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Sky’s  作者: 白咲実空
#6.砂浜の五線譜
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「四十六」

 七月十二日、日曜日の昼下がり、穂條家李珠の部屋にて。中央に配置されたミニテーブルには、未だ手つかずのチョコレート菓子と、未だ誰も口をつけていない炭酸飲料が注がれた紙コップが五つ置かれている。李珠りずがバンっと両手をつくと、炭酸飲料の水面に波紋が広がっていく。李珠はもう一度、「四十六」と低いトーンで繰り返し呟く。瑠琉るるは生唾を飲みこみ、沙希さきは目を泳がせ、玲奈れいなは眉を下げて苦笑いを浮かべる。

 私は、紙コップに注がれた炭酸飲料に口をつけた。

「コラそこぉっ⁉ 誰が飲んで良いと言ったぁ⁉」

「あなたのお父様ね」

 あぁ、なんて美味しいのかしら。冷房とは別種の冷却が、私の身体を駆け巡り暑さで溶けかけていた血管を凍らせて命の線を繋ぐ。そのままゴクゴクゴクと続けて飲めば、喉の奥がひりつくような痛みを快感として訴え、脳は一気にクールダウン。アドレナリンが大量に放出される。それに、ただの透明な炭酸であるところに穂條ほじょう家父のセンスを感じる。葡萄でもオレンジでもコーラでもない、これぞ炭酸の中の炭酸。パチパチ弾ける泡のしゅわしゅわのみ感じることができる、ただただ喉の渇きを潤したい時に飲むべき究極の一品。

「だけれど、一つ残念なのはこれが紙コップであるという点ね。お父様に伝えてちょうだい。洗い物は私が引き受けるから、次からはグラスを用意してほしいって」

「よくもまぁ図々しい……。そこまで涼しい顔をしているのなら、美波みなみは四六という数字の意味、解ってるんだろうね?」

 李珠にびしりと指をさされ、私はふむと考えてみる。四十六、四十六……。

「あなたの体重かしら?」

「やっだーもう美波ちゃんったら、そんなに細く見えるー?」

「そんなわけないわよね、ごめんなさい」

「ちょっと、それどういう意味?」

「ま、まぁまぁ」

 玲奈が仲裁に入り、李珠は咳ばらいを一つ。私は炭酸を一口。

「四十六……この数字は──、私達Sky′s(スカイ)のデビュー曲、『ReVenge(リベンジ)』の視聴回数です!」

 言いながら、李珠はスマホをテーブルの真ん中に置く。スマホに映っていたのは、確かに先日YouTubeに上げたSky′sのオリジナル曲、『ReVenge』のMVだった。視聴回数四十六回。コメント〇件。高評価&低評価〇件。チャンネル登録者数、〇人。

 部屋に重苦しい空気が立ち込める……かと思いきや。

「凄いっ! 昨日より二人も増えたんですね!」

「ほんとだ! てか五十人近くに見られてるって凄いね! 一クラス分越えるじゃん!」

 瑠琉と沙希が、隣同士で手を取り合って喜んでいた。ポジティブ思考、というわけではなさそうだ。心からの笑みを浮かべている。黙り込む私と玲奈。額を抑える李珠。李珠の気持ちは解るが、瑠琉と沙希の気持ちだって解からないではない。私だって初めて自分の曲を誰かに聴いてもらった時は、数字なんて関係なくたった一回でも心が弾んだものだ。

「公開してまだ一週間くらいしか経っていないんだから、このくらいで普通でしょ。それに、私達はまだYouTuberとして素人、卵から孵ったばかりのひな鳥みたいなものなんだから」

 YouTube活動者の先輩風を吹かせるつもりはさらさらないのだが、感じたことをそのまま言葉にしてみる。と、李珠の表情が僅かだが明るくなった。

「そ、そうだよね。そりゃ急にバズって人気になる人もいるけど、何事も最初から上手くいくわけなんてないし。私達は、地道にコツコツやっていけば──」

「でも、バズるっていつも突然じゃない?」

 しかし玲奈が、この場の誰よりも深刻な面持ちで言った。

「ある日突然、再生回数とか高評価が急激に増えるからバズるって言うのであって……。地道にコツコツ数百万回再生される動画って実はあんまりなくて、人気が出る動画っていうのは一日二日で数百万回再生されてるものじゃないの? 急に突然、爆発的ヒットを起こすことが人気になる条件だと、私は思う。……想像で喋ってるけど」

