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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜 膝の上の愛猫が最強勇者であることを俺は知らない  作者: 香箱
第三章:怠惰の秩序

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第62話:システムの完全消去と帰還の路

 ベルフェルドが背後の壁に飾られていた剣を構える。だが、その一瞬で、影が彼の背後を掠めた。


「……遅いぜ、総管。あんたの挙動は、読みやすすぎる」


 ヴォルグがベルフェルドの背後に回り込み、その細い首筋に鋭いナイフを添えながら、反対の手で男の腕を捻り上げて取り押さえた。


「なっ……離せ! 貴様、自分が何をしているのか分かっているのか! 私は総管だぞ!王都の裏の秩序は全てこの私が……」


「ああ、分かってるさ。だからこそ、こうするんだ」


 ヴォルグはベルフェルドの言葉を遮り、片手で机の上のランプを薙ぎ倒した。溢れ出したオイルが、ベルフェルドが命よりも大切にしていた重要書類の山に燃え広がる。


「ひ、ひぃっ!? やめろ! 消せ! 今すぐ消せぇ!!」


 先ほどまでの冷静な事務官の面影はどこにもない。ベルフェルドは、自分の積み上げてきた「システム」が灰になっていく光景に、情けなく悲鳴を上げた。


(……滑稽ね。紙の上に築いた城なんて、火種一つで瓦解する。あいつが「バックアップは大事なんだよ、たま」と口癖のように言っていた意味が、少しだけ分かった気がするわ)


 周囲を見渡せば、すでに大勢は決していた。バルトスが全く論理的でない暴力で廊下を制圧し、逃げ惑う暗殺者たちをカイルが盾で一箇所に追い込み、全員を縄で縛り上げている。


 ズゥン、と。

 建物全体が震えるような重低音が響き、一瞬だけ昼間のような白い閃光が走る。

 扉の向こうから、どこかへ姿を消していたリンが、涼しい顔をして戻ってきた。


「こっちも終わったわよ。地下の『大書庫』に保管されていた書類、すべて焼却しておいたわ。極炎魔法を使ったから、塵一つ残っていないはず。二度と復元できないわ」


 リンは杖を軽く回しながら事もなげに言い切った。


「……塵一つ、だと?……ぐ、ああ……私の、私の回廊が……」


 ベルフェルドが絶望に染まって崩れ落ちた。これで、王国の闇を支配していた巨大組織は、物理的に消滅した。私たちの完全勝利だ。


 ***


 一時間後。王都の騎士団が、バルトスの通報を受けて地下へと踏み込んできた。


「メイナ殿。……グスタフ様から仰せつかっていた通り、捕縛した賊どもは王都騎士団に引き渡しました。我々はこれより、フェルゼンへの帰路につきます」


 バルトスが、いつになく真剣な、しかし迷いのない顔で私に報告してきた。

 カイルとリンも、冒険者ギルドへの事後報告のために、馬の準備を始めている。


「……じゃあ、ここで解散でいいわね。それじゃあ」


 私は、漆黒の剣を消し、背を向けて歩き出そうとした。


「おい、待てよメイナ!どこにいくんだ?一緒に帰るだろ?」


 呼び止めるカイルの声に、私は振り返らずに手を振った。


「私の乗ってきた馬は、ヴォルグに使わせてあげて。……私は、別ルートで帰るから」


「別ルートって、お前……」


 困惑する彼らを置き去りにして、私は王都の路地裏へと姿を消した。


(……馬なんて使っていたら、三日もかかるじゃない。自分で走れば、今日中にフェルゼンに帰れるわ)


 あのアホな主のことだ。

 私がいなくなってから、まともな食事も摂らずに、ポテチの袋を散らかしながら「たま、コーラおいしいよな」なんて、返事の来ない空間に呟いているに違いない。


(……早く帰ってあげないと、あいつ、寂しがってるはずだから)


 その姿を思い浮かべた瞬間、胸の奥がふっと温かくなり、静かな笑みがこぼれた。

 私は闇を裂き、フェルゼンの方角へと跳躍した。伝説の使徒が本気で走る速度に、馬が敵うはずもない。


 今夜中には、あのアホの膝の上で、「ナオン」と一鳴きしてやるつもりだ。

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