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三百十四話

 結局僕は勇者への対応を選んだ。ここまで追い詰めておきながら、ソレを手放す事は絶対にできない。


 メーニャの事は信頼している。信じている。だが心配になるのはしょうがない。


 ソレと比べてここで勇者に逃走される事は許せる範疇を超えている。


 だから、徹底的に詰めた。詰めて詰めて詰め捲る。


 僕がここで勇者をさっさと討てば済む話だからだ。


 そうすればメーニャの元に駆けつける事が出来る。


 なのでまだ動きが鈍い勇者を壁際へと追い込む為に動きを工夫した。


 だがそれでも、あと一歩と言う所で勇者にヌルリと躱され、抜け出されてしまう。


「あともう一手足り無い。剣聖が居なくなった事でこっちは動き易くはなったんだけども、なったんだけども・・・」


 ここで勇者を一瞬でも良いから抑えてくれる存在が欲しかった。


 それさえあればここで仕留める事ができる、そんな確信が僕の中に在った。


 足止め、勇者に止めを刺す為の一手、ソレを僕は必死に考えながら勇者へと殴り掛かり続けた。


 ===  ===   ===


「これ程までにずっと姿を見せ無い何て・・・正体を私に見られない事を徹底しているのは、何故?」


 聖女はずっと攻撃され続けて冷静さを徐々に取り戻し始めていた。


 最初に自分の目の直前にナイフが止まった時には恐怖と驚愕を覚えたが、ソレも今は少しの動揺だけで済む程度にはなっていた。


 だが落ち着き始めたとはいえ、基本的に今の状況の理解にまでは辿り着けていない。相手の狙いがずっと理解できずに悩み続ける聖女。


 その命を狙う刺客が魔族だとは、まだ思い至っていない。


 ソレが致命、聖女を殺す事になった。


「・・・は?ま、魔族?有り得ない!何故!?・・・うっ?・・・え、な、何故・・・何、これ、は・・・」


 その腹には深々と、透明な液体の塗られた刃物が刺さっている。 その一刺しにメーニャは何らの悪意も感情も乗せてはいない。


 只、その刃を聖女へと押し出しただけに過ぎない。そこにはホンの僅かですら、何ら意思は入っておらず。


 だから、それは「神の加護」をすり抜けた。


「・・・ごふっ!?ど、ど、くを、ぬ、って、ある?・・・て、あ、し、が、し、び、れ・・・」


 メーニャのその鋭い一撃はこのまま放って置いても確実に聖女の命を奪うモノだったが。


 止めは、刺された。床に倒れ伏してピクリとも動け無い聖女の頸椎に容赦の無い無慈悲な刃が振るわれて。


 聖女の命は無くなった。その聖女への止めにも、メーニャは羽虫を殺す程の殺意も込めてはいない。


 だから、殺害できた。


「神の加護を充分に削り、精神状態を乱高下させる事で心の隙間を作り易くし、恐怖や驚愕や疑問、疑心で大きな隙を曝け出させ、その僅かな隙間に致命の一撃、それで即死しなければ油断せず、慢心せず、余裕を持たず、完膚無き迄に、躊躇い無く即座にその残りの命を刈り取る。間違っても聖女が復活する事の無い様に、即座に首を斬り落とす。そして。」


 聖女の頭部が火で燃える。焼け焦げて真っ黒な「何か」に変わる。


 ダメ押しの死体損壊。そこから残りの、斬首死体の首元から奪うのは。


「この首飾りを壊せば結界は消えるでしょう。聖女が後生大事にコレだけは守ろうと言った動きを無意識にしていた様ですからね・・・ああ、神の加護がまだ相当に残っていますね。私でも分かる程に。必死になるはずです。これではどうやら即座に破壊はできませんか。でも、時間経過で残留している力は消失するようですね。さて、愚兄は来ますかね?」


 メーニャはここに魔族の悲願を果たし部屋から退室して行った。


 そのメーニャの胸中には何らの感慨も感動も歓喜も感想も一切無かった。

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