 想像の割には、なかなか確信を突いていると思う。音楽の世界だってそうだ。テレビ番組で取り上げられる流行の曲も、公開から数日で百万二百万再生という謳い文句が必ずと言って良いほど付いている。

「しかも、この中には炎上経験持ちが二人……。もし人気が出ても私の正体がバレたら、Sky′sごと炎上しちゃうかもしれない。その時は、ごめんなさい」

 李珠は過去のオーデション番組でやらかし、玲奈は配信アプリで黒い過去を暴かれ炎上した、と聞いている。玲奈の黒い過去が何なのかまでは聞いていないが、幸いにも規模はあまり大きくないらしい。唯一事情を知っている沙希曰く、焼き芋の焚火程度のものだそうだ。

「逆に炎上を利用する手もあるわよ。玲奈の炎上は大したことないみたいだけれど、李珠はなかなかのものなのでしょう? 今からでもTwitterのアカウント名を本名にして、プロフィールにSky′sのアカウントを貼り付けてみなさい。視聴者数、けっこう増えるんじゃないかしら?」

 炎上商法、とは少し違うのかもしれないが、使えるものは何でも使ってみるべき、というのもひとつの案だ。だが、私の提案に李珠は思い切り顔を顰めた。

「ぜったい嫌。せっかく再スタートを切ったっていうのに、なんでいつまでも過去を引きずらないといけないのさ。それに、今更本名出さなくたって顔見たら判るんだから。いずれバレるよ」

「それもそうね。どうして誰もあなたに気づかないのかしら。四十六人誰もあなたのことを知らなかったか、あなたのファンじゃなかっただけ? それとも、単にこの動画の存在感がYouTubeで薄いだけ? いいえ、アンチという生き物はいつだって対象を監視している……。おかしいわね。ねぇ、どうしてだと思う?」

「さあ、解んないけど喧嘩売ってる?」

「私も解んないけど、強いて言うなら動画の存在感が薄いに一票かなぁ」

 気を取り直した玲奈が、自分のスマホで『ReVenge』を再生する。小さい音量の音楽が掛かり、玲奈が音量調節バーを真ん中より少し上くらいまで上げる。そうすると、丁度良い音量になった。

「ほら、スマホで撮ってるから画質悪いし、五人全員をフレームに納めてるから一人一人の顔が見え難いくらい遠い。カットなしでカメラワークも動かないからなんか、せっかく良い振り付けのダンスなのにパラパラ踊ってるだけの地味感があって勿体ない。歌は収録したやつを後付けしてるから綺麗っちゃ綺麗に聴こえるけど、時々聞き取りにくいところがあるし……」

「やっぱり照明くらいは買うべきだよ! 皆でお金出しあってさ」

 李珠が言うも、私は首を横に振る。

「いいえ、画質とか音質とか、機材に拘るのはプロになってからよ。まずはどんどんMVを上げるべきなんだから、衣装代や最新型のスピーカーのためにお金を使った方が良いわ」

「でも、どんなに良いMVでも質が良くないとそもそも見てもらえないよ。私が普段動画を見る時だって、綺麗に映ってるやつの方が良いなって思うし──」

「あら、私は素人感丸出しの動画好きよ。暗い部屋で特に喋ることもなくカップラーメンを啜るこの世の終わりみたいな風貌の人の動画……なんかぼーっと見られるのよね」

「それは美波の独特な趣味でしょ? 大半の人は私みたいに、綺麗な動画の方が好きなんだってば」

「あら、世の大半を自分と同列だと考えているなんて、傲慢な思考にもほどがあるわね。視野が狭いんじゃないかしら? あなたはあれね、自分の正義を絶対と信じて疑わないタイプね──」

