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月の舟で会いましょう  作者: たびー


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15/24

メリークリスマス&ハッピーニューイヤー 中編

⭐12月25日~12月31日


 コンビニの年内最終日だった25日は、営業は午前中だけで、午後からは先生と店の大掃除をした。まあ、やれる範囲でだったけど。

 26日、先生が月へ帰省した。宇宙港までは木島さんにお願いした。

「年末年始は、風間くんひとり?」

 木島さんに聞かれて、ぼくはそうですと答えた。すると、思いがけない提案があった。

「うちにこないか?」

「え?」

「あ、誤解しないでくれ。下心はない」

 そう言われると、逆に警戒してしまう。ほんと、ほんとだから! と木島さんは言い募った。

「うちには、猫がいる」

「いきます」

 猫がいるなら、話は別だ。

「風間くんは、猫に弱いなあ」

 普段より、ぱりっとした格好の先生が笑う。白のタートルネックのセーターに、チャコールグレイのジャケット、パンツは濃紺のデニムだ。

「先生、今日の格好ならホントに大学の先生みたいです」

「そうかな。いちおう月へ帰るわけだし、いつもみたいなラフな格好じゃまずいだろ」

 それに。と先生は両手をからだの横に水平に伸ばした。

「妻が惚れ直すかな?」

 ぼくと木島さんは、笑ってしまった。先生は怪訝な顔をする。

「大丈夫、先生は素敵ですよ。奥様もきっと喜びます」

 そうそう、と木島さんもうなずく。

「それじゃあ、大晦日の三時くらいに迎えに来るから」

 そう言い置くと、木島さんと先生は去って行った。小さくなる船は入り江の突端を過ぎると見えなくなった。

 はあ、とぼくはため息をついた。

 島に、ぼくひとりきりだ。そう思うと、無人島にとり残されたみたい。

 一月三日までの休暇が、とても長く感じる。

「台所、少しはキレイにしなきゃな」

 あとで、コンビニのドアのところにしめ飾りをつるそう。


 二十七日、目が覚めたら十時を回っていた。

 びっくりして起きて、カーテンを開けると、雪だった。昨日のうちに、ウォークボードや桟橋のあたりを掃除しておいてよかった。

 喉が渇いて水を飲みに行った。昨日磨いた床も台所もぴかぴかだ。何か食べないと、腹が鳴っている。ぼくは冷凍庫からパンを取り出してオーブントースターへ入れた。

 焼けるにつれて、香ばしいにおいがして腹が盛大に鳴った。

 コンビニのパンが、嫌いなわけじゃないけど、手作りの焼きたてパンが食べたいな。明日か明後日、買いに行こう。

 ぼくは、シンクにもたれてトーストにかじりついた。スリッパなしの足に、床は冷たい。片足に交互に足を乗せてしのぐ。ついでに、冷蔵庫から出した牛乳を飲む。

 昨日、がんばってたくさん掃除をしたせいかな。体のあちこちがまただるい。なんだか、寝足りない。少し、横になろう。

 ベッドに逆戻りして、布団の中に潜り込んで今までの年末を思い出した。

 去年の年末は、先生が月に帰省して、ぼく一人で留守番だった。その前、初めての年末のときは先生は月へ帰らず、ぼくと一緒にいてくれた。

 そういえば、あの年には門松を立てたな。

 予算がつくなら、来年は門松を用意したい。お正月らしさがアップするじゃない?

 それから、有休の使い道を考えなきゃ。

 月での年末なんて、ただの通過点みたいなものだったのに、地球ではなんだかお祭りみたいに独特のワクワク感があるなあ。ひとりでに、笑みが浮かぶみたいな。

 ぼくはそれきり寝てしまった。

 次に目が覚めたときには、雪が止んで夕日が部屋にさしていた。

「そんなに疲れているかな」

 こんどこそ、空腹に耐えかねて、本日二食目の食事をとることにした。やっぱり米を食べないとだめみたいだ。

 なんにもしない一日だったけど、こんな日があってもいいよね。


 

二十八日。

 昨日は寝てばっかりで一日が終わってしまった。今日はうごくぞ!

 ぼくは船で水晶島へ渡った。あのゴスロリ母娘の映画館でオールナイト上映をするらしい。

 もちろん、行ってみて青い旗が出てなかったら、残念、終了だ。でも、聞くところによると、毎年の年末オールナイトに限っては、上映百パーセントだという。

 水晶島が近づくと、胸がドキドキした。旗は何色?

 旗は……青だ!

 停泊する船がいっぱいの漁港の隅っこに船を停めて、映画館までの坂を駆け登る。

 映画はすでに上映中、時間は午後二時だ。

 スイングする扉を開けて、券売所へ行くとゴスロリがふたり並んでいた。

「チケットは今日から明日まで出入り自由です」

 四千オーロと普段より高いけど、ぼくはチケットを買った。軽食は買ってきたから、長く映画館に居られる。

 ぼくは上映中の館内に、足音を潜めて入ると、いちばん後ろの席に座った。さすが年末オールナイト、客の入りは五分を超えていそうだ。

 館内はストーブはなくて、お湯が入ったパイプが椅子の下を走っているから、ほんのり暖かい。

 むろん、コートを脱げるほどじゃないけど。ゴスロリ母が、館内をまわり、膝掛けを貸してくれる。ぼくも借りた。膝掛けをすると、ちょうどいい。

 いちばん後ろの席に座って、スクリーンを見つめる。昔のラブロマンスだ。

 月で製作した映画は、機器が違うから上映できないらしい。ぼくは昔の映画が好きだから気にならない。なんだか、懐かしい未来をみているような気持ちになるんだ。

 映画は進む。コメディ、SF、アニメ、ドキュメント、夜になったと思ったら、ホラー。

 見知らぬお客さんと一緒に、笑ったり、悲鳴をあげたり、すすり泣いたり。

「きみは意識が低いよ」

 はっと気付くと、スクリーンに見知った顔が映っていた。

「一生、コンビニの店員でいいだなんて」

 一緒に地球行きの研修を受けた……なんだっけ、名前忘れちゃった。

「もっと積極的になれば? きみは地球で何をしたい? おれは大自然を見たい。海も大地も」

 それはそうだけど……ぼくはそんなんじゃなく、暮らしてみたい、話してみたい、地球の人たちと。

「月で暮らすのと、大差ない。つまらないよ、きみは」

 は? 何か言い返そうとしたら、劇場が明るくなった。ぼくは目をしばたかせる。

「昨日からのオールナイトにお付き合いいただき、ありがとうございました」

 流れるアナウンスに天井をみあげ、姿勢を直した。く、首が凝り固まった。

 最後は寝ちゃってた。変な夢を見たな。ぼくは起き上がると、膝掛けを返して外へ出た。

 思い切りバンザイするみたいに伸びをする。他のお客さんたちも、あくびをしたり映画の感想を言い合ったりして、散っていった。

 さて、朝ごはん、食べに行こう。

 

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