第13話「王様は、ウォシュレットに全機能を求めた」
「呼び出しです」
エルフが一枚の手紙を差し出した。
差出人は国王。
内容は簡潔だった。
『至急、王宮へ来るように』
「何かあったのかな」
「心当たりはありませんか?」
「ないね」
「本当に?」
「ウォシュレットのことなら、毎日使ってるはずだけど」
「それが心当たりというのでは?」
俺たちは王宮へ向かった。
謁見の間には、国王と数人の大臣、そして技術者らしき男たちが集まっていた。
国王は俺たちを見るなり、立ち上がった。
「待っておったぞ!」
「どうされました?」
「これを見よ」
国王が指差した先には、見慣れたウォシュレットが置かれていた。
ただし、妙なものがいくつも取り付けられている。
横には小さな箱。上には金属製の筒。さらに足元には、何やら魔石が並んでいた。
「……何ですか、これ」
「余の理想を詰め込んだ新型じゃ!」
「理想?」
「まず、温水機能!」
国王が胸を張る。
「火の精霊の力を利用した!」
「おお」
「次に、脱臭機能!」
「脱臭?」
「風の魔法で臭いを吹き飛ばすのじゃ!」
「なるほど」
「そして、乾燥機能!」
国王は金属製の筒を叩いた。
「火の魔石で温風を出す!」
エルフが装置を見つめた。
「……全部盛りですね」
「そうじゃ!」
国王は満足げに頷いた。
「さらに、音楽機能もつけようと思うておる!」
「音楽?」
「用を足している間、優雅な音楽が流れるのじゃ。王にふさわしいであろう?」
「音姫の発想に近いですね」
「何だそれは?」
「音を隠すための音です」
「隠す?」
「いえ、こちらの話です」
国王は技術者たちに命じた。
「では、実演じゃ!」
「えっ」
エルフが嫌な予感を覚えたように俺を見る。
「まさか、ここで?」
「当然じゃ。余の理想の完成形を見届けるのだ!」
技術者が魔石に手をかざす。
ウォシュレットが低く唸り始めた。
まず温水機能。
ノズルから温かい水が出る。
次に脱臭機能。
周囲の空気が渦を巻く。
そして乾燥機能。
金属筒から温風が吹き出した。
最後に音楽機能。
『勇敢なる王よ、栄光あれ!』
大音量のファンファーレが鳴り響いた。
「……」
「……」
「どうじゃ!」
国王が両手を広げた。
俺は装置を見た。
「すごいですね」
「そうであろう!」
「ただ、ひとつ問題があります」
「何じゃ?」
「全部同時に動いてます」
「うむ!」
「水を出しながら風で飛ばして、温風で乾かして、音楽が鳴ってるんですよね」
「その通りじゃ!」
「忙しいですね」
エルフが額を押さえた。
「王様。機能は一つずつ使えるようにしたほうがいいと思います」
「なぜじゃ?」
「洗浄中に温風が吹いたら、水が飛び散ります。脱臭の風も、必要なときだけでいいでしょう」
「ふむ……」
「それに、音楽の音量も大きすぎます」
「王の威厳を示すには必要であろう!」
「トイレで威厳を示す必要はありません」
国王は少し考え込んだ。
「では、余の理想は間違っておるのか?」
「いえ。機能そのものは便利だと思います。ただ、必要なときに必要な機能を使えることが大切です」
エルフは装置を指差した。
「何でもできることと、使いやすいことは同じではありません」
国王は感心したように頷いた。
「なるほど……」
そのとき、技術者の一人が口を開いた。
「しかし陛下。これだけの機能を搭載した以上、名称も立派なものにすべきかと」
「うむ。何かよい案はあるか?」
「万能洗浄魔導王座、などはいかがでしょう」
「よい! 実に王らしい!」
俺は少し考えてから言った。
「多機能トイレでいいんじゃないですか」
全員がこちらを見た。
「……多機能?」
「機能がたくさんあるトイレです」
国王はゆっくりと頷いた。
「分かりやすい」
エルフが小さく笑った。
「確かに、名前だけは立派にする必要もありませんね」
国王は再び装置を眺めた。
「よし。では、機能を整理しよう。温水、洗浄、乾燥、脱臭、音楽……」
「あと、温度調節と水圧調節ですね」
「うむ!」
国王は満足そうに頷いた。
そして最後に、俺へ尋ねた。
「ところで、もう一つ追加したい機能がある」
「何ですか?」
「自動で便座を温める機能じゃ」
「それはいいですね」
「それから、使用後に自動で洗浄する機能」
「それもいいと思います」
「そして、座る前に自動で蓋が開く機能!」
「……」
俺は少し黙った。
エルフが俺の顔を覗き込む。
「どうしました?」
「いや」
俺は国王に尋ねた。
「王様。そこまで来ると、もう人間が何もしなくていいんじゃないですか」
国王は目を輝かせた。
「それじゃ!」
「え?」
「余が座るだけで、すべてが終わる。これこそ真の王のための魔導具じゃ!」
エルフが天井を仰いだ。
「……この国の王様は、いったいどこへ向かっているんでしょう」
俺は答えた。
「快適な方向じゃないかな」
「そういう問題ではありません」




