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Sky’s  作者: 白咲実空
#1.マジックアワー
7/25

 冷たい廊下を歩いていた。足取りは重く、目は自然と上履きの動きに向けられる。

 職員室に教室の鍵を返してから階段までの道のりを歩く。1階へ下りて昇降口へ向かっていると、家庭科室の戸が開かれた。中から出て来たのは小柄な女子生徒で、制服のリボンが赤であることから2年生であると判る。目が合うと、先輩は私に軽く手を上げ、

「あなた、1年生? ……ってもしかして、カラスタの子じゃない?」

 と、演技っぽく驚いた。私は、「まぁ」と気のない頷きを返す。

「ねぇ、もし良かったら、うちの服飾部に入らない? アイドル経験者ってことは、衣装のデザインとかにも詳しかったりするだろうし、入ってくれたら助かるんだけど」

「すみません。用事……放課後は、塾があるんで。塾がない日は、バイト、あるんで」

 誰かに見られているような気がして、咄嗟に嘘を吐く。先輩は気を悪くした様子もなく、

「そっか、残念」

 と肩をすくめた。心臓が、キュッと小さくなる。

「……すいません」

「ううん、断られるの慣れてるし。気にしないで?」

 どこを見れば良いのか解らず、先輩を見ているようで先輩の後ろに目をやる。すると、数メートル離れた距離に、掲示板を熱心に見つめている女子生徒がいた。あそこは確か、部活の勧誘ポスターが貼られているのではなかったか。

 私の視線の先に気づいた先輩が不思議そうに眉を上げて後ろを見る。そして、女子生徒を見つけると「あぁ」と得心して笑った。

「あの子、いつもあそこで掲示板見てるんだけど、時々うちの活動を窓からこっそり覗いててさ。興味あるのかもと思って誘ってみたんだけど、大丈夫ですって断られちゃって。シャイなのかなーって思ったけど。服飾、好きなら入ってほしいなぁ」

「そうなんですか」

「うん。あの子も1年生だけど、知ってる子だったりする?」

「……いや、知らないです」

 先輩の丸い瞳に見つめられ、気まずくなって目を逸らす。「そっかそっか」と笑う先輩は確かに、私をただの1年生としか思っていないようだった。

 会釈をして、先輩と別れる。あの子はまだ、掲示板を眺めている。通り過ぎる際に横顔を一瞥すると、仄かな希望を抱いた表情の奥に、僅かな躊躇いが滲んでいるように見えた。

 あの子も、どこかの部活に入るのだろうか。私には関係ないことだけど、出所と行先不明の嫉妬心が滲む。希望か絶望か、動かなければ平凡な、何色にも染まる校内を、1歩1歩踏みしめるように歩いた。


          *


 制服を脱いで風呂に入ると、張り詰めていた気が緩んでいく。そして泥のように眠り、目が覚めたときには無気力と倦怠感が身体にのしかかっていた。

 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。保温された布団が暑さを伴ってきたため、身体を起こし、スマホで時間を確認する。

 9時5分。

 3分前に、不在着信とLINEがきている。お母さんからだった。

『学校から電話掛かってきたんだけど行ってないの? 体調悪い? 休むなら連絡お願いね』

 もうHRも終わって、1時間目が始まっている。遅刻をする生徒は少ないが、いるにはいる。私がその1人になったところで、先生はきっと軽い注意で許してくれるし、周りもきっと、誰も、私のことなんて気にしない。

 椅子に置いた鞄。開いたファスナーの隙間から、現代社会の教科書が見える。そういえば今日、小テストだっけ。復習なんかしていない。学校の課題も、何もやっていない。

『休む。腹痛って先生には言っといて』

 お母さんにはそう返信した。

 空腹を埋めるためにトーストを齧り、時間を潰すためにテレビの情報番組を見る。ソファに仰向けで寝っ転がっていると、庭から小鳥のさえずりが聞こえる。リビングで1人、じっと、無駄な時間に浸る。スマホは静かで、誰からも連絡はこない。

 無意味に天井を眺めていると、すっかりお昼になってしまった。ほぼ瞑想のようなことを3時間くらいしていたためか、腹の虫が鳴る。起き上がってキッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。が、何もない。

 仕方なく、家を出た。

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