第66話:影の編成とIR 前編
今日は珍しい三人組になっていた。
グスタフ、エリシュア、そしてヴォルグ。
インターフォンのモニターを見た瞬間、俺は思わずため息をついた。
(……なんか今日、絶妙な組み合わせだな。領主と元犯罪者と自撮り魔道士って。ヴォルグに関しては一度話してみたいとは言ったけど……)
「どうぞ。入ってきて」
ロックを解除すると、三人がリビングに入ってきた。グスタフは丁寧に礼をし、エリシュアは「本日の私、いかがですか?」とでも言いたげな角度で入室し、ヴォルグは手をポケットに突っ込んだまま、品定めするように室内を見渡した。
「……ふぅん。妙な家だな。外の森と全然空気が違う」
「そうだろうね」
俺はたまを膝に乗せたまま、ヴォルグにソファを勧める。彼は一瞬だけ躊躇してから、音もなく腰を下ろした。
グスタフが姿勢を正し、口を開いた。
「ゼクトさん、今日は一つご報告と、ご提案があってまいりました」
「ん」
「ヴォルグの件です」
グスタフは、机に一枚の羊皮紙を広げた。そこには、免税特区の管理規約と、ヴォルグへの辞令が整然と記されている。
「免税特区の管理人として正式に採用するのは、先日ご提案いただいた通りです。ただ……私は、もう一つ彼に役割を与えようと考えました」
(へ?グスタフが自分で考えてきた?マリオネットのように忠実な男が?)
俺は少し身を乗り出した。
「フェルゼンはこれだけ発展しました。領内外から、様々な人間が集まるようになっています。商人、職人、冒険者、そして……良からぬ者たちも。今後のことを考えれば、表の騎士団だけでは拾えない情報を集める『影』のような組織が必要になると思っています。……ヴォルグ、お前にその編成と指揮も任せたい」
ヴォルグの片方の瞳が、静かに光った。
「……『影』の組織、ね。俺みたいな元犯罪者に、領主直属の諜報網を任せようってのか。物好きだな、あんた」
「人材は? そのあたりの元締めを任せようにも、腹心がいなければ動けないだろう」
俺の質問にグスタフは淡々と答えた。
「旧市街で捕らえた幹部たちには、以前に特赦を約束しましたから」
(ああ、バルトスさんと一緒に投獄してた奴ら……あいつらと交渉した時の約束か)
ヴォルグが、わずかに目を細める。
「……特赦。あの連中に?」
「領主たるもの、嘘はいけません」
グスタフは真顔のまま、さらりと言い切った。
「それに、ゼクトさんがおっしゃっていましたよね。『従うメリットが裏切った時のリターンを上回るように設計すればいいだけだ』と。……これが、最も合理的な人材活用だと思いまして」
(……こいつ。自分でここまで考えられるようになったのか。……なんか感慨ひとしおだよ。大げさだけど)
俺は内心で、静かに感心していた。
最初に会った頃のグスタフは、「領主として正しくあらねば」という真面目さだけで動いていた。今は違う。システムとして考えている。人間を、変数として扱えるようになってきている。
「……いいんじゃない、グスタフ。筋が通ってる」
俺がそう言うと、グスタフはわずかに表情を緩めた。
「ヴォルグ。話を聞いてどうだ?」
ヴォルグは前髪をかき上げ、天井を仰いだ。
「……悪くないな。俺も、あの黒い回廊みたいな腐った組織にまた与するつもりはない。どうせやるなら、もう少し品のある仕事をしたいと思っていたしな」
「品のある仕事、ね」
俺はコーラを一口飲み、ヴォルグをじっと見た。
「ところでヴォルグ、あんた、旧市街では何をやってたんだ?」
「ん? 色々やったぜ。闇市の仕切りとか用心棒の手配、密輸品の流通管理、あとは……」
ヴォルグは指を折りながら続けた。
「娼館の経営、賭博場の胴元……まあ、俺みたいな育ちのやつが食っていくには、何でもやらなきゃいけない」
(…………賭博)
俺の思考が、一瞬だけそこで止まった。
(この世界でも賭博があるのか。なら……)
「ヴォルグ、ちょっと聞いていいか。この世界の賭博って、どんなことをやってるんだ?」




