第43話:怠惰の余韻と、不穏の気配
フェルゼン改革を一気に片付けた(はずの)翌朝。
俺はソファに沈み込み、スマホの画面をぼんやり眺めていた。
(……まだ入ってないか。まあ、そりゃそうだよな)
ルミナショッピングの右上にある“Lポイント”の数字は、昨日と変わらず。
あれだけ頑張ったんだから、そろそろドカッと入ってもいいと思うんだけど……まあ、街が実際に動き始めてからだろう。
ポイントってのは、たぶん“結果”に紐づくシステムなんだろうし。
「ナァ(……また変なこと考えてるわね)」
「ん?べつにいいだろ。努力したら報酬が欲しいって、普通の感情だよ」
「ナァ(努力……?)」
「……おい、今の鳴き声、絶対バカにしただろ」
たまが尻尾をゆらゆら揺らしながら、俺の膝に乗ってきた。
俺はスマホを置き、天井を見上げた。
(……しかし、これからどうなるんだろうな)
フェルゼンの街は、今まさに“建設フェーズ”から“稼働フェーズ”へ移行しようとしている。
水道、下水、道路、学校、税制、ID管理……。
俺が適当に描いた図面やアイデアが、あいつらの手でどんどん現実になっていく。
(順調にいけば、街は勝手に回る。俺はソファでコーラ飲んでればいい)
それが理想だ。
だが――
(……まあ、問題は絶対出るよな)
街が動き始めれば、どこかで“バグ”が出る。
水道は“水圧バグ”になるかもしれない。魔導板は“同期エラー祭り”になるかもしれないし。
税制は“計算できない商人”なんてのもいるかも知れないな。
学校に“子供が来ない”ってのは嫌だなぁ。
俺の経験上、システムってのは動かした瞬間に一番トラブルが起きる。
(……まあ、全部“起きる前提”で考えておけばいいか)
問題が起きたら、その時考える。
俺はそういう生き方でここまで来たし、これからもそうだ。
(とはいえ……今のうちに準備できることは、やっとくか)
俺はソファから半身を起こし、スマホを手に取った。
俺はルミナショッピングを開き、“日本製品”カテゴリをタップした。
(……あった。最新型のハイエンドPC)
値段は――
【1380,000L】
(……安いな)
日本にいた頃なら、絶対に買わないロマン構成だ。
だが今は違う。
異世界商品が数百万〜数千万Lする中では、むしろ激安に感じる。
(ポイントが入ったら“怠惰の玉座”を買う予定だし…… その前に、作業環境を整えるのは悪くない)
「ポチッとな」
【購入完了:ハイエンドPC(日本製)】
(よし。これで動画視聴も、フェルゼンの問題管理も、全部快適になるな)
俺は軽く伸びをして、ソファに沈み込んだ。
(街が動き始めれば、ポイントも入る。そしたら“怠惰の玉座”も買える。……ふふ、楽しみだな)
コーラを一口飲み、俺は目を閉じた。
(さて……フェルゼンが本格稼働するまではダラダラしておくか)
「たま、疲れたから今日はもう寝るよ」
「ナォン(ネットで買い物しただけでしょ)」
玄関の方で、小さく何かが置かれる音がした。 爆速ルミナショッピングの“いつもの配達音”だ。
(……あ、届いた。早いな……)
意識がふわりと沈んでいく。
遠くで、フェルゼンの工事音がかすかに響いていた。
木材を運ぶ音、ゴーレムの足音、職人たちの掛け声……
全部が、少しずつ街が形になっていく証拠だ。
(……まあ、いいか。PCの設定は明日で……街も……そのうち勝手に動くだろ……)
コーラの余韻と、たまの体温に包まれながら、
俺はそのまま静かに眠りへ落ちていった。




