表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜 膝の上の愛猫が最強勇者であることを俺は知らない  作者: 香箱
第三章:怠惰の秩序

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/93

第61話:再起動と騎士の矜持

 ベルフェルドが背後に飾ってあった剣を手に取った。

 それを合図に、部屋の隅々に潜んでいた黒装束の暗殺者たちが、一斉に音もなく飛び出してきた。


「……数だけは揃えたみたいね」


 私は漆黒の剣を構え、最短の軌道で一番近い男の鳩尾を柄頭で打ち抜く。

 男が、声も出せずに膝から崩れ落ちた。続いて横から迫る刃を最小限の動きでかわし、手首を返して相手の腕を突く。武器が床に転がる乾いた音が響く。


(……面倒くさい。あなたたちの動きは全部丸見えなのよ)


 振り返ると戦場は混戦に突入していた。カイルが盾で敵を押し返し、リンが魔法の衝撃波で敵の足並みを乱す。ヴォルグはヴォルグで、旧知の仲間だったはずの連中を排除していた。


 だが、一人だけ、明らかに「挙動がおかしい」男がいた。


「……待たれよ。この角度からの刺突に対し、私の回避行動がもたらす『最適解』は……。いや、相手が複数である以上、ナッシュ均衡を維持するには……」


 バルトスだ。

 彼は剣を構えたまま、四方から囲んでいる敵を前にして、ぶつぶつと何かを呟きながら硬直していた。


「おい、バルトス様! 何やってんだ! 突っ込めよ!」


 カイルの叫びも耳に入っていないらしい。

 バルトスは、ゼクトから授かった『論理学入門』の内容を脳内で演算しすぎた結果、変数の多さに思考がオーバーフローを起こしていた。


「敵の殺意を『負の変数』と仮定し、私の騎士道を『定数』と置いた場合……。う、うむ……解が出ない。この状況下での論理的な一歩は……」


 あー、もう。

 見ているだけでイライラする。

 バルトスに振り下ろされようとしていた敵の斧を、割り込んで剣の腹で弾き飛ばした。


「な、メイナ殿……。私は今、論理的な解を……」


 言いかけたバルトスの鳩尾に、私は一切の手加減なしに右足を叩き込んだ。


「――がはっ!!」


 重厚なプレートアーマーごと、バルトスの巨体が数メートル吹き飛ぶ。

 カイルとリンが「ええええっ!?」と叫び、ベルフェルドさえも目を剥いた。


「……な、なにを……メイナ殿……」


 地面に転がり、苦悶の表情で見上げてくるバルトス。

 私は、冒険者メイナとしての仮面を、一瞬だけ剥ぎ取った。


 視線を落とす。

 私の瞳に宿ったのは、かつて大陸を恐怖で震え上がらせた闇の伝説の使徒――『ターメイン』としての、深淵のような冷たさだ。


「……黙りなさい。メイナじゃないでしょ。私は誰?」


 バルトスだけに聞こえる声で小さく囁いた。

 それだけで部屋全体の空気が凍りつく。戦っていた者たちの手が止まり、本能的な恐怖に全員がその場に縫い止められる。


「あんたは学者にでもなりたいの?違うでしょう」


 私は一歩、バルトスに歩み寄る。

 私の影が巨大な獣のように揺れ、彼を呑み込む。


「……騎士なら、頭じゃなく魂で叫びなさい。あんたの守るべき『理』は、そんな薄っぺらい本の中にしかないの?」


 バルトスの顔から色が消える。

 だが、その瞳の奥に、死んでいたはずの「騎士の焔」が、一瞬で再点火されるのが見えた。


 私は、威圧を霧散させ、「メイナ」に戻る。


「……さっさと立ちなさい。バグを直すのは、あいつの仕事。……敵を掃除するのが、あんたの役目でしょ?」


 沈黙。

 次の瞬間、ガシャンッ! と凄まじい音を立てて、バルトスが立ち上がった。

 その体から溢れ出す力は、先程までの迷いを完全に焼き尽くしていた。


「…………承知っ!!」


 咆哮。

 バルトスは剣を正しく中段に構え、一点の曇りもない踏み込みを見せた。


「論理の先にある騎士の使命……今、理解した! ……諸君、道をあけよ! フェルゼンの盾、バルトスが通るッ!!」


 その突進は、もはや一つの嵐だった。

 群がる暗殺者たちを盾一つでなぎ倒し、敵の陣形を崩壊させていく。


「……ふん。やっと再起動したみたいね」


 私は小さく鼻を鳴らす。

 さて、残るはあの、高みの見物を決め込んでいる片眼鏡の男だけだ。


「ヴォルグ。……あのボスの『帳簿』、全部ぐちゃぐちゃにしてあげましょうか?」


「……ああ、言われなくてもそうするさ。」


 ヴォルグが引きつった笑みを浮かべ、ベルフェルドへとにじり寄った。

 決戦の仕上げの時間が近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