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「どーも皆さんこんにちは! 現役女子高生の現役アイドル、りずです! Sky′sでは作詞を担当しています! 歌とメイクが好きなので、カラオケ配信やメイク関係の動画を出していきたいと考えています! 輝く太陽のように、皆の心を照らすアイドルになりたいです! 応援よろしくおねがいしまーす!」
少し煩いと感じるくらいの声量で、スマホに向かって元気溌剌に挨拶する。敬礼のポーズでウインクを決めると、玲奈が「はーいおっけー」と録画を停止した。「見せて見せて!」と撮ったばかりの動画を覗き込む。そこには、少し笑顔がぎこちない私が映っていた。
「あー、もっかいやり直して良い? なんか違う気がする」
「ちょっと、これで何回目よ?」
不満そうな美波が、空になった紙コップをテーブルにタンっと置く。何回目なんてそんな、まだ四回しか撮り直していないのに。
「李珠だけに時間を割いてられないと言っているの。取り直しは一旦後にして、次いきましょうよ。そうしないと、日が暮れちゃうわよ」
「そうだね。じゃあ次、沙希いってみよっか」
「えぇっ⁉」
「はぁっ⁉」
抗議の意思を込めて声を上げるも、玲奈のスマホは私ではなく既に沙希の方を向いていた。沙希はわたわたと手を動かしながら、「あうあう」と口を動かす。
「わっ、ワタシ、イチジョ、サキ、デース。うぇっと、えっと、スキナ、タベモノ? は……」
「さ、沙希さん、緊張しすぎです! リラックスリラックス!」
そう言う瑠琉も、さっきから手鏡を離さず前髪を弄りっぱなしだ。美波は特に緊張した様子もなく、平静に炭酸ジュースを紙コップに注ぐ。おい、何杯目だ。
「別に良いじゃない。昨日、私の家でたらふくラムネを飲んでおいて」
「さも清瀬宅のラムネみたいな言い方するんじゃないよ。私が自分で買ったラムネだし、そっちが一位の人はラムネ飲めるって言ったから飲んだんですー」
「はぁ、ああ言えばこう言う」
「それ、こっちの台詞だから! ……って」
私と美波に向けられたスマホの存在に気づき、私はじとっとした目を玲奈に向ける。
「ちょっと、何撮ってるの?」
「ん? 大丈夫大丈夫、苗字はピー音入れるし」
「そうじゃなくて……」
「こういうのあった方が、更にSky′sの魅力伝わるかなーと思って」
「あっ、視聴者のみなさーん? ここ私の家で、この炭酸も私のものですからねー? 人の家で好き放題、ドリンクバーかよってくらい飲んでる人がいるんですよー」
「ちょっと、人を礼儀知らずみたいに言うのはやめてくれるかしら。私だって今日はお菓子を持って来たんだから。これ、テラスおばさんのクッキー」
ぐぅ、テラスおばさんのクッキーを出されては何も言えなくなってしまう。玲奈が録画を止め、動画を確認してクスクス笑う。なーにが面白いんだか。
「わたしはいちじょうさき、わたしはいちじょ……あっ、待って! 苗字言わなくて良いんだっけ?」
自己紹介の練習をしていた沙希が、この世の真理に気づいたような顔をして言う。言わなくていいっていうか、言わない方がいい。
「でも、李珠さんって本名バレてますよね? 私達もいずれは同じ学校の方にバレるでしょうし。偽名を使っても意味ないんじゃ……」
瑠琉が主に私を見て、心配そうにぼやく。私は何と言って良いのかすぐには解らず言葉を探す。その間に、玲奈が答えてくれた。
「それでも、本名はネット上に晒さない方が良いね。学校の人にバレちゃっても、私達の個人情報をネットに流出させるような、そこまで性根の腐った人は流石に……」
そこで玲奈は言葉を切り、奇妙な間が生まれた後、
「まぁ、いるかもしれないけど普通はいないからたぶん大丈夫」
と、何とも頼りないことを言った。「それ、本当に大丈夫なんですか?」と瑠琉が尤もな不安を浮かべるが、玲奈は遠い目で「大丈夫大丈夫」と壊れたラジオのように答えるばかり。ど、どうした急に。黒歴史でも思い出したのか?
「でも、りずはりずって、平仮名だけど、偽名を使わないのね」
美波をみなみとしただけの美波に言われ、私は「そっちこそ」と言いかけて、やめる。だって私と美波では立場が違う。美波は苗字がバレていないけど、私は某オーデションのせいで本名がバレている。SNSで検索をかければ一番上に私の情報が載っているくらいには、有名なのだ。
「さっきの自己紹介を聞いて思ったのだけれど、オーデションのことには触れないのね。触れたくないのかもしれないけど、正体に気づいた人からは絶対にコメント欄で突っ込まれるわよ」
「解ってるよ……」
『ReVenge』の再生回数は、現時点で五十回。今はまだ底辺YouTuberだが、いつ視聴者が私に気づいてもおかしくない。それこそ、『ReVenge』の概要欄には歌詞しか載せていないが、今撮っている自己紹介動画はメンバー個人のSNSアカウントのURLを貼り付けるつもりだ。私の正体に気づいた人が騒ぎ立て、そのうちYouTubeで穂條李珠と検索すれば、カラスタのアーカイブ映像に関連して『ReVenge』の動画も一緒に、たぶん出てくるようになる、かもしれない。
「いっそ開き直った方が良いと思うけどね。勿論、強制はしないけど」
玲奈がわざとらしく軽い調子で言うが、私は神妙な面持ちのまま首を横に振った。
「せっかく言ってもらって悪いけど、視聴者が気づいても私がカラスタについて、穂條李珠について触れることはないよ。私は今、Sky′sのりずなんだから。いちいち過去をほじくり返したくない」
私は生まれ変わったのだ。令和言葉で言うところの、転生。私はもう、昔の私じゃないんだから。
「そっ、か……。ごめんね? なんか……」
「ううん。玲奈悪くないし」
寧ろ、私が申し訳なく思ってしまう。何か、重い空気になっちゃったから。切り替えるように、ぱんぱんと手を叩いた。
「じゃ、続きやろ、続き! 自己紹介動画、今日中に撮ってさっさと上げちゃお!」
「そのためには誰かさんの、n回目の撮り直しに応じる必要があるのだけれど」
「なんか言った?」
「いいえ、何も」
さぁ、早く撮っちゃおうということで、玲奈がスマホを沙希に向ける。再び向けられた沙希は、「さ、さきです」と小さい声で挨拶をする。あれ? そういえば、沙希もさきでいくの? 私とみなみに影響されてない? 大丈夫?
「李珠さん」
しどろもどろする沙希を眺めていると、不意に瑠琉が私の名を呼んだ。深刻そうな表情に、私は「どうしたの?」と首を傾げる。心配事だろうか? あ、もしかして自己紹介に緊張してるとか?
「大丈夫、瑠琉はちゃんと可愛いよ」
「ふぇっ⁉ な、なぜ私は褒められたのでしょう?」
「あれ? 求めてた答えと違った? なに? 何の相談?」
「あぁ、えっと……。すみません。何でもない、です」
何でもない、という時は大抵何でもある時だが……。こういう時は、深追いしないと決めている。気になるけど、私は「そっか」とだけ返し、視線を沙希に戻す。
ちらちらと私を見てくる瑠琉には、気づかないふりをした。




