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巡逢といえばキッチンカー。といえるほど、巡逢の可愛いが一番集まっている松上通りには、わたあめやらクレープやらのキッチンカーが密集していた。休日ということもあって観光客も多く、そこかしこで行列ができている。
「忙しそうだね……」
もし自分がここで働くなら、と想像したのだろう沙希が、げんなりした顔でそう言った。アルバイトを募集していて忙しくない店などないだろうが、沙希の気持ちは解らなくもない。休日のスーパーや飲食店もそれなりに混みはするだろうが、どこぞの有名店でもない限り四六時中混んでいるわけではなく波があるはず。加えて、調理場以外であれば冷房や空調が効いているだろうが、キッチンカーは車内とはいえほぼ炎天下で作業しなくてはならない。少し涼しくなってきたとはいえ、今年の日本は十月でもまだまだ暑い。それに、当たり前だが冬になれば寒い。
「キッチンカーはやめましょう。私達にできる所業じゃないわ。ああいうのは才能がないと」
その才能、名前は体力と言う。私にはないから却下だ。
だが、玲奈は少し興味があるようで、瞳に好奇の色が滲んでいた。
「確かにクレープとかわたあめは技術いるかもしれないけどさ、ドリンクはどう? ほら、あそこのタピオカ屋さん、ちょっと並んでみようよ」
玲奈が指したタピオカ屋さんは、タピオカミルクティーが看板メニューらしいお店だった。白の車に紺の屋根と巡逢ではあまり見かけないシンプルな外観だが、そこに寧ろ格好良さを感じる。人も並んでいるが、他のキッチンカーに比べると圧倒的に少ない。ひぃふぅみぃ、五人くらいだ。
玲奈がキッチンカーに貼られたメニュー表に吸い寄せられてしまったので、私と沙希も後をついていく。飲み物だけでなく食べ物も売っているが、お団子やシャーベットなど、これまたシンプルな見た目のものが多い。
お昼を食べたばかりということもあって、私は珈琲に似たフラットホワイトというものを注文することにした。三人で列に並び、順番を待つ。
「なるほど。人ひとりを捌くのに、大体三分程度ってところか。キッチンカーの中にいる人は二人。一人はお金とか注文のやり取りで、もう一人は調理ね……」
玲奈が分析を始めた。もしや、本当にここで働くのかもしれない。
「お客さんとやり取りするのは大変かもだけど、調理の方に回されれば結構楽しめるかも。キッチンカーで働くの、子供の頃に憧れてたし」
「そうなの? でも、調理って調理師免許がないと無理なんじゃないかしら。アルバイトなら問答無用で接客に回されるんじゃない?」
私は言いながら、車内に目をやる。お客さんの頭でよく見えないが、一人の店員さんが奥でドリンクを容器に入れているのが判る。
「ああいうやつなら、免許なくても大丈夫じゃない? ほら、スーパーだって、バイトらしき学生さんが総菜部門で働いてたりするって話、よく聞くし」
玲奈の言葉には妙な説得力があった。なるほど。サーティーツーアイスクリームだって、たぶんバイトだろう人がアイスをカップかコーンに入れて提供しているし。予め用意されているものを容器に移して提供するだけなら、調理師免許はいらないのだろう。
「でもここ、出来立てが売りだって書いてあるよ」
沙希がスマホを見ながらそんなことを言う。見せてもらった画面には今目の前にあるキッチンカーのHPが映っており、『常に出来立て』とメニューページの上部には書かれている。私達は揃ってキッチンカーに目をやった。店員さんは二人。一人は接客でもう一人は調理。お客さん一人を捌く時間は、未だ変わらず三分か五分程度。とても、出来立てを提供できるスピードとは思えない。
「美波は、何頼むんだっけ?」
玲奈と沙希より前に並んでいる私に下見をさせる作戦だろうが、そうはいかない。
「フラットホワイトよ。私は炎天下で働くなんて度胸ないから、出来立ての真相を確かめたいのならあなたの力でどうにかなさい」
飲み物はサーバーか何かから出している様子が解るが、食べ物はもしかしたら本当に裏で作っているのかもしれない。玲奈が沙希の顔を見た。沙希は首を横に振って、私もここで働く気はないという意思を明確に伝えていた。
肩を落とした玲奈は、沙希にスマホを見せてもらいながらメニューの確認を始める。
順番が回ってきたため、私はやけに顔が整った大学生くらいのお兄さんにフラットホワイトを注文する。代金を支払っている間、調理係のお姉さんがエスプレッソマシンを使ってフラットホワイトを作り始める。ぼーっと眺めていると、あることに気が付いた。
奥にもう一人いる。調理係だろう女性がもう一人、こちらに背を向けて何か作業をしている。そして、こちらを向いたかと思うとエスプレッソマシンを動かしていたお姉さんに小さく声をかけた。
「どうしよう佐々木さん、パンが足りないかもしれない」
「あー、今日混んでるもんねぇ。ま、無くなったら無くなったってお客さんには言うよ」
パンが足りない。そこから導き出されるこの女性の役割は、食べ物の調理なのではないだろうか。加えて、キッチンカーに貼られた紙が目に入る。『調理師全員JBAバリスタライセンス取得者! 本格プロの味!』と黒の極太ペンで書かれていた。私が後ろを向いて玲奈に教えてあげようとすると、玲奈は酷く冷めた顔をしていた。現実に戻ってきたかのような、萎えた、というような、そんな顔だ。
私がフラットホワイトを受け取った後、玲奈は「珈琲をひとつ」と言った。




