第28話「ウォシュレットは、暗殺に使えるのか」
「なあ、エルフ」
「はい」
「ウォシュレットって、暗殺に使えると思うか?」
「使えません」
即答だった。
「まだ説明してないぞ」
「説明されなくても分かります」
「いや、考えてみてくれ。暗殺者が標的の部屋に忍び込む」
「はい」
「そこでトイレを使う」
「はい?」
「標的があとからトイレに入る」
「……」
「すると、いつもと違う水圧に驚く」
「それだけですか?」
「隙ができる」
「どんな隙ですか」
「分からない」
「分からないんですか!」
主人公は腕を組んだ。
「やはり、暗殺には向いていないか」
「最初からそう言っています」
「じゃあ、尋問ならどうだろう」
「もっと駄目です」
「犯人を椅子に座らせて、延々と水を当てる」
「拷問に使わないでください!」
「自白するまで水圧を上げていく」
「ウォシュレットの性能を悪用しないでください!」
主人公は少し考えた。
「でも、強い水圧は危険だな」
「そこは真面目に反省するんですね……」
そのとき、背後から声がした。
「おい。今の話、もう一度聞かせてもらえるか」
振り返ると、黒い外套を着た男が立っていた。
腰には短剣。
目つきは鋭い。
エルフが警戒する。
「あなたは?」
男は静かに答えた。
「暗殺者ギルドの者だ」
主人公は少し驚いた。
「おお」
「ウォシュレットという魔導具……詳しく聞きたい」
「本当に暗殺に使うんですか?」
男は真剣な顔で頷いた。
「標的が用を足している最中は、無防備になる。そこに未知の魔導具を設置すれば、確かに心理的な動揺を誘えるかもしれん」
「いや、そういう使い方は想定していません」
「報酬は弾む」
「設置費用はいただきます」
「あなた!」
エルフが主人公の袖を引いた。
「暗殺者と商談しないでください!」
男は懐から金貨を一枚取り出した。
「まずは試作品を一台。標的は王宮の大臣だ」
主人公は金貨を見つめた。
「……大臣のトイレに?」
「そうだ」
「それはやめたほうがいい」
「なぜだ?」
「王様が先に使うかもしれない」
暗殺者は沈黙した。
エルフも沈黙した。
そして暗殺者は、金貨をしまった。
「……計画を見直す」
「そうしてください」
男は足早に去っていった。
エルフは主人公を睨んだ。
「あなた、今、王様を暗殺計画に巻き込みましたよね?」
「いや。王様が先に使う可能性を指摘しただけだ」
「そういう問題ではありません!」
主人公は去っていく暗殺者の背中を眺めた。
「暗殺者も大変だな」
「あなたのせいです」
「次は勇者ギルドに相談してみよう」
「何をです?」
「ウォシュレットで魔王を倒せないか」
「もう黙ってください」




