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書類審査が通った。その通知が届いたのは九月中旬の平日。英語の小テストが赤点だったと嘆きながら放課後の再テストに向けてせっせとルーズリーフに単語を書きまくる私と李珠を尻目に、美波と玲奈と瑠琉が優雅に昼食を摂っていた時のことだった。
ピロン、と李珠のスマホが鳴った。そして、確認した李珠が「うわっ」と大きな声を出した。教室にいる全員の目を集めたその声に、李珠の背中は丸くなり……全身がプルプルと震え出す。
「どうしたのよ、また炎上したの?」
「ちがわいっ!」
炎上じゃないと解った美波は興味を失ったのか、「そう」と淡白に返して牛乳パックのストローに口をつける。李珠は英単語そっちのけでスマホを凝視しながら、
「ねぇ、トイレ行かない?」
と私達をトイレに誘った。勿論、女子高生のトイレ誘いが本当にトイレをしにいくだけじゃないことは私にだって解っている。昼食又は英語の勉強が一段落した私達は、机の上を片付けると一斉に席を立った。
が、向かった場所はトイレではなかった。流石に五人全員でひとつのトイレに押しかけては本当にトイレを利用したい方々の迷惑になると思ったのか、はたまたトイレは適切な場所ではないと判断したのか、李珠が私達を連れて行ったのは体育館裏であった。漫画なんかだと、よく苛めの現場になる場所である。
昼休みの体育館に人気はなく、体育館裏にも人気はない。たまに中庭かどこかへ向かう生徒が遠くを歩いているが、私達の会話が耳に入る心配はないだろう。
到着して開口一番、スマホに届いたメールを見せながら「書類が通った」と言った李珠は、咲きそうで咲かないもどかしい蕾のような顔をしていた。
「……通った。通ってしまったか……」
「えっ、通ったんですか⁉ てことは次は面接……えっ、凄いじゃないですか! 凄い凄い!」
李珠と同じような顔をする玲奈と、対照的に満開の笑顔で手を叩く瑠琉。私はどちらかというと李珠みたいな顔をしていた。青い空に薄い雲が掛かる。足元に陰ができるも、今日の最高気温は三十二度。まだまだ猛暑が続く空気は温く、私の身体にべたべた触れてくる。
「書類って、どのくらいの人が通るものなのかしら」
李珠の顔でも瑠琉の顔でもなく、いつもの平淡さで美波が誰にともなく問いかける。李珠がスマホを見ながら、その問いに答える。
「Twitterの公式アカウントを見た感じ、一人参加も一チームと数えて五十チームらしいね。今回のアカペラ歌唱大会はA、B、C、Dの四ブロックに分けられて、各ブロック五チームが参加、各ブロックの中で一番点数の高かった代表チームが準決勝に進める。で、トーナメント戦でAとBの代表同士、CとDの代表同士がぶつかって、勝ち上がったブロックの代表同士で決勝戦が始まるって感じだから……最終的には二十チームが残るのかな」
なるほど。よくある大会の方式だ。私も事前にアカペラ歌唱大会について調べたが、半年に一回行われる大会で、なんと地上波のゴールデンタイムに三時間で放送されるらしい。なかなかの規模だが、勿論、出場したいと願う高校生の数はごまんといるわけで。
「公式Twitterを調べた感じだと、去年の応募総数は三三六チームだったらしい」
「三三六⁉ そ、それって、高校生アカペラ歌唱大会だけで、ですか?」
目ん玉を飛び出す瑠琉に、李珠は大きく頷く。
つまり、今回も三百以上の応募があったとすれば、私達は最低でも五十位には入ったということ。私達の実力が、三百チーム中五十位……これは、誇っても良いことなんじゃないだろうか。
「す、すごいね、ねぇ玲奈……」
崩れ落ちそうになる衝撃に、思わず隣にいた玲奈の袖を触る。が、玲奈から反応はない。玲奈も同様に衝撃を受けているのか……否、衝撃、というよりかは恐怖、なのだろうか。俯いて、思い詰めたような顔をしている玲奈に、私は「玲奈?」と呼びかけてみる。
「え? ああ、沙希……なに?」
現実に戻ってきたような顔をする玲奈に「大丈夫?」と問えば、「大丈夫」と貼ったような笑みが返ってくる。何か思うところがあるようだが、無理に訊き出すのはやめた。
「李珠の話を聞く感じ、面接で落とされるのは半分以上、三十チーム……」
「私達にとっては狭き門、ですね」
美波と瑠琉が分析を始めている。確かに、半分以上落とされると考えれば私達にとっては狭き門だ。こういうテレビ番組が行っている大会って、前回出場したけど惜しくも優勝できなかったチームは今回も出場してくるだろうし、番組が面白くなる保障があるのなら出場が約束されているとも言える。となれば、出場できる二十チーム中十チームくらいは、もう面接なんかパスできるのではないだろうか。いや、それは流石に昔のテレビすぎるやり方か。
「大丈夫だよ、きっと」
心配の色を浮かべる私達に、李珠が確かな声でそう言った。
「大丈夫。面接で歌う時も……いつも通りにしてれば、大丈夫だよ」
その言葉に、美波、瑠琉、玲奈は頷くが、私は頷けなかった。だって、いつも通りが私には難しいから。大舞台とか、面接とか、私はそういうのが大の苦手だから。
上手く喋れなかったらどうしよう。緊張して、先月の夏祭りのステージの時みたく失敗してしまったらどうしよう。
面接の日程は来週の土曜日。私は震える指で、スマホのカレンダーアプリを開いた。




