよかったですか?」
「いや、休ませるのは人間のほうだ」
「?」
主人公はパンをもう一口食べた。
「これはこれで、面白い味だな」
エルフは少し嬉しそうにした。
「本当ですか?」
「うん。酸味が強い」
「失敗では?」
「失敗だな」
「そこは嘘でも成功と言ってください!」
そのとき、パンの中から小さな音がした。
ぷしゅ。
二人はパンを見た。
「……まだ発酵してる?」
「たぶんな」
エルフはパンをそっと机に置いた。
「これ、爆発しませんよね?」
「パンは爆発しないよ」
その直後。
ぼふっ。
パンが膨らみ、机の上の皿を吹き飛ばした。
主人公はしばらく眺めてから言った。
「……酵母、元気だな」
「もう二度と微生物を飼いません!」




