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Sky’s  作者: 白咲実空
#3.夜の砂は風に吹かれて
17/22

1

 葉月(はづき)家は、私にとって第二の実家みたいな存在だった。一応インターフォンを鳴らすものの、ドアホンから『美波(みなみ)ちゃんでしょ? 上がって良いわよ』と声がすれば扉を開けて中に入る。勝手にスリッパを借りて、我が物顔で廊下を進む。リビングのドアを開けると、棒アイスを持った(かなで)がソファに座っていた。奏は私の方に顔を向けると、人好きのする笑みを浮かべる。

「美波ちゃん、やっほー」

 暇をしているなら出迎えてくれても良いだろうに、なんてことは今更言わない。

 私は奏の隣に座る。奏はソファから立ち上がるとキッチンへ消え、戻ってくると私に棒アイスを渡した。奏と同じ、ソーダ味だった。

「いらないわよ。まだ5月だし」

「もう5月、だよ。5月なんてほとんど夏みたいなものなんだから」

「そんなこと言って、奏は冬だろうとアイスを食べているでしょう」

「えへへ、おこたで食べるアイスほど尊いものはないよ」

 小さく笑うと奏も笑う。私はせっかく持ってきてくれたのだからアイスを受け取る。包装紙を取って、口の中にアイスを突っ込む。

「そういえば美波ちゃん、送った歌詞、読んでくれた?」

 じんわりとした冷たさが、口内に溶ける。歯を立てるにはまだ適切な温度ではないため、じっとりと、舐める。

「……読んだわ。良い歌詞だった」

「ほんと? じゃ、メロディーよろしくね。今度こそ、良い曲にしようね」

「今度こそ?」

 首を傾げると、奏は曖昧に笑った。

「だってこの前のコメント……久しぶりにきてるなって思って見たら、ほら、アンチだったし」

「あぁ……あれね。でもアンチがきたということは、知名度が上がってきた証拠よ。それに、誰に何を言われようと、私たちが全力で作った曲だもの。良い曲じゃないわけがないわ」

「あはは、それは確かに」

 甘い味の中に、苦みが広がる。奏は、知らなくて良いことだ。アンチの正体なんて、知ったところでどうなるわけでもないし。

 奏には、関係ないことだし。

「あ、そうだ美波ちゃん。今日はちょっとした重大発表があってね」

「ちょっとした重大発表って何よ。矛盾してるわ」

 ツッコミを入れながら、話題が逸れたことに安堵する。「えーとね」と焦らす奏に、「何よ」とわざとらしく気になるポーズをとって促すと、奏は「実は……」と口を大きく開いた。

「私、夏休み明けに転校するんだ」

 私はアイスに歯を立てて、停止した。歯茎に小さな刺激が染みわたっていく。

「……転校?」

「うんっ、碧天(へきてん)高校……美波ちゃんと同じ学校だよ!」

 冷たい。まだ舐めるしかできそうにないアイスを、一旦口から離した。

「……そう。嬉しいわ」

「だよねだよねっ! 私も今から凄く楽しみ!」

 そう、まだ5月、春だ。窓の隙間から吹き込む風に、身体が小さく震えた。それに加えて、アイスも食べているからだろう。

 酷く、寒い。

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