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そうしてきたる、土曜日。面接は学校の制服を着て行うとのことだったので、私達は碧天高校の制服を着てテレビ局に訪れていた。初めてのテレビ局、ごくりと生唾を飲む。控室で、私は身だしなみを入念にチェックしながら、鏡で笑顔の練習をしている李珠に訊ねる。
「ね、ねぇ、面接ってどんなこと訊かれるのかな?」
「さあ?」
「さあって……李珠、アイドルのオーディションとかいろいろやってたんでしょ? なんか、想像できないの?」
「えー? アイドルとこういうテレビ番組のオーディションは全然違うし。でも、そんな張り詰めた顔しなくて良いと思うよ? だってたぶん、撮影入るし」
「え、どういうこと?」
「沙希、見たことない? 歌唱大会の番組とかで、出場者が歌い始める前に、その人の紹介VTRが流れたりするでしょ? その時に、オーディションの映像とか面接時の映像とか入るじゃん」
「へうっ⁉」
そう変な声を出したのは、私ではない。さっきからずっとトイレと控室を行き来している瑠琉が、戻って来るなり青ざめた顔で小刻みに震え出した。隅で面接対策ノートと睨めっこしていた玲奈も、顔を上げて李珠をガン見している。美波だけは、ヘッドフォンを耳に当てて音楽を聴き続けていた。あれはあれで、心を落ち着かせているのかもしれないが。
「え、え、きょ、今日、さ、さささ、撮影、入るんですかぁ?」
緊張しすぎではないだろうか。いや、そりゃそうか。私は小学生のときダンス大会に出まくったおかげでテレビ局や新聞社からの撮影にはある程度の心構えができているが、瑠琉は何らかの大会に出た経験が皆無だと言う。まぁ、私もけっこう緊張してるんだけど。手汗がやばい。
「だーいじょうぶ! 瑠琉は今日も可愛いよ!」
「い、いえ、私いまから、美容院いってきまふ……」
「なーに言ってんの! 面接、あと三十分で始まるんだから!」
李珠が言って、私はスマホを確認した。時刻は十時半。面接開始は十一時。吐きそう。
バタバタしている間にも、あっという間にその時はやってきた。スタッフさんらしき女性に呼ばれて、私達は面接会場となっている会議室に足を運ぶ。
李珠がドアを開け、続いて私達も中に入る。長机に、三人の男性が並んでいる。一人一人が、当たり前だけど私達のことを見ている。椅子が用意されているけど、座っても良いのだろうか。
「どうぞどうぞ、座ってください」と真ん中の男性に言われ、ガチガチの身体で座る。
「初めまして、私、高校生限定アカペラ歌唱大会のプロデューサー、角田浩二と申します」
真ん中の男性、角田さんは三十代ほどの、黒縁眼鏡が特徴的な男性だった。笑った時のえくぼが特徴的で、親しみもあるが怪しさもある、まさにテレビ局といった感じの風貌だ。
左右の二人も、林さん、奥田さん、とそれぞれ自己紹介をする。
「初めまして、Sky′sです」
こちらも代表者の李珠が挨拶をし、私達も順番に自己紹介をしていく。
「い、一条、沙希です」
「ん? あ、ごめんなさい、ちょっと聞き取りずらくて」
「一条沙希、です!」
「ああ、はいはい」
私だけ声が小さいという若干胸にくる指摘はあったものの、テンポよく面接は行われていく。エントリーシートに書いた応募動機や歌唱バトルにかける想い、Sky′sの活動記録などを深堀りし、歌う曲に関する思い出や優勝賞金は何に使いたいかなど、細かい調査が進む。バクバクしていた心臓も、李珠や玲奈が積極的に喋ってくれるからか途中からは落ち着いてきて、角田さんが言ったジョークなんかにも笑えるようになっていた。
林さんと奥田さんはずっと無言で、私達が言うことをメモしたり、相槌を打ったりしている。
「はいはいはい……うん、Sky′sさんのことについてはよく解りました、はい。では最後に、ちょっと確認の方だけさせていただきたいんですけど……」
長いようで短かった面接も終盤に入り、私はちらと壁掛け時計を見る。十一時四十分。これが終われば皆でお寿司でも食べに行こうと話しているので、ちょうど良い時間だ。
「ではまず、一条さん」
「はっ、はい!」
唐突に名前を呼ばれ、肩が跳ねる。角田さんは「そんなに驚かないで。リラックスリラックス」と言ってくれるが、何を確認されるのか怖くて私の身体は再び緊張感で強張る。そんな私に、角田さんは優しい顔で言った。
「一条さんは小学生の時にダンス大会で優勝した経験もあるとお聞きしたんですが、当時の映像やトロフィーなんかの写真があれば、番組に提供していただきたいんですよ」
「そ、それは、お茶の間に幼い私が映るということ?」
「一瞬ですよ。別に恥ずかしいことじゃありませんし。できるなら、お借りしたいなーと」
「わ、解りました」
たぶん母が残してくれている、はず。もしなかったとしても、YouTubeに無断転載されてるやつが上がってたはずだし。
「じゃあ次、美波さん」
「はい」
角田さんが美波に訊いたのは、美波が個人で作っている曲を番組で流しても良いか、ということだった。美波は特に何も思わないといった様子で即オーケーし、瑠琉も衣装を番組で写しても良いかというお願いに「勿論です!」と興奮気味に返す。
それと、角田さんは収録前に私達の部屋にお邪魔したいと言ってきた。穂條家だけではなく、私の部屋や美波の部屋、瑠琉が衣装を作っている風景や、玲奈が動画の編集をしている風景、また、Sky′sが歌だけでなくダンスの練習をしているところや、動画を撮っているところなど、一日か二日ほどかけて、密着取材をしたいと言ってきたのだ。勿論、住所はバレないようにするという条件付きで。
私達はその場で親に確認し、全員がオッケーを貰うことに成功。私の母は今から掃除をするという無駄なことを言い始めていたが、まぁオッケーが出て良かったと一安心。
「よし、じゃあこれで本当に、最後の質問です」
角田さんは手元の資料をパラパラ捲りながら、私達の瞳をじっと見る。
「穂條さん」
だが、角田さんが見つめていた先は、李珠一人だった。代表者に意気込みか何かを訊くのだろうか。そんな呑気なことを考えていた私の耳に、角田さんの真剣な声が響く。
「今年のアカペラ歌唱大会には、桜乃夢さんがゲストにいます。……よろしいですか?」
私と瑠琉の顔から取り繕った笑顔が消えた。唾を飲みこんだ瑠琉の顔を見れば、目を見開いて表情筋が固まっている。前にいる玲奈の横顔も同じような感じで、美波は静かに李珠を見ていた。
李珠は。私に背中を向ける李珠は。どんな顔をしているのか。
暫しの無言の後、李珠は言う。
「……大丈夫です」
角田さんが問いかけた“よろしいですか”は、どんな意味なのだろう。李珠が返した“大丈夫です”は、どんな意味なのだろう。
「では、質問はこれで終わって……次は歌唱審査にいきましょうか。皆さん、ちょっと移動してもらって良いですか?」
角田さんが立ち上がり、私達も立つ。歌唱審査は単に歌唱の審査だけでなく、テレビに映った際どの程度映えるかなども確認するためと角田さんは笑いながら言った。
スタジオに向かう最中、私は李珠の横顔をちらと確認する。
けど、その表情はよく解らなかった。緊張しているようでも、不安そうでもあって。
ただ一つ、楽しんではいない、ということだけは、確かだった。




