第26話「ウォシュレットには、向き不向きがある」
「エルフ、ちょっと聞きたいんだが」
「はい?」
「ウォシュレットって、馬にも使えると思うか?」
「……馬?」
「うん」
「お尻を洗うという意味では、使えるかもしれませんが」
「試してみるか」
「誰の馬でです?」
「そこが問題だな」
「問題はそこだけではありません」
翌日。
主人公は厩舎の前にいた。
隣にはエルフ。
目の前には、立派な軍馬。
「本当にやるんですか?」
「馬だって清潔なほうがいいだろ」
「馬に聞いたんですか?」
「今から聞く」
主人公は馬の後ろに回った。
馬が振り返る。
「よし。まずは弱い水圧からだ」
「待ってください。馬が嫌がったらどうするんです?」
「そのときは中止する」
「当然です」
主人公がノズルを構えた、その瞬間。
馬が後ろ脚を上げた。
「おっと」
主人公は素早く離れた。
馬は何事もなかったように草を食べ始めた。
エルフが言った。
「……嫌がっていますね」
「いや。まだ分からない」
「分かりますよ」
「もしかしたら、位置が悪かったのかもしれない」
「あなた、馬の気持ちを考えてください」
そのとき、厩舎の管理人がやってきた。
「おい! 何をしている!」
「馬にウォシュレットを試そうと」
「やめろ!」
管理人は慌てて主人公を止めた。
「こいつは王宮から預かっている軍馬だぞ!」
「そうでしたか」
「もし傷でもつけたらどうする!」
「それは困りますね」
管理人は馬の首を撫でた。
「こいつは繊細なんだ。知らないものには警戒する。特に尻のほうはな」
主人公は頷いた。
「なるほど。では、まずは慣れてもらう必要がありますね」
「慣れさせるな!」
エルフは額を押さえた。
その日の夕方。
主人公は厩舎の前に、小さな看板を置いた。
『馬用ウォシュレット開発中』
管理人がそれを見つけ、看板を裏返した。
裏には、こう書かれていた。
『開発者、立入禁止』
「……ずいぶん厳しいですね」
「まあ、馬にも好みがあるからな」
「馬の好み以前の問題です」
主人公は少し考えた。
「犬ならいけるかな」
「やめてください」
「猫は?」
「もっとやめてください」




