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夜の街は明るく、前を向けばアイドルのライブ映像が映った大型LEDビジョン、後ろではアドトラックが広告を響かせて走り去っていく。人と食べ物の匂いで充満した空間に目が醒めるような心地で、私はぼんやりとどこかを眺める。
「じゃ、またね」
李珠が軽く手を上げると、瑠琉と沙希もまた手を振って見送る。
「また次の練習日に」
「じゃあね、美波」
私達の短い旅は終わった。「ええ、また」と美波は軽く会釈してバスロータリ―に向かって行く。今夜が過ぎれば、どうせまた明日か明後日か、練習か打ち合わせの日に会える。会えなくたって、連絡を取り合えば繋がることはできる。
のに、私は「美波っ」と呼び止めていた。
振り返った美波が、首を傾げてこちらを見ている。
「どうしたの? 用事ならまた今度で良いかしら。バス、早くしないと行ってしまうから」
「バス、これが最後?」
美波は瞬きをした後、明後日の方向を見て思い出すように言う。
「そんなことはないけれど。三十分に一台。十時半が最後よ」
現在時刻は十九時四十分。なら、まだ大丈夫なはずだ。私はキョトンとしている皆を見て、
「ねぇ、今から晩御飯行かない?」
と、緊張しつつも言った。無理なら無理で構わなかった。でも、私には確信があった。いつもなら駅内で各々の行先に向かって解散するのが、今日は皆で美波をバスロータリー近くまで見送りに行くことになった。誰かが送ろうと言ったわけではないが、改札を抜けた私達の足は自然とそちらの方に、流されるように向いたのだ。
皆もきっと、私と同じ気持ちのはず。
沙希、李珠、瑠琉、美波は互いに顔を見合わせると、一様に口角を上げた。美波が戻ってくると、私達はまた駅の方を目指して歩き出す。
「何食べる? 駅の中でも良いけど、近くの洒落たお店でも良いよね」
「あら、沙希にしては珍しい選択ね。いつもならできるだけ人目に付かない場所を選ぶのに」
「お昼は麺でしたから、夜はご飯系が良いですね」
「じゃあ、玲奈は何が良い?」
「えっ、私?」
李珠に振られ、私は返答に迷う。洒落たお店で、ご飯系で、皆が好きそうなところ……か。
「どうするどうする? 瑠琉はああ言ってるけど、別に麺が良いなら麺でも良いよ? お洒落なところなら、高級レストランとか高級焼肉とか!」
「いや、なんで全部高級……」
なんか、今日の李珠は突飛な提案が多いような気がする。氷山神社に向かうバスに乗っている時も、タクシーでミュージアムに行こうと言ったり。ハンドメイドのお店に行ってみたいと言ったり。お昼も、李珠の好きなもので良いって言ったのに、何故か私に意見を求めてきたし。そもそも関東の色んなところに行くと決まった時も、他の皆は神社とか公園とか、埼玉・千葉と行き来しやすい場所を選んでいたのに対し、李珠は神奈川のグルメや山梨の湖、関東を飛び越えて長野の登山にまで興味を示す始末だった。
しっかりした纏め役のイメージが定着していただけに少し意外だったが、遊びに行くことにテンションが上がっていただけとも言える。
「ちょっと、玲奈も何か案出しなさい。このままだとお財布が寒くなってしまうから。それとも、誰かさんが五人分の焼肉を奢ってくれるのなら喜んでついていくけれど」
「げっ、それは勘弁……」
李珠の高級焼肉の案は消えたが、別に普通の焼肉でも構わない。焼肉なら嫌いな人はいないだろうし、食べ放題とかにすれば丁度割り勘で、好き放題食べられるから不満も……。
「まったく……。玲奈、あなたはもう少し、自分の意見を口に出すべきよ」
意識してか、無意識か、美波が気になっていた続きを口にしてくれた。と、同時に、
──ねぇ玲奈、今日、楽しかった?
帰りのバスで、李珠に訊かれたことを思い出した。楽しかったよと答えると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした李珠。思い出して、ようやくその意図を理解する。李珠はきっと、私が意見を言いやすいよう、気を遣わず楽しめるよう、率先して無茶な要求を冗談交じりに口にしていたのだ。
私が、皆が、楽しめるように。
「……お寿司。回転寿司、行きたい」
言うと、すぐに瑠琉が「良いですね!」と手を叩く。沙希と美波も顔を見合わせ頷きあう。
「よっしゃ! じゃあ五人で寿司、行きますか!」
李珠が拳を突きあげ、私の肩に腕を回す。やっぱり今日の李珠は普段よりテンションが高い、だけなのかもしれないと思いつつ、私も宵の空に控えめな拳を突きあげた。