「あのぉ……」

 空気を断ち切るように、恐る恐る手を挙げたのは瑠琉だった。瑠琉は沙希と目を合わせると、私と李珠、玲奈に向かって、

「四十六って、そんなに悪い数字なんですか?」

 と純粋無垢な瞳で問うた。


 令和のYouTubeには歌い手というコンテンツが存在する。別に平成から存在してはいたのだが、令和で一気にメジャーになったように思う。歌い手とは流行の曲をカバーする人のことであり、時々歌い手は、歌い手同士が集まって歌い手グループなるものを結成する。これはアイドルグループと遜色ないと考えてもらって構わない。歌い手グループは歌っている動画をYouTubeに上げるだけでダンスはあまりしないのだが、ライブをする際はちゃんと踊っているし、時には歌い手の枠をはみ出してオリジナル楽曲を披露することもある。故に歌い手グループは、私達Sky′sと全く同じ……とは言い難いものの、少し似ている節がある。

「つまり、私達はMVの投稿が主な活動ではあるけれど、登録者を増やして知名度を上げるためには、歌い手の真似……という言い方は適切ではないわね。えぇっと、歌い手のやり方を参考にすれば良い、ということかしら」

 私の歌い手に関する元々の知識と玲奈が今説明してくれた知識を合わせて考えた結果至った提案に、玲奈は「そういうこと」と頷いた。

「オリジナル曲だけじゃなくて、既存の有名曲をカバーしたり。後はゲーム配信とか雑談配信とか。私はアイドルに関してあんまり詳しくないけど、アイドルって歌って踊るだけじゃないでしょ?」

 すると、李珠が深い頷きを返す。

「その通り! アイドルっていうのは、自分の情報をファンの人達に深く知ってもらうことも大切なの! 個性を知ってもらうと、ファンの推したいって気持ちに繋がるからね!」

 私は推し活なんてものに興味はないけれど、今の時代、ネットで有名になるためには視聴者に推したいと思わせることが大切になるのは知っている。推したいと思ってくれた人数とチャンネル登録者数は比例していると言っても過言ではないだろう。

「四十六は決して悪い数字ではないわ。初めて動画を投稿すれば、〇回の方が多いんだから。けれど、もっと視聴回数を増やすためには独自のやり方を模索するだけではなくて、似たようなコンテンツの人から色々と学んでみるのも良いんじゃない、ということよ」

 四十六を悲観するのではなく、四十六から広がる可能性について適当に述べてみると、

「じゃあ、これから歌い手さん? の動画を沢山見て学べば……!」

「私達の動画がもっと伸びるかもしれないってことだよね!」

 瑠琉と沙希が明るい表情で、互いの両手を合わせた。他人の動画を研究したところでそんなに上手くいくとも思えないのだけれど……と渋い顔をする私同様、玲奈も黒い笑みを浮かべて言った。

「残念だけど、私達が歌い手の動画を参考にしたところで、私達の動画は多分全く伸びないよ」

 そこまで断言する必要もないと思うが、まぁ、言わんとすることは解る。瑠琉、沙希、李珠までもが「え、なんで?」と目を瞬かせるので、玲奈ばかりに説明させるわけにもいかず、私は自分の考えの答え合わせも含めて口を開いた。

「歌い手の九割が……何と言ったものかしら。絵、というと一部から反感を買いそうだけれど。ほら、Vtuberみたいな感じで活動しているでしょう? 今の時代、ネットで活動するなら顔を晒すより、自分達を二次元のキャラクターみたいにして売った方が人気も出やすいんじゃないかしら」

 どうかしら、来栖先生。と、目を向けると、先生は「正解」と言って続ける。

「さっき私が言った歌い手の動画を参考にする……ゲーム配信とか雑談とかやったら良いんじゃないっていう提案は、あくまでSky′sの今後の活動内容を大まかに決めただけの話。MVを上げるだけじゃ登録者百人もいかないだろうけど、ゲーム配信とかそういうのやったらまぁ百人くらいはいくんじゃない? 千人は厳しいかもしれないけどって話ね」

「じゃあ、私達もイラストレーターさんに絵を描いてもらって、Vtuberになれば良いってこと?」

 沙希が言うと、李珠が真っ先に「それはやだっ」と首を横に振る。

「あっ、別にVtuberを否定してるわけじゃないよ? そうじゃないんだけど……私は、私を評価してもらいたいの」

 ありのままの自分、ということだろうか。でもそれなら、Vtuberはありのままの自分ではないのか、という問題が発生する。絵を被っていても、口にする言葉や滲み出る性格から、自分という人間を誰かに伝えることはできる。外見だけが自分を表す手段ではないと、私は考えるのだけれど。

