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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜 膝の上の愛猫が最強勇者であることを俺は知らない  作者: 香箱
第二章:怠惰の辺境

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番外編:黒猫のパーティー

 フェルゼンの街が少しずつ形になっていく。あいつ――ゼクトは、今日もソファでだらしなく寝転がりながら「ポイントまだかなぁ」とか呟いていた。


(……ほんと、あいつはあいつで幸せそうね)


 私は窓辺に座り、街の方角に耳を澄ませた。遠くから、工事の音が微かに響いてくる。あいつが描いた“理想郷の設計図”は、今まさに現実になりつつある。


(裏側は、まだまだ問題だらけよ)


 魔獣の残党、森の魔力の乱れ、古い遺構の封印の緩み。あいつが気づく前に片付けておくのが、私の役目。


「ミャウ(……ちょっと行ってくるわね)」


 あいつの膝からそっと降り、夜の闇に溶ける。月明かりの下で、私は人間の少女――“メイナ”の姿へと変わった。


(さて……今日は北の森の魔力が少し騒がしいわね)


 軽く跳躍し、枝から枝へと移動する。夜風が頬を撫で、森の匂いが鼻をくすぐった。


「おい、そこの嬢ちゃん!」


(……あら)


 松明の光が揺れ、二つの影が浮かび上がる。巨大な盾を背負った男――カイル。その隣には、落ち着いた目をした魔道士の女、リン。あの“地鎮祭の夜”に出会った二人だ。


「あなたたち……また調査?」

「そうよ。フェルゼンの工事が本格化するから、ギルドから追加依頼が来たの。……で、あなたは? また“散歩”?」

「ミャ……じゃなくて。ちょっと、気になる魔力があって」


 リンが眉をひそめる。


「また一人で行くつもりなのね」

「危険だぞ、メイナ。前みたいに偶然助けられるとは限らねえ」


(……余計なお世話なんだけど)


 でも、この二人は悪い人間じゃない。むしろ、妙に放っておけないタイプ。


「……ついてきてもいいけど、足手まといにはならないでね」

「お、おう! 任せとけ!」

「ふふ、頼もしいわね」


(……まあ、たまには悪くないわね)


 森の奥へ進むにつれ、空気がざらつき始めた。魔力の流れが乱れている――魔獣が近い証拠だ。


「……来るわよ」


 私が足を止めた瞬間、茂みが爆ぜた。黒い影が三つ、四つ。牙をむき、低く唸りながらこちらへ飛びかかってくる。


「“影狼”か……数が多いな!」


(まあ、この程度なら――)

 私は一歩踏み込み、指先を軽く払った。漆黒の魔力が刃となり、影狼の首筋を正確に切り裂く。一体、二体、三体――倒れる音が、ほとんど同時に重なった。


「お、おい……今の見えたか?あいかわらず凄ぇな」

「見えないわよ。何あれ……」


(本命は……もっと奥)


 森の奥、古い祠の前。そこに“異様な気配”が渦巻いていた。


「……いたわね」


 祠の影から、巨大な獣が姿を現した。


「なんで黒角熊が森に……!」

「メイナ、下がって!」


 黒角熊が咆哮し、地面が震えた。


「グオオオオオッ!!」


 私は地を蹴り、懐へ滑り込む。魔力の刃を構え、角の根元を狙う――


「メイナ、右!」


 リンの声。熊の左腕が横薙ぎに振り抜かれる。


(……いい判断ね)


 私は体をひねり、攻撃を紙一重で回避。そのまま熊の足元へ潜り込む。


「カイル!」

「任せろッ!」


 カイルが盾で突進を受け止め、火花が散る。


「ぐっ……! 重てぇ……!」


「今よ、メイナ!」


 私は跳躍し、角の付け根へ魔力を集中させた。


「……砕けなさい」


 バキィッ。角が砕け、熊の魔力が乱れる。私は喉元へ刃を滑らせ、巨体がゆっくりと倒れ込んだ。


「……ふぅ。終わったわね」


 カイルは地面に座り込み、肩で息をしている。


「お、お前……本当に何者なんだ……?」

「前も思ったけど……あなた、ただの少女じゃないわよね?」


(……まあ、そう思うわよね)


「ただの……ちょっと強いだけの旅人よ」

「“ちょっと”の範囲が壊れてるんだが……」


 リンが苦笑し、カイルが呆れたように頭をかいた。


「よかったら……これからも一緒に組まないか?」

「危険な場所に一人で行かせるのは、もう嫌なの」


(……パーティー、ね)


 一人の方が速い。でも――この二人となら、悪くない。


「……必要な時だけよ。暇な時だけ、付き合ってあげるわ」

「おおっ! それで十分だ!」

「ふふ、よろしくね。メイナ」


(……まあ、悪くないわね)


 夜明け前、私はそっと家へ戻った。窓から滑り込み、猫の姿に戻ってソファへ丸くなる。しばらくして、あいつが目を覚ました。


「……ん、たま。おはよう。」


「ミャァ……(私は少し眠るわ。おやすみ)」


 私は眠たげに目を細め、あいつの手に頭を擦り付けた。


(……あんたは知らなくていいのよ。)


 そう思いながら、私は再び静かに目を閉じた。


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