2
明日に備えて今日は早く寝よう、と思っていた矢先に李珠さんからSky′sのグループ宛てにメッセージが届いた。
『明日の持ち物確認! 皆おっけー?』
その後に続いて、先日確認しておいたアカペラ歌唱大会持ち物図鑑という名の一覧表画像が送られてくる。私は改めてリュックに入れた荷物を全て確認し、グループにオッケースタンプを送信する。
私の他にも、沙希さん、玲奈さん、美波さんも荷物確認を完了したようで、それぞれオッケースタンプを送っている。少し待ってから、李珠さんのメッセージが投下された。
『よし! じゃあ今日は早く寝て、明日巡逢駅に朝九時集合ね! 遅刻厳禁!』
私は枕元の目覚まし時計と、スマホのアラームも確認する。両方、朝の七時になるようセットしてあるし、スマホに至っては最悪の場合を予想して七時半と八時にも鳴るようセットした。それでも起きなければ、祖父母に叩き起こしに来てほしいとお願いもしてある。
『良いね? 美波?』
李珠さんが特定の誰かさんに向けてメッセージを送る。
『名指しやめて。流石に遅刻はしないからご安心を』
美波さんの返信にクスリと笑みを零していると、李珠さんから最後のメッセージがきた。
『私達の力、出し切ってくるだけだから! 余計な事なにも考えず楽しみましょう! おやすみ!』
沙希さん、玲奈さん、美波さんが『おやすみ』とメッセージを送る。私も送って、スマホをベッドに置いた。寝っ転がって、ふぅと息を吐く。
「……私だけ、なのかな」
そんな声が、ポツリと漏れ出てしまう。枕元のライトを消すと、真っ暗になった部屋で私は寝返りを打つ。ごろごろと横になるが、一向に眠気は訪れない。目が冴えている。明日のことを考えて脳が興奮状態になっているからだろうが、原因はそれだけではないような気がした。
明日は、アカペラ歌唱大会だけの日じゃない。私が通う、Sky′sの皆が通っている、碧天高校の文化祭だ。高校の文化祭は人生に三回しか訪れない故に、楽しみにしている外せない行事であるはずで。
別に、文化祭を蹴ってアカペラ歌唱大会に出場することを後悔しているわけじゃない。もし九月一日に戻って、もう一度李珠さんの部屋でアカペラ歌唱大会に出てみようかと言われれば、私は迷いなく頷くだろう。
文化祭よりアカペラ歌唱大会の方が大切。正直、その気持ちに揺らぎはないのだけど。
「本当に良かったのかな……」
考えてしまうのは、クラスメイトのこと。五人も欠員が出てしまって、本番の役割だけじゃなく準備にも非協力的。反感を買っているのは、間違いない。
それとも、気にしているのは私だけ? 李珠さんも沙希さんも美波さんも、玲奈さんだって文化祭の話題は口にしない。今日、羅菜さんと会った時だって、私の目から見た羅菜さんは不満そうだったけど、十架さんと春さんから見た羅菜さんは普段通りだったって言うし。
文化祭って、学校行事って、クラスの人間関係って、こういうものなのかな。本当にクラスの皆は、私達Sky′sを応援してくれているだけ? 本当に李珠さん達は、文化祭なんて出なくても良いと思っているの?
私は……私は、アカペラ歌唱大会に出たい。出て、優勝して、Sky′sの知名度を上げて、有名になりたい。それで、いつかは大きいところでライブとかもしてみたい。
でも、それと同時に、やっぱり思ってしまうのだ。
文化祭にも、出てみたかったなって。
もしアカペラ歌唱大会で優勝できなかったら、Sky′sの皆と、十架さんと春さんと、文化祭を回っておけば良かったんじゃないか、そう後悔するんじゃないかって。
それが少しだけ、怖い。
暗い部屋。秒針を刻む目覚まし時計の音が耳に障る。
ギュッと目を閉じると、途方もない、真っ暗な世界が広がった。




