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Sky’s  作者: 白咲実空
#9.夜の太陽
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1

 紫立ちたる夏の空は蝉の声も徐々に止み、熱気に絡まるボウフラと蚊の密集地帯となっている。陽が沈んでいる最中とは思えないほど焦がれたアスファルトから逃れるように、私と沙希は陽繋駅近くのコンビニへ向かった。

 一気に広がる冷涼な空気に肌を預けつつ、目当ての場所へ向かう。お菓子コーナーだ。

「あぁー……」

 いつもは綺麗に並んでいるボッキ―が、今日は一つも見当たらない。それだけではなく、買う予定だった種類のお菓子すべての棚が空っぽになっている惨状だった。

 落胆する沙希さきの隣で、私も軽く息を吐く。

「どうやら、狩られ尽くした後みたいだね」

「あーん、私の凛佳ちゃーん……」

 お菓子が消えているということは勿論、『アイドル☆ララライ』のクリアファイルも消えているということで。一応近くにいた店員さんに在庫を確認したが、今日で全て無くなってしまったと聞いて仕方なく諦める。

「仕方ないよ。アイライ、人気だし。凛佳りんかちゃんは特にね」

「やっぱ二期始まったから、人気も最高潮になってるよね。……てか! 転売ヤーの仕業じゃないの⁉ あいつら好きでもないのにクリアファイル買って、三百円とかで売る気なんだよ!」

「それは安すぎるんじゃない? 対象商品のお菓子二個で三百円以上するんだから、赤字でしょ」

 私が小学生の頃は九十八円で買えていたお菓子が、今では百円越えどころか二百円近くまで値上がりしているのだ。物価高は辛い。まぁ、転売ヤーじゃなく純粋にアイライが好きなオタクが、全種類を何枚も手に入れるために狩った可能性は無きにしも非ずだけど。

 それにしても、コンビニ側もよく考えたよなぁ。アニメとコンビニをコラボさせて、対象商品のお菓子を二、三個買ってもらう代わりにアニメのクリアファイルを一枚ゲットできる商売なんて、よっぽどのビジネスマンだ。いや、この場合はお菓子と引き換えにクリアファイルがゲットできる仕組みだから、考えたのはコンビニではなくお菓子を作っている企業側? いや、それかアニメ側か? もしや、アニメイトがない田舎民でも気軽にアニメグッズが手に入れられるようにという、心優しいビジネス……⁉

 まぁどちらにせよ、電車一本で都会に行ける私からしてみれば、五百円払うからコンビニ限定のクリアファイルもネットで買えるようにしてほしいものだ。

玲奈れいなは何買うの?」

 沙希が、アイスケースからゴリゴリ君のナポリタン味を出して言う。え、それ食べるの?

「私は……、無難にソーダ味で良いかな」

 私もゴリゴリ君の、ナポリタン味ではなくソーダを選び、取り出す。ゴリゴリ君はいつの時代もちびっこと学生の味方だ。令和に八十円で買えるアイスなんて、他に存在しないのではないだろうか。あれ、でも待てよ。ゴリゴリくんって昔、七十円くらいじゃなかったっけ?

「れ、玲奈さーん」

 ゴリゴリ君を持ってレジへ向かおうとすると、沙希が瑠琉るるみたいな呼び方で私を引き留めた。振り返ると、ゴリゴリ君をそっとアイスケースに戻す沙希がいる。

「ここは、ナポリタン味なんてありえなーいって、ツッコむところじゃない、かなぁ?」

 どこか恥ずかしそうな表情に、心の中でしまった、と軽く虚を突かれたような心持になる。なんとなく気まずい空気が漂い始めるも、私はすぐさま口を開いた。

「あ、案外美味しいって聞くから……通なのかなぁと」

「えっ、そうなの⁉ ……じゃあまた、今度買おうっと」

 今は買わないんかい。まぁ、私もネットの意見を拾っただけで自分の感想ではないから、味の保証はできないけど。

 沙希は雪実だいふくを選んだ。冬に食べるものでは? とツッコもうとしたが、アイスはそもそも夏に食べるものなので阿保らしくてやめた。

 イートインスペースはないため、コンビニを出て駐車場近くのベンチに腰掛ける。

「玲奈、一個いる?」

 ゴリゴリ君を齧っていると、沙希が雪実だいふくを一個、フォークで刺して持ち上げる。

「沙希、優しすぎ」

「え、なんで?」

「雪実だいふくを片方あげようかって言う人は、聖人か天使だよ。おまけにフォーク付きって……。沙希はどうやって食べるの?」

「持ち上げるの。おにぎりみたいに」

「そう。でも、せっかくだけど私はいいや。ゴリゴリ君あるし」

 なんとなく、具体的な理由は説明できないけど、貰いづらさがあった。だって雪実だいふくだ。半分こするならお金も折半するべきだし、代わりにゴリゴリ君を半分こするのは難しい。勿論、沙希が欲しいなら何口か齧ってもらっても構わない。そういうのを気にするというのなら、沙希が持っているそのピンク色のフォークで雪実だいふくの容器に水色の欠片をこそぎ落としても良い。

 浮かんだ提案を口にしても良かった。のだけど、憚られた。特に理由はないけれど、距離感的に違うと思った。

「食べ過ぎたら、寒くなっちゃうし」

 適当な理由を付け加えて、黒く伸びた影に目を落とす。

 爽やかなソーダの風味がドロリとした舌ざわりに乗って運ばれてきて、僅かに顔を顰めた。

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