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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜 膝の上の愛猫が最強勇者であることを俺は知らない  作者: 香箱
第三章:怠惰の秩序

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第45話:モニター越しに、歴史は動いた

 高性能な空冷ファンが静かに回る音だけが、リビングに響いている。


 俺は、組み上げたばかりのPCの前に座っていた。

 4K解像度の巨大なモニターには、ドローンが捉えた「新フェルゼン」の全景が映し出されている。整然と区画整理された石畳の道、魔法で組み上げられた白亜の住宅街。

 そのどれもが、俺が徹夜で引いた「インチキ図面」から生まれたものだ。


「……よし、色温度も完璧。これなら現場の職人の鼻毛まで見えるな」


 俺は、氷を浮かべたコーラを一口飲み、椅子に深く背を預けた。

 窓の外からは、遠く地響きのような歓声が聞こえてくる。今日は新都市の落成式、そして住民の移転が完了したことを祝う式典の日だ。


 ピンポーン。


 リビングでインターホンが鳴る。案の定、そこに映っていたのは、フルプレートの鎧を纏い、デジカメを大切そうに抱えたバルトスだった。


「ゼクト様! 失礼いたします!」


 リビングに入ってくるなり、バルトスは今にも膝をつきそうな勢いで頭を下げた。


「無事に……無事に式典が終わりました! 領民たちは皆、新しい我が家に触れ、涙しておりました。……ゼクト様、やはり、あなた様こそあそこに立たれるべきでした。あの歓喜の渦、あなた様の手で拓いた水の輝きを、直接見ていただきたかった……!」


「バルトスさん。何度も言ったけど、俺は表舞台には出たくないんだ。……」

(あんな人混みの中で、重い服着て何時間も立たされるなんて地獄でしかない。家でくだらない動画でも観てる方が一万倍有意義だ)


「……その、名声すらも切り捨てる潔さ。恐れ入ります」


 バルトスは相変わらずの超解釈で納得すると、デジカメを差し出してきた。


「ゼクト様からお預かりした『魔導記録機』で、すべて収めてまいりました」


 テレビ画面に動画が表示される。


 開幕に登場したのはエリシュアだった。彼女は壇上で魔法の火花を散らしながら、カメラに向かってウインクし、絶妙な角度でポーズを連発している。

「いつものことだけど……これ、歴史的式典だよね? なんで彼女、ソロコンサートのプロモーションビデオみたいなノリなの?」

「エリシュア殿は『これが未来の資料になるのですから、一番綺麗な私を残すべきです』と仰っておりました」


 しばらくはただのエリシュアPV(式典バージョン)だったが、続いてグスタフが壇上に上がった。

 彼は領民たちを見渡してから、声を張り上げた。

『諸君! この街は我らフェルゼンの誇りである! この奇跡を糧に、我らは不滅の歩みを開始するのだ!』

 領民たちが拳を突き出し、「グスタフ様!」「グスタフ様!」と熱狂的に叫んでいる。


 俺はそれを見て、ホッと胸を撫で下ろした。

 よし、「ゼクト」の名前は一言も出ていない。すべては「領主の功績」として処理されている。これなら俺の平穏は守られる。


「……ところで、バルトスさん」


 俺は、映像の隅に映り込んでいた、異様に派手な「金色の馬車」を指差した。


「あの隅っこに映ってる、悪趣味な装飾の馬車……あれ、何?」


 バルトスの表情が、急に険しくなった。


「……王都から勝手に視察に来た、下級貴族の使いだそうです。辺境の街が急激に発展したと聞きつけ、『不遜な贅沢をしていないか調査する』などと抜かしておりました」


「……やっぱりか」


 俺は冷めた目で映像を見つめ、デスクに積まれた分厚いファイリングの束を叩いた。

 そこには、これまで俺が作成した上下水道の設計図、都市構造図、魔導板の仕様書など、「全ての原本」が収められている。

 (グスタフに預けていた設計図や青写真の原本、全部回収してきたのは正解だったな)


「バルトスさん。……現場の職人には、必要な箇所のコピーだけ持たせてあるんだよね?」


「はっ。原本はすべてゼクト様の管理下に。領主様も『これはゼクトさんに管理して頂くべきだ』と。職人たちに渡しておいた写しも、作業完了後に全て焼却済みです」


「……いい判断だよ」

 (王国なんて、クソ重いレガシーシステムの塊だ。あいつらにソースコードを渡してみろ。勝手に自分たちの都合のいいように書き換えて、挙句の果てにバグが出たら責任だけこっちに押し付けてくるに決まってる。……前の会社で散々見た光景だ。もう二度と御免だね)


 俺はここを完璧な「クローズド環境」にして、一生引きこもるんだ。


 モニターに映る式典もクライマックスに差し掛かっていた。

 グスタフが広場の公共用の水場の蛇口をひねる。

 透明な水が勢いよく噴き出した瞬間、領民たちの歓声が地響きのように沸き上がった。


 その時、スマホの通知音が鳴り響いた。


 【Lポイント:+200,000,000L(都市稼働ボーナス:ローンチ成功)】


「……っ!!」


 きたっ。一気に二億ポイント。

 これで、ついにあの商品に手が届く。


「……よし。バルトスさん、悪いけど今日はもういいよ。俺、忙しくなるから」


 バルトスが意気揚々と去っていくのを見送り、俺は震える指でルミナショッピングを開いた。


「ポチッとな……!」


 【購入完了:怠惰の玉座】


 これで俺の引きこもりライフは、鉄壁になるはずだ。なんてったって「玉座」なんだから。

 王国が何を言ってこようが、クレーマーが騒ごうが、俺はこの玉座の上でコーラを飲むだけだ。


「……ミャウ(……何なのかもわからないまま名前だけで買ったわね)」


 膝の上で丸まっていたたまが、呆れたように、でもどこか嬉しそうに喉を鳴らした。


 フェルゼンという名の「新OS」が、今、本格的に起動した。

 世界がどう変わろうと知ったことか。俺の安眠は、玉座と最新PCが守ってくれる。


 窓の向こうのフェルゼンの街を見ていると自然と笑いがこぼれてきた。第45話:モニター越しに、歴史は動いた

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