三百二十一話
「・・・一体何を言っている?関わるな?関係無い?世迷言を・・・」
「あ、ちょ、怒らないで。いや、そもそもさ?こっちの事情、って言うか、僕の事、一切何も知らないでしょ?ちゃんと説明させて欲しいんだけどなぁ。」
「事情などと、ふざけるのならばもういい。貴様は何があっても殺してみせ・・・」
「だから、そっちの都合ばっかり押し付けられても困るって言ってるんだけどね?」
「人族側の都合を押し付けるなと?なら、魔族の都合で攻め込み、人族に戦を仕掛けて来ているお前は何だ?」
「あー、そもそもに全部最初っから話を合わせる為の初期位置が違うんだった・・・認識の齟齬と言うよりも、次元と言うか、根本的な部分と言うか、どういう風に説明したら理解して貰えるだろう?はっきり言って何を言ってもそっちは信じちゃくれ無さそう。どうせ勇者も聖女も生きていて人族側が有利に立っていたとしても、こっちの話に何て聞く耳を絶対に持っちゃくれなかっただろうからね。ソレを考えれば今のこの瞬間は貴重なんだよなぁ凄く。」
「魔王、お前とノンビリと無駄に喋る趣味は無い。私の考えが浅はかだった。交渉など最初から出来るハズも無かったのだ。所詮は相いれない存在、ならばここで命尽きるまで敵対するのみ。」
「短絡過ぎるんじゃないかな?それは止めて欲しい所。僕としては自身の命を脅かしていた存在がもう居ないし、これ以上は無益な事をしたく無いだけなんだけどもねぇ。んん~、そっか、交渉相手が違うんだな。コレは国王とするべき案件って事か。じゃあ済まないけどもう無視させて貰うよ。どうやら僕の話なんて聞いてくれないらしいから。」
「・・・行かせると思うのか?」
「止める気?無理でしょ。」
話合いを持ち掛けるのに、そもそもにする相手が間違っていた。剣聖にでは無く最初から国王にこの話は持ち込むべきだった。
ここで僕は城に向かってゴーレムを歩かせる。しかしソレを阻止しようと剣聖が何度も何度もゴーレムの脚に斬り掛かって来る。
それは恐らくは切断を狙って歩け無くさせる狙いだと思うが。ゴーレムは硬過ぎて剣聖では斬れない。
僕が思いっきり魔力を込めて作り出したゴーレムは勇者の「神の加護」が無ければ切り裂く事は不可能に近い。
ソレを分かっている、充分に理解しているはずの剣聖であるはずだが、諦めていないのか、自棄になっているのか、斬る事を止める様子が無い。
それを完全に無視し続けて僕はゴーレムを歩かせ続ける。
別にもう急ぐ事も無い。焦る必要も無い。僕への脅威となる存在はもう何処にも無いから。
(ああ、別にこのゴーレムを破棄して別のゴーレムで城へと一気に入り込んでも構わなんだけどな)
だが僕はその考えを実行しない。時間をある程度は経過させないと「勇者が死んだ」と言う事実が国王の元に届かないだろうと思って。
いや、もしかしたらこの場に代わりの勇者が現れる、何て事になると目も当てられ無いから急ぐべきなのか。
何処までこの世界は人族に都合の良い様に造られているのかを僕はサッパリ知らない、分からない。
しかしこのまま直ぐに国王の元にゴーレムを派遣してその事実を僕の口から伝えても信用は直ぐにはされ無いのは目に見えている。
(そこら辺の現実をちゃんと向こうに整理して貰ってから交渉を始めないと意固地になられちゃっても困るしね)
僕がそんな考え事をしている間も剣聖はずっとゴーレムへと斬り掛かりっぱなし。剣聖は既に今この時点で意固地になってゴーレムに斬り掛かり続けている。
この行為が恐らく無駄だと剣聖自体も自覚していて、だ。
剣聖が冷静になるのはまだまだ時間が掛かるんだろうな、そんな事を思いつつ僕はゴーレムへと繋げた視界から遠くに見える城を見上げた。




