↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/42

第15話「王国騎士団、極秘会議」


王宮地下、騎士団本部。


深夜。


普段なら誰も立ち入らない会議室に、五人の男たちが集まっていた。


全員、王国騎士団の幹部である。


机の上には一枚の紙。


そこには大きく、こう書かれていた。


『王宮トイレ利用状況調査報告』


「……始めよう」


団長のグレゴールが口を開いた。


「今回の会議は、極めて重要な案件について話し合う」


副団長が頷く。


「例の魔導具ですな」


「ああ」


全員の視線が、机の中央に集まった。


「ウォシュレットの導入以降、騎士団内に明らかな変化が起きている」


「まず、トイレの利用時間が延びました」


記録係が報告する。


「特に食後の利用者が増加。以前は用を足すとすぐに出てきた者が、現在では長時間個室にこもる傾向があります」


「原因は?」


「洗浄機能です」


「……やはりか」


団長は腕を組んだ。


「それだけではありません」


記録係が次の紙を取り出した。


「最近、騎士たちの間で、洗浄圧力に関する議論が盛んです」


「圧力?」


「はい。弱めを好む者、強めを好む者、一定の水圧を維持したい者。意見が分かれています」


「くだらん」


副団長が吐き捨てた。


「騎士たるもの、そんなことにこだわってどうする」


そのとき、会議室の扉が開いた。


「失礼します」


入ってきたのは、若い騎士だった。


「報告があります!」


「何だ」


「本日、第三騎士隊で重大な問題が発生しました!」


「まさか、敵襲か?」


「いえ」


若い騎士は真剣な表情で答えた。


「ウォシュレットの水圧設定が、何者かによって変更されていました」


沈黙。


「……それで?」


「強に設定されていたため、隊員の一人が驚いて飛び上がり、隣の個室に助けを求めたそうです」


「誰が設定を変えた?」


「現在調査中です」


団長は深く息を吐いた。


「これは由々しき事態だ」


副団長が頷く。


「騎士団の規律が乱れている」


「使用後は必ず設定を戻すよう通達を出せ」


「了解しました」


「それと、個人の好みによる設定変更は禁止する」


「……それは少々厳しすぎるのでは?」


「規律とはそういうものだ」


団長は厳しい顔で言った。


「我々は王国の秩序を守る騎士だ。便所の中でさえ、規律を忘れてはならん」


全員が頷いた。


会議は続いた。


議題は、洗浄後の紙の使用量、便座の温度、音姫の音量、そして個室の長時間占有について。


誰も笑わなかった。


誰もふざけていなかった。


彼らにとっては、真剣な問題だった。


やがて、団長が最後の議題を読み上げた。


「次に、ウォシュレットの管理責任者について」


副団長が手を挙げる。


「私から提案があります」


「聞こう」


「騎士団内に専任の管理官を置くべきです」


「管理官?」


「はい。各個室の水圧、温度、紙の補充、故障の有無を確認する役職です」


団長は少し考えた。


「……必要かもしれんな」


「では、役職名はどうしましょう」


「洗浄設備管理官」


「長いですな」


「では、洗浄官」


「それでよろしいかと」


全員が納得した。


その夜、王国騎士団に新たな役職が誕生した。


洗浄官。


任命されたのは、騎士団で最も几帳面な男だった。


彼は翌朝から、騎士団のトイレを巡回し始めた。


水圧を確認し、温度を測り、紙の残量を記録する。


そして、使用者が設定を戻し忘れていないか、厳しくチェックした。


その働きは素晴らしかった。


一週間後。


騎士団のトイレは、王宮で最も清潔な場所になった。


さらに一か月後。


洗浄官は昇進した。


二か月後。


彼は騎士団の幹部会議に出席するようになった。


三か月後。


国王は彼の功績を称え、勲章を授与した。


その勲章には、こう刻まれていた。


『王国の清潔を守りし者』


そして、その年の騎士団長選挙。


候補者の一人として、彼の名前が挙がった。


推薦理由は、ただ一つ。


「この男なら、王国の尻を守れる」


王国騎士団は、今日も平和だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。