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三百十八話

 運命は消失し、交錯し、混迷を始め、ここに到り世界は終わりを告げようとしている。


 ソレを勇者は感じ取れていない。まさか「神の加護」が負けるとは思ってもいないから。


 現実ではこれ程までに勇者は追い詰められているが、実際はどうか?


 殺されていない、死んでいない、だから、「神の加護」の力でここから逆転の展開に到るのだと信じている。


 勇者は楽観している訳では無い。これまでの歴史、ソレと、これまでにして来た、体感して来た経験がそこにはある。


 信じる事の出来るそうした根拠があった。


 だがその根拠が既にもう魔王のせいでこの世から消失している事など知りもしない。


 だから。


(このまま凌ぎ続けられる!剣聖殿は現状の打破をできる何かを探しに行ったのだ。なら、自分は時間稼ぎをする・・・神の加護が自分を守っている!ならば何も心配する事は無い!)


 もう自身の中に力が殆ど残っていない事を勇者は自覚していた。しかし負ける事も無い、とも。


 けれどもソレに絶望などしない。何故なら信じているから。この世界を。神を。力を。


 そんな時がどれ程に過ぎたか。勇者は目の前の敵に集中し続ける。驚異的な程に長時間に渡って。


 幾度も危ない場面に出くわしても、ソレを掻い潜る事が出来ている事で勇者は疑わない。何もかもを。


 だから、その瞬間は訪れた。


 脚が一瞬だけふらついた。だが、この様な事は何度もあった。


 だが敵の攻撃など一度も当たってはいない。当たった事など無い。


 そうして体勢を崩したその隙を突いた一撃が迫っても、ソレは勇者の身体にはこれまで掠りもしてこなかった。


 これこそ「神の加護」の力。勇者は大いなる力に守られているとその度に感じていた。


 だけれども、今回だけは違った。


 最初で、最後。


 勇者は聞く。めぎり、そんな音が頭の中に響き。


 そして視界が一瞬にしてぐちゃぐちゃになる。


 次には意識は混濁し、自身の身体が地に伏せていて手足が動かない事を自覚する。


(何が、どうなった?何で、倒れている?何を食らった?何故、動けない?)


 次の瞬間には勇者の意識は無い。何故なら。


 ===  ===  ===


 勇者に止めを刺せた。呆気無い最後だった。


 いや、呆気無さ過ぎてしょうがない。余りにもこれでは僕の気持ちの方が追い付かない。


 僕自身は遥か地下に引き籠もっており、こうして視界も聴力も、操っているゴーレムを通しての感覚なので余計に。


「まぐれ当たりかな?いや、違うなぁ。」


 当たらないだろうと思って放ち続けていたゴーレムの拳。だが勇者が何度目かも分からない、ふらついたその体勢を崩した時にそれは当たったのだ。


 その瞬間に僕は僅かな時間だけれども呆けてしまっていた。まさか見事に直撃するとは思っていなかったから。


 けれどそこで意識を無理くりにでも戻して吹き飛び倒れた勇者へとゴーレムを向かわせ、そしてその頭部を踏み抜いた。


 ゴーレムの力と重量と勢いで、まるで小さく柔らかい外皮の果物でも踏むかの様に勇者の頭部は潰れて。


「実感が、無いなぁ。これ、本当に勇者、死んだ?殺せた?止めを刺せた?イマイチだなぁ。ピンとこない。いや、何で?まさか生き返って来る、何て事は・・・無いよね?」


 そんな疑念を浮かべつつも何故ここに来て勇者を討つ事が出来たのかが分からない僕。本当に止めを刺せたのか心の底から信じられ無かった。


 しかし現実、こうして勇者は動かない訳で。そこに横から声が掛けられる。


「おめでとうございます魔王様。これでこの世界には魔王様に敵う者は居なくなりました。さあ、何なりと御命令を。人族を根絶やしにするなり、奴隷として扱うなり、魔王様の御意思一つで御座います。」


「え?メーニャ?何時の間に?・・・あ、これ、メーニャがやってくれたの?」


 これ、と言うのは勇者がこちらの攻撃を避けられずに当たってしまった事だ。


 その説明をメーニャは真顔で説明してくれた。


「はい、勇者が体勢を崩して倒れそうになっておりましたので支えて進ぜようかと思い、魔力で障壁を作ってその体に添えてさし上げました。」


「・・・えぇ?ナニソレェ・・・」


 僕は困惑しかない。このメーニャの発言に。だって何で魔族であるメーニャが勇者の体勢が崩れたからと言ってソレを助けようと手を出すと言うのか?


 普通は逆、魔族が勇者に対して持つ害意に因って、そこは「邪魔をしてやろう」とか、「ぶっ飛べ」とか、そう言った悪意に因って行動するはずで。


 しかしそうはせずに「善意」?そんなモノで勇者に支援したと言う。


 メーニャは冗談を言う質では無い。だから余計に僕は混乱する。そんなのアリなの?と。


 でも実際にはこうして勇者は亡き者になっている。


 ここでその事実にどうやら僕は「やっと本当に勇者を斃す事が出来たのだ」と、ここで胸を撫で下ろした。だが。


「ゴーレムの視界でこうして見ているから実感が余計に湧いてこなかったけど。今も本当に少しづつしか理解が追い付いていないんだ。信じ切れてない・・・それと、どうしよう?今後の事って考えて無かったよねぇ・・・」


 突然にメーニャから物騒な事を言われて少し僕は引いている。混乱している。


 だって勇者を斃した後の事なんて何も考えていなかったから。

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