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Sky’s  作者: 白咲実空
#6.砂浜の五線譜
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46/100

5

 HRが終わると李珠りずは平常運転で、何もなかったように世間話に花を咲かせていた。私も、いつまでもしょげていては却って迷惑がかかるだろうと普段通りの態度で接していたのだが、口数が少ない自覚はあった。なんとなく、会話に入るタイミングが解らなかったりもした。普段はそんなこと気にせず、思ったことを何でもかんでも口にするくせに。

「あれ?」

沙希さき、どうしたの?」

 掃除が終わって教室に入ろうとした時、沙希と李珠の声がして振り返る。私も気になって「どうしたの?」と問いかけると、沙希が窓の外を控えめに指した。

「天気悪くない? 朝は晴れてたのに」

「ここのところ晴れ続きだったから、そろそろ出番がきたのかもしれないわね」

「えー? 今日のダンス練習はー?」

 休日のお出かけをキャンセルされた子供のようなトーンで言う李珠に、沙希は難しい顔をする。私達の会話を聞いていたらしい瑠琉るる玲奈れいなも、教室から顔を覗かせてこちらまで来ると、首を横に振った。

「今日は帰って、練習は明日に持ち越しましょうか」

「うん。私と沙希は電車だから、雨なら早く帰っときたいし。美波みなみも、バスでしょ?」

 何も、不自然な点はない。会話の流れ的に玲奈が私を心配したのは、何もおかしなことではない。ないはずなのに、何故か、何の前触れもなく突拍子に会話を振られたように感じてしまって、自分でも不審になるほど動揺してしまった。反応が遅れてしまう。

「……そ、そうね。雨、強くなるかもしれないし。バス止まったら帰れなくなるかも」

 台風がきているわけでもないのだからそんなことにはならないと思うが、ないとも言い切れない話なので、李珠は「ちぇー」と不満そうに唇を尖らせるも、練習を強行しようとはしなかった。

 ダンス練習は明日に持ち越し、今日は帰って各々の作業に集中しよう、ということで話が纏まる。

 帰りのHRを終え、どこか湿っぽい廊下を五人で歩く。さっきまで曇っていただけだったのに、昇降口を出る頃には霧吹きのような雨がしゃあしゃあと降りだしていた。

「うーわ、傘持ってきてないや」

「私の入りますか? 折り畳みなので少し狭いですけど」

「沙希も、持ってきてないんでしょ? 私の入りなよ。今日は送っていく」

「ありがとう、玲奈」

 李珠は瑠琉に、沙希は玲奈に傘を半分借りる。

「あっ、美波は傘……」

 玲奈が振り返って、一歩出遅れた私を見る。私は、鞄から出した折り畳み傘を広げる。

「持ってる。ママが、今日は降るから持って行きなさいって言ったから」

「へぇー、美波のお母さん凄いね。天気予報、今日降るって言ってたっけ?」

「言ってない。けれど、最近はずっと晴れていたから。そろそろ降るんじゃないかって、三日ほど前から持たせてくれていたのよ」

 勘じゃん、と玲奈が笑い、皆も笑う。私は「そうね」と静かな声を落とた後、徐に足を止めた。

 皆が私を見る。「美波?」と李珠が問い、すぐにふっと口の端を緩める。

「もしかして、今朝のことまだ気にしてる?」

 私は目を泳がせ、感情がバレないように唇を噛む。

「ちょっと気まずくなっちゃったけどさ、私、本気で怒ってたわけじゃないからね? 美波が反省してるってのも解ってるし。私も言いすぎたって反省してるし──」

「練習」

 言うつもりのなかった単語が、ぽろっと唇から転んだ。虚を突かれたように、李珠が「練習?」とおうむ返しに訊ねる。私は一回軽く歯を食いしばって、我慢しようと、抑えて、言った。

「ダンスの練習、各々ですれば良いんじゃないかしら」

「え……っと、個人練習ってこと?」

 沙希の確認に頷きを返し、続ける。

「ランニングと同じよ。ダンスも、公園とかどこかのレッスン室を借りて、一人でだってできるでしょう? 個人練習をして、週に一、二回、集まれるときに集まって合わせた方が……皆、家から近いところでできるし、効率が良いと思うのだけど」

 何も間違ったことは言ってないと思うのだが、皆は揃って変な顔をした。あまり美味しくない、けど吐き出すほど不味くもない料理を食べた時のような感じだ。

 まぁ、会話の流れは不自然だったかもしれない。李珠の質問に答えず、自分勝手な思い付きをつらつらと話してしまって、身勝手なのは解っている。

「そうだね」

 私の不安を払拭するように明るく言ったのは、李珠だった。

「皆、それぞれ予定あるだろうし。できる時にやって、集まれる時に集まって合わせよう。電車組も、そっちの方が良いでしょ?」

 玲奈と沙希は互いに頷くも、顔色はパッとしない。思うところがあるようだが、口にはしないようだ。が、瑠琉は違った。

「美波さんは……」

 言いかけて、

「……いえ、あの、大丈夫です。すみません」

 口を噤む。何よ、気になるじゃないとふざけるように訊いてみようかと思ったが、やめた。なんとなく、詮索をしても良いことがないような気がした。

「じゃあそういう感じで。歌も、家でできる人は練習してね。電話越しでも良いなら、私に掛けて聴かせてくれればアドバイスできるから」

 ちゃぷちゃぷ。李珠が、まだ水溜まりと呼べないアスファルトの窪みに溜まった浅い水を足先で弾く。瑠琉が「あんまり動くと濡れますよ」と言ってもお構いなしに、李珠は若干大袈裟なほど左右に身体を揺らす。まるで、幼子がはしゃぐ時のように。

「とは言ってもさ、今日はもう、練習できないね」

「まぁ、これだけ降ってたらね」

 玲奈が空を見上げ、つられるように沙希も見上げて小さく息を吐く。どの道、練習は明日に持ち越しだ。明日はここから近い公園に、昼過ぎに皆で集まることになっているが。

「ねぇ李珠、明日って──」

「皆、今日って予定ある?」

 明日は個人練習か全体練習か、どちらかを訊く前に、李珠に遮られてしまった。今日はダンス練習をする予定だったから、放課後は空けている。故に、全員が首を横に振った。

「じゃあさ、これから五人で遊びに行かない?」

 李珠は雨に濡れるのも構わず傘から飛び出すと、数歩先まで進んで明るい笑みを浮かべた。

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