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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜 膝の上の愛猫が最強勇者であることを俺は知らない  作者: 香箱
第三章:怠惰の秩序

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第48話:積層される未来

 俺は怠惰の玉座に深く身を沈めたまま、PC画面をクローン化したリビングの4Kモニターに映るラウンドアバウトの3Dモデルを眺めていた。


「……うーん、やっぱり2Dの図面だけで説明するのは、骨が折れるよな」


 特に、現場を仕切るガラムは頑固な職人だ。石を削って形を作る男に、紙の上の線だけで「円環の合理性」を説いても、納得させるまでに時間がかかる。

(……プロジェクトマネージャーとしては、ここは直感的な『完成予想図』……モックアップが必要だ。それも、手で触れるレベルのやつが)


 時計を見る。バルトスが来るのは明日の午前中。まだ時間はたっぷりある。

 俺は、ニヤリと笑ってスマホを手に取った。


「ポイントなら、腐るほどあるんだ。……ルミナショッピング(日本版)、検索。『3Dプリンター、産業用、フルカラー・マルチマテリアルモデル』」


 画面には、かつての日本ではとても手が届かなかった、最新鋭の造形機が並んでいた。俺はその中から、自動素材交換システムを搭載した、フルカラー対応のフラッグシップ機を選んだ。


【購入完了:産業用マルチカラー3Dプリンター『LUMINA-CRAFT S5 Multi-Chroma』 2,500,000L】


 ――ピンポーン。


 相変わらずの爆速配達。玄関に置かれた巨大な箱を、俺は『玉座』から渋々立ち上がって書斎へと運び込んだ。

 箱を開けると、堅牢なチャンバー構造を持つ本体に加え、上部には16色のフィラメントを同時に管理できる「オート・マテリアル・ステーション」が鎮座していた。


(……美しいな。このメカニカルな威圧感、たまらん)


 俺はさっそく、PCに専用のスライサーソフトをインストールし、3Dプリンターと接続した。

 この『S5 Multi-Chroma』のスペックは、まさに異次元だ。

 最高プリント速度 600mm/s を維持しながら、ノズルが素材を切り替える際のパージ(洗浄)速度も極限まで最適化されている。

 さらに、内蔵されたAIカメラが造形物の表面をリアルタイムで監視し、色混じりや積層の乱れを自動で検知・修正する。人間がつきっきりで監視する必要を排した、まさに「怠惰のためのプロ仕様」だ。


「よし、各パーツに色を割り当て……スライス開始」


 俺はPC上で、ラウンドアバウトの道路を「アスファルト・グレー」、中央島を「グラス・グリーン」、歩道を「ストーン・ベージュ」に設定。さらに道路標識には「警告のレッド」と「規制のブルー」を流し込んだ。

 積層ピッチは高精度の 0.08mm。マルチカラープリント特有の、色を切り替える際のパージ用タワーの設定も忘れない。


「プリント、開始」


 ――シュオォォォン……!


 内部の静音ファンが唸りを上げ、複数のフィラメントがチューブの中を激しく行き来し始めた。

 アクリル窓の向こうでは、ヘッドが魔法のような速さで色を塗り分けながら、何もない空間に「生きた街の断片」を積み上げていく。

 時折、フィラメントを切り替えるカチカチという機械音が、心地よいリズムを刻む。


「……ずっと見てられるな、これ」


 たまが、いつの間にか書斎に入ってきて、色彩が鮮やかに積み上がっていく様子を不思議そうに眺めていた。


「ナァ(……あんた、また新しいおもちゃを買ったわね)」


「……ほら、たま、見てろよ。これが『未来の彫刻』だ。みんなに説明するために買ったんだぜ」


「ナァ(あんたが買いたかっただけでしょ……)」


 数時間後。

 プリンタの終了チャイムが鳴り、ビルドプレートがゆっくりと下がってきた。

 そこには、完璧な色彩で再現された円形の交差点と、色鮮やかなミニチュアの道路標識、そして赤と白の鮮明なコントラストを持つ「旗」のサンプルが鎮座していた。


 俺はそれを丁寧に取り出し、最小限のサポート材をパチン、パチンと取り除いていく。

 

「……完璧だ。これならガラムさんも黙るだろうな」


 テーブルに並べられた、フルカラーのラウンドアバウト。

 芝生の緑、道路のグレー、そして鮮やかな標識の赤。

 それは単なる模型ではなく、明日からこの街にインストールされる「新しいルール」を、誰の目にも明らかな形で見せつける力を持っていた。


 俺は、出来上がった模型をリビングのテーブルへ運び、明日のプレゼンのための資料を整えた。

 

(……よし、準備完了。……あーあ、明日は喋る仕事が多くなりそうだ。今のうちにしっかり寝ておかないとな)


 書斎のPCの電源を落として、俺は『怠惰の玉座』に戻った。

 暗くなったリビングに、完成したばかりのミニチュアたちが、月明かりを浴びて本物の街のような影を伸ばしている。


「……たま。明日は、こいつらを使って連中の度肝を抜いてやろうぜ」


 俺はたまを抱き寄せ、心地よい疲労感と共に、深い眠りへと落ちていった。

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