 どうやらそういうことではないらしい。

「あの、さ……わ、私って、可愛いじゃん!」

 頬を染めながらも元気な口調で李珠は言い切った。その瞬間ゴフッ、と泡を吹いたような音が聞こえそちらを向くと、玲奈が紙コップに口をつけた状態で固まっていた。炭酸が変な器官に入ってしまったらしい。南無。

「はいっ、李珠さんは可愛いです!」

 私が言葉を探している間に、瑠琉がふんすっと鼻息荒く言う。

「……っ、そうだよね⁉ 私って可愛いよね⁉」

「はいっ、李珠さんはとっても可愛いです!」

「くああああああああああ! 瑠琉は良い子! とっても良い子! ほらほら、もっとお飲み!」

 李珠が瑠琉の頭を撫で繰り回しながら、瑠琉の紙コップに炭酸を注ぐ。えへへとニマニマする瑠琉。何ともまぁ、お幸せそうなことで。

「で? 李珠が可愛いから何だって言うのよ」

 話を進ませると、李珠は「うん。私は可愛いからさ」と言葉を紡ぐ。はいはい、可愛い可愛い。

「私ね、すっごい努力してきたの。毎朝四キロ走って食事制限もして体重キープして、メイクの練習もめちゃ頑張ったし、自分に似合う服探したり、無加工で写真撮っても人様に見せられるくらいには、可愛い見た目をしてる自信があるのね?」

「そっか。確かに、こんなに可愛いのにVtuberになって顔隠しちゃうのは勿体ないよね」

「そう! 沙希わかってるぅ!」

 李珠が沙希の頭を撫で繰り回す。沙希は瑠琉ほどではないにしろ、「や、やめて」と言いながらも頬はちゃっかり朱色に染まっていた。どこもかしこも、お熱いことで。

「玲奈はVtuberとして活動していたのよね? やっぱりⅤの方が良かったりするのかしら?」

 イチャイチャしている人達は放っておいて玲奈に問うと、玲奈は気まずそうに苦笑した。

「うーん、私は確かにVtuberだったけど、底辺配信者だったからなぁ。有名になりたいとかも特になかったし」

「じゃあどうして、Vtuberの提案を?」

「あ、提案したわけじゃないよ。ただ、Ⅴの方が売れやすいよねって話をしただけで……。まぁ今の時代、ⅤもⅤで激戦地だから、有名になりたいって単純な理由でVになると痛い目見そうだし。ごめんね、話が回りくどくて。つまり何が言いたいかっていうと……」

 真面目な顔つきになる玲奈に、空気が若干ピリッとする。玲奈はふっと口の端を緩めると、問いかけるように言った。

「私達は、どうなりたいのかっていうこと」

「どうなりたいか……」

 おうむ返しに呟いた李珠に、玲奈は頷く。

「うん、どうなりたいか。有名になりたいなら、年内にチャンネル登録者数何人を目指すのか。そのためにどんな動画を上げれば良いのか。逆に楽しければそれで良いって考えるなら、どんな活動をしたいのか。週に何本動画を上げるか。配信はどのくらいのペースか。歌とダンスの練習はどこにねじ込むか、ライブイベントの予定……とかね。目標を決めて、それに向かってスケジュールを決めていった方が良いと思うんだ」

 学校の勉強も曲を作るペースも、どの物事に対しても無計画で進めていたマイペース人間の私からすると、しっかりしすぎた意見だった。因みに目標も決めていない。曲は届く人に届けば良いし、テストの点数は平均より上であればそれで良い。

