三百十五話
それは突然とは言え無い。偶然でも無い。
マードックはずっと結界の張られた王国首都を監視していたから。
勇者に拠点を襲撃されて壊滅と言った痛手を負ってもマードックは諦めてはいなかった。
人族の動きを即座に捉えて次の行動をどうするかを考える、その為にこうして危険を承知で首都近郊に潜んでいた。
「様子がおかしいな。各所で家屋の破壊?・・・結界が邪魔で詳しい情報が得られん。混乱が発生しているのは確かな様だが、これは、繊細一隅の機会が回って来たのか?」
数多くの魔族を勇者に消されたのだ。こうなると「軍」として動けるはずも無い。
ならば今ある戦力で何をすれば一番人族へと被害を出せるのかと考える。
「人族を余り大きく追い詰める行動は「神の加護」での手痛い返しが来る可能性が高くなり過ぎる。だから急激な侵攻は控えてたのに。頭の悪い者たちばかりだったな。考えてみれば。まあしょうがない部分もあるか。種族の特性上、我慢が出来なかったのはどうにもできなかったんだろうしな。ここまで早々に追い詰められてしまうとは思ってもみなかったんだが。一矢報いる?・・・せめて国王の暗殺、やってみる価値はあるか?・・・はぁ、この結界が有る限りはソレも不可能だと分かってはいるが。下らん悩みだったな。この結界、どうにもできん。」
手痛い一撃を食らってしまったのなら、やり返さねば人族有利の天秤の傾きのまま。
ソレをどうにかして水平にまで切り返す為の策をマードックは思案するが、それも聖女の結界が消滅しなければ話にならないと落胆する。そして手も足も出ないと悟る。
それはマードックがこの聖女の結界が「完璧な物」と知っているから。
どうしてそう思うのか?それはマードックが以前に魔王を閉じ込めた結界の魔法と比較したから。
どうあがいても「神の力」を加えられた結界を、たかが魔族の自分には破壊する力も、術式を解明して解除する力も持ち合わせていないのを理解したのだ。
そんな理由で今も結界に阻まれて首都に起きている騒ぎが一体何なのかをマードックは把握しきれずいる。
こうしてモヤモヤとした感情をマードックは抱えつつも、その姿を誰にも見られぬ様に隠蔽の魔法を使い、そしてついでダメ押しに木の陰に隠れている。
それは万が一にも自身の存在を王国に知られない為。
空中を飛んで上空から首都の様子を観察する事をすればマードックは一目で今の状況を把握していた事だろう。
しかしマードックは迂闊に空へと飛び出す事を躊躇っていた。その理由は勇者だった。
首都に勇者が戻って居る事は既に把握済み。ここで首都上空へと飛び出した場合、勇者の「神の加護」で捕捉されて迎撃される事を恐れた。
幾ら姿を隠蔽する魔法を自身に掛けていたとしても不安しか無い。どれだけ見つからない様にする対策を取っていても、勇者には直ぐに見つけられてしまう。そう考える。
それ程に勇者は侮れない。「神の加護」の脅威は充分以上に、マードックは理解している。
ついこの間に魔族軍を壊滅させられているのだから。
そうやって怯え、臆し、慎重に行動していたマードックは直ぐに異常に気が付いた。
「・・・結界に揺らぎが生じている?どうなっている・・・?いや、もうここは踏み込むしか、あるまい。」
コレを見逃した先に、またもう一度同じチャンスがやって来るとは思えなかったマードックは生き残りの部下たち魔族を招集してその結界の薄れた場所へと魔法攻撃を浴びせる。
その結果は結界に隙間を作り出し、首都の中への侵入路となった。
コレを見過ごさずに即座に動くマードックら魔族たちは結界内部へと入り込んだ。




