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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜 膝の上の愛猫が最強勇者であることを俺は知らない  作者: 香箱
第二章:怠惰の辺境

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第44話:神界、静寂の裏

――神界・主神庁舎。


巨大な水晶盤が、夜明け前だというのに眩しいほどの光を放っていた。

 その前で、主神は額を押さえながら呻いていた。


「……おかしい。フェルゼン領の“安定度”が、また跳ね上がっている……」


水晶盤には、地上の魔力流動図が映し出されている。

 フェルゼン周辺だけが、まるで“深呼吸した後の肺”みたいに澄み切っていた。


「ルミナ。説明しろ」


「はいっ! 全部順調です!」


主神の怒気をまったく理解していない顔で、ルミナが胸を張る。


「……順調?」


「順調です! ゼクト様が昨日も“未来への投資”をされました!」


「未来への……投資?」


「はい! 高性能の魔導端末を購入されました! これで世界の管理がさらに効率化されます!」


「いや、あれはただの日本製PCだろうが!!」


「でもゼクト様が使えば魔導端末です!」


「理屈になってない!!」


主神は机を叩いた。

 水晶盤がビクッと震える。


「そもそもだ。ゼクトはまだ何も“結果”を出していないだろう!

 街はまだ建設途中、魔族も沈黙したまま、ターメインも旅に出ていない!」


「はい! でもゼクト様は“寝る前にコーラを飲む”という偉業を達成されました!」


「偉業じゃない!!」


「でも安定度が上がってます!」


「それが一番怖いと言っている!!」


主神は震える指で水晶盤を指した。


「見ろ! フェルゼンの魔力流動が……完全に“静寂”だ。

 まるで世界があの男の呼吸に合わせて動いているようだ……」


「はい! ゼクト様の怠惰は世界を癒すんです!」


「癒すな!! 働け!!」


「働かせたら死にます!」


「なんでだ!!」


「外出嫌いなんです!」


「勇者のパートナーが外出嫌いって何だ!!」


「でも結果は出てます!」


「結果が出ていれば何をしてもいいわけでは――」


「いいんです!」


「よくない!!」


主神は深く息を吸い、冷静さを取り戻そうとした。


「……ルミナ。ポイント付与の件だが」


「はい! ゼクト様にすぐ付与します!」


「待てと言っている!!」


「なぜですか!」


「街がまだ“稼働”していない。

 システム上、ポイントは“成果が発生した瞬間”にしか付与されない。

 今付与したら……世界の均衡が崩れる」


「えっ……そんな仕様ありましたっけ?」


「ある!! お前が読んでないだけだ!!」


「むむむ……じゃあ、街が動いた瞬間にドカッと入るんですね!」


「そうだ……だから今は絶対に触るなよ……?」


「はい! 触りません! 絶対に触りません!」

(少しぐらいならいいでしょ。……まずは10,000,000L。前金ってところね)


 主神は胃を押さえた。


「……ゼクトが寝ている間に、世界がまた静かになっていく……いったい何者なんだ、あの男は……」


「ただのすごい引きこもりです!」


「それが一番怖いんだよ!!」


 こうして神界は、今日も静かに、しかし確実に混乱していた。

 

――その頃、地上では。


 ゼクトはソファで、昨日届いた最新型PCの箱を抱えたまま眠っていた。


「……ここを……こう繋いで……もっと速く……」


 夢の中で、最新PCを組み上げている。

 遠くで響くフェルゼンの工事音は、今日も変わらず彼の子守歌になっていた。

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