 他四名も私と似たような感想を抱いたらしく、「おぉ……」と感嘆の息を漏らしていた。

「そっか、目標かぁ……。でもやっぱり、有名にはなりたいよね! 目指せチャンネル登録者百万人!」

「ひゃ、百万人? 少しスケールが大きいのではないでしょうか? まずは百人から目標に設定してみては……」

 李珠の目標設定に首を振る瑠琉。私は小さなため息を吐いた。

「それだとスケールが小さすぎるでしょ。夢は多少大きい方が良いとも言うわ。今は七月だから……来年の三月末までに登録者一万人を目指す、というのはどうかしら」

 沙希が「一万人……」と不安そうに呟く。反対に、玲奈は「良いね」と強気に言った。

「知名度を上げたいのは総意みたいだから、チャンネル登録者一万人っていうのは良いかも。じゃあそこから、どうやって活動していくのが良いか考えてみよう」

 玲奈は李珠に「紙とペンある?」と訊ねる。李珠が勉強机からルーズリーフとボールペンを持ってくると、受け取った玲奈はルーズリーフの上の方にチャンネル登録者一万人、と書く。

「まず、私達はアイドルとして活動する。これがメインだよね?」

 チャンネル登録者一万人の下に矢印を引き、その横に、アイドルになるには? と書かれる。

「アイドルになるためには、MVの投稿は勿論、ライブ活動もメインになってくる。でも、私達はまだライブできるだけの知名度はない。から、誰でも参加できるライブイベントに出演すれば良い」

「そういえば、毎年この辺りで行われる花火大会で、素人参加型のステージイベントがありますね」

「あぁ、お笑いやったりのど自慢やったり……。ジャンルは不問だから、そこで私達の曲を披露できるね!」

 瑠琉と李珠の案を受け、ルーズリーフの活動内容欄に花火大会参加の項目が追加される。他にも、MVや配信するペース、動画の撮影から編集、上げるまでにかかる期間、歌とダンスの練習時間、どこでするのか、なんて話し合いが行われていく。

 大まかな計画表が出来上がり、これで終わりかと思いきや……。

「じゃあ次に、個人が何をするか話し合っていこうか」

 個人、とは? 首を傾げる私に、玲奈が言った。

「歌とダンスの練習。できるだけ皆でやりたいけど、学校の委員会とか各々の予定とかで合わない日もあるでしょ? だから一人でもできることは一人で、積極的にやっていこうってこと」

「つまり、朝のランニングを全員の課題にするとか?」

 李珠の発言に、私は思わずゲッと呻きそうになる。何とか堪えるも、苦い顔は出ていたらしい。

「こら美波、嫌そうな顔しないの」

「嫌なものは嫌よ。どうして朝早く起きて走らなきゃいけないの。その行為に何の意味があるというのよ?」

「放課後は皆でこうして会議したり練習合わせたり、夜は動画の編集とか配信やろうって今決めたじゃん。てことは、ランニングは朝しかできないでしょ? 美波は『ReVenge』のダンスも誰よりへばってたし、一番体力つけないと」

「ちょっと、それは心外だわ。私と同じくらいへばっていた人がいたでしょうに」

「ふえぇっ、私ですかぁ……?」

 名指しをせずとも自覚はあったらしく、瑠琉が肩を震わせる。そして玲奈も、目を泳がせた。

「朝……かぁ。まぁ、一キロくらいなら」

「何言ってるの、全員四キロだよ」

 勿論、とでも言うように李珠はあっけらかんと告げるも、普段運動をしない人にとっての四キロを舐めないでもらいたい。こうなれば四対一の図にもっていこう。

「沙希、あなたはどうなの? ダンスが得意とは言え、朝は弱そうだけれど」

 偏見で言うと、沙希は眉を下げて笑った。

「朝……は得意じゃないけど、最近は頑張って起きてランニングしてるよ。ブランクあるから、いきなり四キロはきついけど」

「な、何キロよ」

「三・五」

 ほぼ四キロじゃないの……! 唇を噛む私に、李珠は得たり賢しとばかりに笑みを浮かべた。

「じゃ、決まりだね! 毎朝全員四キロ! ……と言いたいところだけど、無理は良くないからね。最低でも二キロは走ること。雨の日は、無しにするけど」

「ちょっと待ちなさい! どうして決まりになったのよ。ま、まだ三対一よ!」

「いや……」

 低い声で頭を振ったのは、玲奈だった。まさか、裏切るというの?

「体力つけないといけないのは事実だし、最低二キロならまぁ……うん。頑張るよ」

 そのまさかだった。したり顔をする李珠に腹立たしさを覚えながら、私はやむなく頷いた。


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