第32話「魔王城のトイレは、進んでいた」
魔王城。
主人公とエルフは、四天王ザルガスに案内され、魔王の前に立っていた。
「貴様が、人間界の魔導具を持ち込んだ者か」
「はい。これです」
主人公はウォシュレットを取り出した。
魔王はそれを眺めた。
「ふむ。それで、何ができる?」
「水で尻を洗えます」
「……それだけか?」
「はい」
魔王は玉座に深く腰掛けた。
「ザルガス」
「はっ」
「我が城の便所を見せてやれ」
「よろしいのですか?」
「構わん」
案内された先には、豪華な個室があった。
便座はふわふわ。
室内は暖かく、ほのかに花の香りがする。
座ると自動で扉が閉まり、用を足せば自動で水が流れる。
主人公は感心した。
「すごいな」
「これが魔王城の標準設備だ」
ザルガスが誇らしげに言った。
エルフも驚いている。
「ずいぶん進んでいるんですね」
「当然だ。魔王軍の技術力を侮ってもらっては困る」
主人公は便座を眺めた。
「でも、洗浄機能はないんですね」
「洗浄?」
「尻を水で洗う機能です」
ザルガスは首を傾げた。
「必要なのか?」
「はい」
「紙で拭けばよいだろう」
「まあ、そうなんですが」
主人公はウォシュレットを取り付けようとした。
しかし、ザルガスが手を挙げた。
「待て。ここに設置するなら、魔王様の許可が必要だ」
「そうですか」
「そもそも、そんな小さな魔導具を取り付ける必要があるのか?」
主人公は少し考えた。
「じゃあ、実際に使ってみてください」
「断る」
「そうですか」
主人公はあっさり引き下がった。
その日の夕方。
主人公たちは魔王城を後にした。
エルフが尋ねる。
「結局、魔王様には気に入ってもらえませんでしたね」
「まあ、仕方ない」
「あなたにしては、あっさりしていますね」
「必要ない人もいるだろ」
「そうですね」
そのとき、背後から声がした。
「待て!」
振り返ると、ザルガスが走ってきた。
「お前たち、これを忘れているぞ!」
差し出されたのは、主人公のウォシュレットだった。
「ああ、ありがとうございます」
「それと……」
ザルガスは周囲を確認し、小声で言った。
「個人的に、一台注文したい」
「魔王様の許可は?」
「自宅用だ」
「魔王城に住んでますよね?」
「……私室用だ!」
エルフが呆れた。
「結局、欲しいんじゃないですか」
ザルガスは真剣な顔で言った。
「違う。これは技術研究だ」
主人公は頷いた。
「分かりました。研究用ですね」
「ああ。決して尻を洗いたいわけではない」
「はい」
「絶対に違うからな!」
ザルガスは金貨を握りしめていた。




