メリークリスマス&ハッピーニューイヤー 中編
⭐12月25日~12月31日
コンビニの年内最終日だった25日は、営業は午前中だけで、午後からは先生と店の大掃除をした。まあ、やれる範囲でだったけど。
26日、先生が月へ帰省した。宇宙港までは木島さんにお願いした。
「年末年始は、風間くんひとり?」
木島さんに聞かれて、ぼくはそうですと答えた。すると、思いがけない提案があった。
「うちにこないか?」
「え?」
「あ、誤解しないでくれ。下心はない」
そう言われると、逆に警戒してしまう。ほんと、ほんとだから! と木島さんは言い募った。
「うちには、猫がいる」
「いきます」
猫がいるなら、話は別だ。
「風間くんは、猫に弱いなあ」
普段より、ぱりっとした格好の先生が笑う。白のタートルネックのセーターに、チャコールグレイのジャケット、パンツは濃紺のデニムだ。
「先生、今日の格好ならホントに大学の先生みたいです」
「そうかな。いちおう月へ帰るわけだし、いつもみたいなラフな格好じゃまずいだろ」
それに。と先生は両手をからだの横に水平に伸ばした。
「妻が惚れ直すかな?」
ぼくと木島さんは、笑ってしまった。先生は怪訝な顔をする。
「大丈夫、先生は素敵ですよ。奥様もきっと喜びます」
そうそう、と木島さんもうなずく。
「それじゃあ、大晦日の三時くらいに迎えに来るから」
そう言い置くと、木島さんと先生は去って行った。小さくなる船は入り江の突端を過ぎると見えなくなった。
はあ、とぼくはため息をついた。
島に、ぼくひとりきりだ。そう思うと、無人島にとり残されたみたい。
一月三日までの休暇が、とても長く感じる。
「台所、少しはキレイにしなきゃな」
あとで、コンビニのドアのところにしめ飾りをつるそう。
二十七日、目が覚めたら十時を回っていた。
びっくりして起きて、カーテンを開けると、雪だった。昨日のうちに、ウォークボードや桟橋のあたりを掃除しておいてよかった。
喉が渇いて水を飲みに行った。昨日磨いた床も台所もぴかぴかだ。何か食べないと、腹が鳴っている。ぼくは冷凍庫からパンを取り出してオーブントースターへ入れた。
焼けるにつれて、香ばしいにおいがして腹が盛大に鳴った。
コンビニのパンが、嫌いなわけじゃないけど、手作りの焼きたてパンが食べたいな。明日か明後日、買いに行こう。
ぼくは、シンクにもたれてトーストにかじりついた。スリッパなしの足に、床は冷たい。片足に交互に足を乗せてしのぐ。ついでに、冷蔵庫から出した牛乳を飲む。
昨日、がんばってたくさん掃除をしたせいかな。体のあちこちがまただるい。なんだか、寝足りない。少し、横になろう。
ベッドに逆戻りして、布団の中に潜り込んで今までの年末を思い出した。
去年の年末は、先生が月に帰省して、ぼく一人で留守番だった。その前、初めての年末のときは先生は月へ帰らず、ぼくと一緒にいてくれた。
そういえば、あの年には門松を立てたな。
予算がつくなら、来年は門松を用意したい。お正月らしさがアップするじゃない?
それから、有休の使い道を考えなきゃ。
月での年末なんて、ただの通過点みたいなものだったのに、地球ではなんだかお祭りみたいに独特のワクワク感があるなあ。ひとりでに、笑みが浮かぶみたいな。
ぼくはそれきり寝てしまった。
次に目が覚めたときには、雪が止んで夕日が部屋にさしていた。
「そんなに疲れているかな」
こんどこそ、空腹に耐えかねて、本日二食目の食事をとることにした。やっぱり米を食べないとだめみたいだ。
なんにもしない一日だったけど、こんな日があってもいいよね。
二十八日。
昨日は寝てばっかりで一日が終わってしまった。今日はうごくぞ!
ぼくは船で水晶島へ渡った。あのゴスロリ母娘の映画館でオールナイト上映をするらしい。
もちろん、行ってみて青い旗が出てなかったら、残念、終了だ。でも、聞くところによると、毎年の年末オールナイトに限っては、上映百パーセントだという。
水晶島が近づくと、胸がドキドキした。旗は何色?
旗は……青だ!
停泊する船がいっぱいの漁港の隅っこに船を停めて、映画館までの坂を駆け登る。
映画はすでに上映中、時間は午後二時だ。
スイングする扉を開けて、券売所へ行くとゴスロリがふたり並んでいた。
「チケットは今日から明日まで出入り自由です」
四千オーロと普段より高いけど、ぼくはチケットを買った。軽食は買ってきたから、長く映画館に居られる。
ぼくは上映中の館内に、足音を潜めて入ると、いちばん後ろの席に座った。さすが年末オールナイト、客の入りは五分を超えていそうだ。
館内はストーブはなくて、お湯が入ったパイプが椅子の下を走っているから、ほんのり暖かい。
むろん、コートを脱げるほどじゃないけど。ゴスロリ母が、館内をまわり、膝掛けを貸してくれる。ぼくも借りた。膝掛けをすると、ちょうどいい。
いちばん後ろの席に座って、スクリーンを見つめる。昔のラブロマンスだ。
月で製作した映画は、機器が違うから上映できないらしい。ぼくは昔の映画が好きだから気にならない。なんだか、懐かしい未来をみているような気持ちになるんだ。
映画は進む。コメディ、SF、アニメ、ドキュメント、夜になったと思ったら、ホラー。
見知らぬお客さんと一緒に、笑ったり、悲鳴をあげたり、すすり泣いたり。
「きみは意識が低いよ」
はっと気付くと、スクリーンに見知った顔が映っていた。
「一生、コンビニの店員でいいだなんて」
一緒に地球行きの研修を受けた……なんだっけ、名前忘れちゃった。
「もっと積極的になれば? きみは地球で何をしたい? おれは大自然を見たい。海も大地も」
それはそうだけど……ぼくはそんなんじゃなく、暮らしてみたい、話してみたい、地球の人たちと。
「月で暮らすのと、大差ない。つまらないよ、きみは」
は? 何か言い返そうとしたら、劇場が明るくなった。ぼくは目をしばたかせる。
「昨日からのオールナイトにお付き合いいただき、ありがとうございました」
流れるアナウンスに天井をみあげ、姿勢を直した。く、首が凝り固まった。
最後は寝ちゃってた。変な夢を見たな。ぼくは起き上がると、膝掛けを返して外へ出た。
思い切りバンザイするみたいに伸びをする。他のお客さんたちも、あくびをしたり映画の感想を言い合ったりして、散っていった。
さて、朝ごはん、食べに行こう。




