第30話「勇者は、ウォシュレットを知らない」
町の酒場で、主人公とエルフは昼食をとっていた。
そこへ、立派な鎧を着た青年が入ってきた。
腰には聖剣。
背中には大きな盾。
いかにも勇者という格好だった。
「聞いたぞ! 魔王を倒すための秘宝を持つ者が、この町にいるそうだな!」
酒場がざわついた。
青年は主人公の前に立った。
「お前が、その秘宝の持ち主か!」
「たぶんそうです」
「秘宝を見せてくれ!」
主人公は荷物からウォシュレットを取り出した。
勇者は目を輝かせた。
「これが……伝説の秘宝!」
「はい」
「どんな魔物も一撃で倒せるのか?」
「いえ。尻を洗います」
「……何?」
「水が出ます」
勇者はしばらく黙っていた。
「つまり、水の魔法を封じた魔導具か!」
「まあ、そうですね」
「これなら魔王軍の炎を消せる!」
「水量が足りないと思います」
「敵の目を狙えば!」
「たぶん怒られます」
「では、傷ついた仲間の傷口を洗浄できるのか!」
「用途としては近いですが、ノズルが……」
エルフが口を挟んだ。
「勇者様。これは本当に、トイレで使う道具です」
勇者はウォシュレットを見つめた。
「……トイレ?」
「はい」
「魔王を倒すための秘宝が?」
「はい」
勇者は深く息を吸った。
そして、真剣な顔で言った。
「ならば、俺が使ってみよう」
「えっ」
「秘宝の力を知らずして、魔王には挑めん!」
「いや、そんな大げさなものでは……」
勇者は立ち上がった。
「トイレはどこだ!」
エルフが案内した。
数分後。
勇者は戻ってきた。
顔つきが変わっていた。
「……すごい」
主人公は頷いた。
「でしょう」
「これがあれば、長旅の疲れも癒やされる」
「そうですね」
勇者は主人公の肩を掴んだ。
「頼む。これを王国軍に配備してくれ!」
「ええ……」
「魔王討伐の前に、全軍の尻を整える!」
酒場が静まり返った。
エルフが小声で言った。
「勇者様、少し落ち着いてください」
勇者は剣を抜き、高らかに宣言した。
「出陣前に、まず全員洗浄だ!」
主人公は静かに拍手した。
「いい作戦だと思う」
「あなたも賛成しないでください!」




