第29話「ウォシュレットで、雨乞いをするな」
「雨が降らないな」
主人公は空を見上げた。
「そうですね。畑も困っているようです」
「水の精霊に頼めばいいんじゃないか?」
「以前、泉をものすごい勢いで噴き上げていましたからね」
「そうそう。あれを空に向ければいい」
「……何を?」
「ウォシュレット」
「待ってください」
主人公は説明した。
水の精霊の魔力で水圧を上げる。
ノズルを上空に向ける。
水を高く噴き上げれば、雨雲に届くかもしれない。
エルフは黙って聞いていた。
「あなた」
「うん」
「雨乞いを、ウォシュレットで?」
「うん」
「神様に怒られませんか?」
「水の精霊に頼むから大丈夫だろ」
「そういう問題ではありません」
二人は泉へ向かった。
水の精霊は、二人を見るなり嬉しそうに近づいてきた。
「おお、また水の話か! 我は待っておったぞ!」
「ちょうどいい。今日は水を空に飛ばしたい」
「ほう! 壮大な願いだな!」
エルフが口を挟む。
「雨を降らせたいそうです」
「なるほど。任せよ!」
水の精霊は両手を掲げた。
泉の中央から、巨大な水柱が噴き上がる。
ドォォォォン!
水柱は空高く伸び、やがて風に流されて町の方へ飛んでいった。
「おお、すごいな」
「すごいですね……」
そのとき、遠くから悲鳴が聞こえた。
「うわあああ!」
「何だ、この水は!」
「洗濯物が!」
エルフが顔を引きつらせた。
「町に飛んでいっています!」
水の精霊は満足げに頷いた。
「うむ! 大地に恵みを与えたぞ!」
「洗濯物にも与えましたね」
主人公は空を見上げた。
「これ、雨乞いというより散水だな」
「最初からそう言っています!」
水の精霊は不思議そうに首を傾げた。
「しかし、雨は降っておらぬぞ?」
「そうだな」
「ならば、もっと高く飛ばせばよいのか?」
「いや、もういい」
その日の夕方。
町では、空から突然水が降ってきたという噂が広まった。
人々は奇跡だと喜び、神殿には感謝の祈りが捧げられた。
ただし、洗濯物を台無しにされた町の仕立て屋だけは違った。
「次に水を降らせたら、あの泉を埋めてやる!」
主人公はその話を聞き、静かに頷いた。
「水圧の調整は大事だな」
エルフは答えた。
「あなたの発想の調整も大事です」




