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Sky’s  作者: 白咲実空
#10.ヒビキ
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79/100

6

 一般人が参加する地域のイベントに、かっちりとしたリハーサルは存在しない。フリーステージが始まる一時間前に参加グループがいるかの確認を受付で済ませ、そこから出番までは自由時間……なのだが、私達はアイドルなので衣装に着替えるのと、簡単なメイクをする必要がある。そのため花雫かだ祭り運営委員会の拠点となっている交流センターの一画を借り、そこで諸々の準備を行っていた。

「うわぁ、今回の衣装もすっごく可愛いよ!」

「ふふっ、ありがとうございます」

 着替え終わった李珠りず瑠琉るるが笑みを浮かべて机にメイク道具を広げる。私は鏡台で自分の姿を確認して、おかしいところはないか入念にチェックをする。

 今回の衣装は夏らしさを意識したワンピースとのことらしい。パフスリーブにミディ丈と少女らしい形に、全体の生地は薄い水色だが白のセーラー襟が付いている。胸元はメンバーカラーのブローチが施された青のネクタイが飾っており、派手すぎず地味すぎずな可愛いデザインだ。

 李珠は髪型を変えるようで、両サイドに細い編み込みを作っている。瑠琉も、短い髪だが低い位置で二つ結びにしていた。美波みなみ玲奈れいなは普段通りの髪型でいくようだ。二人ともライブ後に寄る屋台の話で盛り上がっている。

「ねね、沙希さきは髪型変えないの?」

 李珠に問われ、私は自分のサイドテールに手をやる。気分転換に変えてみても良かった。寧ろ変えた方がこの緊張も少しは和らぐのかもしれない。

 けど、このサイドテールは私のお守りみたいなものだ。小学生の頃のダンス大会は決まってこの髪型だったし、この髪型が一番落ち着くような気もする。

 変えない、と答えると李珠は「じゃあこれ」と私に髪ゴムをくれた。花をモチーフにした飾りがついており、ガラスで作ったような花弁は赤色だが透明感がある。宝石のような花だった。

「良いの?」

「うん。百均で買ったは良いんだけど、使いどころがなくてさ。良かったら、沙希にあげる。……って、子供っぽかったかな」

「ううん……。ありがとう」

 髪ゴムを変更し、サイドテールを結び直す。李珠に教わりながらメイクを施し、準備は完了した。

 フリーステージが始まるため、私達はステージ傍の仮設テントまで移動する。自然と俯く目線を上げれば、行き交う人達の大半が私達に視線を送っている。当然だ。浴衣か私服しか着ていない中を、五人組の少女が同じワンピースを着ているのだから。どこの五つ子かと思うだろう。

 フリーステージでは現在、西瓜早食い競争の表彰式が行われている最中だった。一位は七十歳のお婆ちゃんで二位は五歳の男の子なのだから、幅広い年代が参加していると判る。

「それでは次に、フリーライブの演目に入っていきたいと思います!」

 女子大生がマイク越しにハキハキ喋り、一番目のグループ名を私達がいる仮設テントに向かって呼びかける。私達は一番目ではなく、前の方で控えていた楽器を持ったバンドがテントを去る。

「あのバンド、YouTubeで活動してるみたいだよ」

 李珠がステージの様子を窺いながらそんなことを言った。好奇心も興味もない、ただ空いた時間を埋めるためだけに繋がれたような声色だった。

「さっきからMCやってるお姉さんも、近くの専門学校でアナウンサーコースに行ってるみたい」

「ふーん。どうして李珠がそんなことを知っているのかしら? 知り合い?」

「いや、去年のMCと同じ人だったから。バンドは調べた。ほら、ライバルだし」

「ライバルって……大きい大会でもないのに」

 美波が呆れたように呟くが、李珠は「大なり小なりランキングは付けられるんだから! 全力でぶつかっていかないと!」と拳を前に突き出す。え、待って今なんて言った?

「ら、ランキング? 一位だけ決まるんじゃ……」

 私が聞いたのは、表彰式に出られるのは一組だけ。二位も三位もなく、一位のグループのみが決まるという話、ではなかったか?

「あれ、言ってなかったっけ? お客さんが知るのは一位のみだけど、詳しい投票結果は運営に頼めば出演グループだけ見せてもらえるんだよ? 勿論、花火が始まる前に見に行こうね!」

 なかったようだ。え、えっと、確か、出演グループは全部で七組だから……四位以上が理想だけど……。いや、でも李珠は一位を狙うつもりらしいし、私も勿論優勝を狙うつもりではあるけど、順位を意識したらなんか、緊張感が増してきたような……。

「沙希さん、大丈夫ですか? 顔色が……」

「だ、大丈夫大丈夫、ちょっと水飲むね……」

 深呼吸深呼吸。温くなった水を喉に流し込み、顔を天井に向ける。暑いな、今日も。

「沙希」

 くらくらしていると、玲奈に声を掛けられた。

「楽しもうね」

 と言いつつも、玲奈の顔色も少し悪い。口元は引き攣っているし、腕を組んだポーズをしているが爪が肌に食い込んでいる。痛いだろうに、気が付いていないようだ。

Sky′s(スカイ)のみなさーん、準備お願いしまーす」

 スタッフのお姉さんがテントを覗いてそう言う。あれ? もう出番? 私達って確か、三番目だったはずじゃ……。

「えっ、もう一組目終わったの? は、はや……」

 一組目のバンド演奏を全く聴いていないまま、早くも二組目のマジックショーが終了間近になっていた。しかもマジックは子供だましのものではなく、外国で修業を積んできたらしい中国人が魔法とも呼べるマジックを披露して客席を盛りに盛り上げていた。コ、コレノツギニヤルノ?

「ねぇねぇ、円陣組もうよ!」

 李珠がウキウキした様子で、私の肩に腕を回してくる。え、円陣組むの? こんな時に?

「こんな時だからだよ! 最後にもう一回気合入れた方が、ライブも上手くいくって!」

「李珠、さっきからテンション高いね……」

「当たり前じゃん! 久しぶりのステージなんだもんっ」

 久しぶりの、ステージ……。そっか、李珠はColorful(カラフル)Stars(スターズ)オーディションのライブが最後で、それ以降は先生や養成所の生徒の前で練習成果を披露することはあっても、客席の前で歌ったり踊ったりしたことはなかったんだっけ。

 私は、小学校のダンス大会が最後で、中学校は部活でダンスをちょろっとしていただけ。最後に人前で踊った記憶は文化祭の……あ、頭が痛い。忘れよう、あの時の記憶はなかったことにしよう。

 ……でも、そっか。

 私また、ステージに立って踊るんだ。

「か、掛け声、どうする?」

 何故か声が裏返ってしまった。頬に熱が集中するも、李珠は気にせず口を開く。

「Sky′s、ファイトっ。その後全員でオーって言おう」

 反対意見はなく、シンプルな掛け声で決定した。別に、言葉なんて何でも良いのだ。頑張ろうって気持ちが一つなら、それで良い。

「Sky′s、ファイトォっ‼」

 運動部顔負けの大声を李珠が放ち、続いて「オーっ‼」と全力な声が上がる。片足をダンっと五人全員で前に踏み出せば、肩に回した腕の力も引き締まる。

 緊張と不安、期待が混ざった表情を浮かべた私達は、ゆっくりとテントの幕を開けた。

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