第31話「魔王軍の幹部は、潔癖症だった」
「お前が、例の魔導具の持ち主か」
町の路地で、主人公たちは黒いローブの男に呼び止められた。
頭には二本の角。
背中には黒い翼。
エルフが身構える。
「魔族ですね」
「いかにも。我は魔王軍四天王の一人、ザルガス!」
主人公は頷いた。
「どうも」
「貴様の持つ魔導具を渡してもらおう」
「ウォシュレットですか?」
「そうだ!」
「何に使うんです?」
ザルガスは顔をしかめた。
「魔王城の便所は最悪だ。水は冷たい。紙は粗い。掃除も行き届いておらん」
「大変ですね」
「我は潔癖症なのだ!」
エルフが呆れた顔をした。
「それで、わざわざ人間の町まで?」
「魔王軍の幹部とて、尻の不快感には耐えられん!」
主人公は少し考えた。
「魔王城に設置すればいいんじゃないですか」
「そうしたい。だが魔王様が許さん」
「なぜです?」
「魔王様はこう言った。『敵の道具に頼るなど、魔王軍の誇りが許さん』とな」
主人公は頷いた。
「なるほど。では、魔王様にも使ってもらいましょう」
「何?」
「一度使えば分かります」
ザルガスは腕を組んだ。
「……確かに。魔王様に試していただくのが一番早い」
エルフが慌てて止める。
「ちょっと待ってください。魔王城にウォシュレットを持ち込むつもりですか?」
「そうだが?」
「敵の本拠地ですよ!」
「トイレなら警備も薄いだろう」
「そういう問題ではありません!」
ザルガスは真剣な顔で主人公を見た。
「頼む。魔王様を説得してくれ」
「分かりました」
「本当か!」
「ただし、条件があります」
「何だ?」
「魔王様のトイレを見せてください」
ザルガスは目を見開いた。
「……なぜだ?」
「設置できるか確認したいので」
エルフは天を仰いだ。
「魔王城に侵入する理由が、便所の下見……」
ザルガスは深く頷いた。
「よし。案内しよう」
「行くんですか!?」
「当然だ。魔王軍の威信がかかっている」
こうして主人公たちは、魔王城への招待を受けることになった。
その頃、魔王城。
魔王は玉座に座り、幹部の帰りを待っていた。
「ザルガスはまだ戻らんのか」
側近が答える。
「人間の町で、便所の魔導具を探しているとのことです」
魔王は眉をひそめた。
「……またか」
「以前から、トイレの設備に不満を申しておりまして」
魔王は長い沈黙のあと、呟いた。
「我が軍は、人間に負けるかもしれんな」
「戦力差でしょうか?」
「いや。便所の差だ」




